(規制緩和して情報公開すれば、コストを下げて、安全性をあげることができます)
ここでは、画一的な規制ルールの例として、船舶の安全管理規程を考えます。
北海道・知床半島の沖合で乗客乗員26人が乗った観光船「KAZU I(カズワン)」が消息を絶った事故は、最近では、最も大きな海難事故です。
2022/04/28現在、原因究明がすすめられています。
原因究明は、次の2点を中心にすすめられると思われます。
(1)過去の事故のよる船体の破損の影響、無線機などの機材の不備の可能性
(2)天候悪化する可能性が大きな時の出航判断
過去の事故に対する対応を見ていると、原因究明が進めば、その結果を受けて、同様の事故の再発防止のために、安全管理規程の改訂等の規制または、行政指導の変更が行われると思います。
しかし、安全管理規程は、画一的なルールなので、季節、地域による差を反映しません。
画一的な規制ルールは、前提として最低限の条件を提示することになりますが、事故が起こるたびに、グレードアップが行われます。そして、それは、コストに反映されます。
データサイエンスから見れば、画一的な規制ルールに合理性はありません。安全管理規程が、遊覧船の安全性を向上させる唯一の方法ではありません。
また、安全管理規程を守って入れば、事故が絶対に起こらない訳ではありません。
2022/04/27の読売新聞は次のように、伝えています。
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国土交通省の担当者は27日夜、桂田社長の会見を受け、「(条件付きの運航という)考え方は基本的にはない」と述べ、安全管理規程で運航の中止基準とした荒天が予想される場合、出航は出来ないとした。
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この担当者の発言から、担当者は、安全管理規程を中心に事故を考えていることがわかります。
国交省は、小型旅客船の安全対策検討委員会をつくるようなので、安全管理規程が更に、厳しくなると思われます。
事故が起こるたびに、安全管理規程などの規制を厳しくしていくと、書類作りや、検査に追われるようになります。こうした規制を厳しくすれば、チェックをしたという書類(証拠)作りを優先するようになり、結局、書類の捏造を生み出します。それは、自動車の燃費や、排ガス規制で繰り返されています。
「荒天が予想される場合、出航は出来ない」というのは、船長や運航会社の判断です。
安全管理規程を厳しくすれば、安全管理規程をいい加減に扱う場合が増えるだけで、安全性が上がるとはかぎりません。
今回も、漁船は、出航を中止していますから、常識的な判断がなされていれば、安全管理規程に問題があったとは思われません。
規制を強化する場合には、規制を強化したら、安全性があがるというエビデンスのない盲信に基づいています。
安全管理規程では、点検を義務付けていると思います。自動車学校では、ボンネットを開けた点検手法を学習しますが、一般のユーザーで、毎日ボンネットを開けている人はいません。商用車では、点検を義務付けていますが、自家用車と同じようにモニターの精度が高ければ、ボンネットを開けて点検する効果はほとんどありません。一方では、今回の遊覧船がGPSの運行補助器をつかっていたかが、論じられていますが、こうした安全性を高める新しい技術は、規制の対象外です。規制方式は、技術進歩についていけない訳です。
安全性をあげるためには、規制強化より、情報公開をすすめた方が効率的だと考えます。
旅行に行くときに、宿泊予約サイトを使う場合も多いと思われますが、そこには、安全性の情報がありません。こうしたサイトが、安全性の情報を掲載すれば、旅行者は、その情報を基に、宿泊先をきめるはずです。
ランクを決めて、AA、A、Bといった風に表示すれば、事業者は安全性の向上に努力するはずです。バス、船などの交通機関の安全性も表示できるはずです。現在は、バスであれば、「座席定員の半分の乗車で、ゆったり座れます」といった情報しか、提示されていません。
過去に、運転手が睡眠不足で事故を起こした例もあります。エアラインではあれば、最近の平均事故率のランキングが公開されています。こうした情報があるので、格安航空会社の飛行機がよく落ちると思う人はいません。
今回の観光船は、最近、事故や、機器の整備不良が発覚していますので、安全性レベルは、Cになったはずです。
高級(高額)自動車は、衝突時の安全性は、安価な小型自動車より高いはずです。
安全には、それなりのコストがかかるので、その点を情報公開しないと、ルール破りが発生するリスクがあります。
規制は、経営規模が小さいと簡略化されます。
小型旅客船の安全対策検討委員会をつくるとありますので、小型旅客船は、中型、大型より緩やかな規制になっているものと思われます。
これは、小型の方が、コスト高になることを配慮しています。
2階建てのホテルでは、非常階段がないこともあります。これは、梯子車の梯子が届き、シュートで脱出できるためと思われます。情報公開があれば、経営者が、特に安全性に配慮した場合に、その特徴を、セールスポイントにできますが、規制方式ではできません。
日本の一人当たり収入は、先進国の中では、劇的にさがっています。
地方では、過疎化で人口が減って、売り上げが減少しています。
こうした状況の中で、従来と同じように、規制を強化すれば、コストを積み増してしまいます。それは、売り上げの低下に繋がり、地方経済を更に圧迫します。
規制より、情報公開に切り替え、官が、過剰な規制をかけない方が、安全で、経済的になるはずです。
なお、今回の事故報道でわかったことは、救急連絡は、例外的に、別の船の船長が行っています。現在の遊覧船の安全システムには、国土交通省と遊覧船しかありません。事故が起これば、他の遊覧船も影響を受けますから、斜里町などに権限を委譲して、町が支援する組織単位で、安全活動をするルートが閉ざされています。気候条件は、地域で異なりますので、全国画一にするメリットはありません。
引用文献
知床遊覧船の社長、出航は「結果的に間違っていた」…打ち合わせでは「海が荒れたら引き返す」 2022/04/27 読売新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/eded359a238e5dde11759a9c2402cc062cddcf5c
国交省、小型旅客船の安全対策検討委を設置 知床観光船事故受け 2022/04/28 毎日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/b5c204db03edbd78642db40a3d4629d59860eb29