OMBのRegulatory Impact AnalysisのA4サーキュラーとCOSOのガイドライン

カーネマンの「ノイズ」を読んでいたら、「行政管理予算局OMBのRegulatory Impact Analysis(規制の事前評価)のA4サーキュラー」が、米国では、規制を変更する場合の基本ルールであるとかかれていました。

調べた限りでは、この文書に言及した日本語は、見つかりませんでした。

この文章は、OMBへの提出資料を作成する方法について、OMBがまとめたものです。法的な拘束力はありませんが、このガイドラインに従っていないと、OMBは書類不備として、書類を受け付けてくれません。

OMB(Office of Management and Budget、行政管理予算局)は、1970 年に発足した大統領府に属する機関で、連邦政府全体の予算と行政管理に関する権限を有します。連邦予算の総括部門では、議会に提出する大統領予算案を編成するとともに、各省庁の予算執行を監督します。OMBによる予算編成業務は、日本でいえば財務省主計局の機能に相当すると言われています。

米国においては、予算編成権は行政府ではなく立法府にあり、OMBが中心となって取りまとめる大統領予算案は議会では参考資料と受け止められます。議会には、附属機関としてCBOがあり、政策のコスト推計などを行っており、議会に情報を提供しています。

「OMBのRegulatory Impact AnalysisのA4サーキュラー」では、規制緩和などのルール変更に伴う代替案を含めた費用対便益の比較などを資料に添付することが求められています。

金融庁は、RIAを試しに行ったと書いていますので、RIAがないと規制の変更ができない米国とは、大きな開きがあります。

2021/12/25のロイターによると、経産相が、「三菱電の品質不正、あまりにも怠慢で企業体質に問題」があるといったそうです。

2021/12/16の現代ビジネスによると、日大の不祥事をうけて、2021/12/13に「学校法人ガバナンス改革会議」が提出した、『学校法人ガバナンスの抜本的改革と強化の具体策』に、学経営者が抵抗しているといっています。

「中堅私立大学の経営者団体である日本私立大学協会は、『現行の規定においても評議員会の理事会に対する牽制機能は有効に機能していると言える』という水戸英則常務理事(二松学舎理事長)の見解を公表し、改革に真っ向から反対している」そうです。

2021/02にPwCあらた有限責任監査法人会計検査院の委託調査の報告には次のように書かれています。


アメリカ及びイギリスにおいて内部統制に関する状況が変化してきている中で、これらの政府における内部統制に関する日本語の資料は、我が国の会計検査院が2009年度にアメリカ、イギリス、ドイツ及びフランスの内部統制について調査した以降極めて限られている。本調査は、こうした諸外国の状況を背景として、我が国の公会計及び会計検査・監査制度の参考に資するため、アメリ連邦政府及びイギリス中央政府における内部統制・リスク管理・ガバナンスの位置付け、実施状況、動向、会計検査院の役割や検査事例について整理・分析を行ったものである。


キーワードは、内部統制で、会計検査は、その一部にすぎません。

内部統制の共通ルールは、COSO(コーソー、コソ、トレッドウェイ委員会支援組織委員会)が作成しています。

COSOは、2013年5月に新フレームワークを公表しています。

前のフレームワークは、1992年に出ています。

protivitiのページに載っている、FAQが分かりやすいので、一部を引用します。


なぜ1992年のフレームワークが改訂されたのか?

「どこも悪くないものを、変にさわるな」。この古い諺のように、現行フレームワークに関する次の疑問が湧いてくる。

「現行フレームワークは、どこか悪かったのか?」その答えを一言で言うと、悪かったわけではない。継続的な改善を進めるという観点から、COSOは過去20 年間に渡る変化を受けて、フレームワークの改訂を決断したものである。


これを、見れば、日本私立大学協会の「現行フレームワークは、どこも、悪くない」という説明は、不誠実です。

そもそも、COSOのガイドラインがありますから、「学校法人ガバナンスの抜本的改革と強化の具体策」という屋上屋を架す必要はありません。

「学校法人ガバナンス改革会議」と「トレッドウェイ委員会支援組織委員会」のかけた時間と労力を比べれば、問題がわかります。

COSOのガイドラインに従っていけば、「三菱電の品質不正」は起きません。議員の後押しで、土俵際で、予算が変わることもありません。米国では、ロビー活動は盛んですが、資料作りなどの手順は踏んでいます。「北京五輪事実上『外交的ボイコット』」で、経済界が苦悩することもありません。企業姿勢の白黒は、その前に決まっています。

2021/12/23の産経新聞は、次のように伝えています。


半導体大手インテルは12/13に、仕入れ先に中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区の製品や労働力を使わないよう求めていたことについて「尊敬する中国の取引先や協力パートナー、公衆を困惑させた」と中国の会員制交流サイト(SNS)で謝罪しています。(中略)

米議会上院は12/16に、同自治区を産地とする物品輸入を全面的に禁じる「ウイグル強制労働防止法案」を全会一致で可決しています。


このように、COSOももちろん万能ではありませんが、インテルが、リスクをとっていることは明白になっています。

COSOのガイドラインに従っていれば、桜を見る会の問題や、赤城文書の問題もありえません。

日本でも、COSOのガイドラインは、翻訳されて、勉強会が開かれています。

しかし、実際問題として、COSOのガイドラインが実施できている組織は少ないと、思われます。

筆者は、その理由は、COSOのガイドラインは、ジョブ型雇用で、各人のジョブが明確化され、分離されていることが前提であるからだと考えています。

COSOのガイドラインは、17項目からできていますが、デジタル化もその1つに入っています。つまり、デジタル化しなければ、内部統制の共通ルール違反とみなされます。

これと「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン実践ガイドブック」を比べると、隔世の感があります。

なお、内部統制では、コンプライアンスだけが重視されているという誤解があります。COSOでは、次の3つの目的のカテゴリーを提示しています。

  • 業務目的─これらは,業績目標および財務業績目標の達成および資産を損失から保全することを含む,事業体の業務の有効性と効率性に関連している。

  • 報告目的─これらは,内部および外部の財務および非財務の報告に関連しており,規制当局もしくは認められた基準設定主体により,または,事業体の方針として明らかにされる信頼性,適時性,透明性またはその他の観点を含むものである。

  • コンプライアンス目的─これらは,事業体が法律および規則を遵守することに関連している。

つまり、業務目的からすれば、COSOを使って、労働生産性を上げることも、内部統制に含まれています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/5528ac288eac728a56225ff8e13d6e7831fc0651

  • 北京五輪事実上「外交的ボイコット」 経済界は苦悩 2021/12/25

https://news.yahoo.co.jp/articles/9dad6bbb5f7420011488820489eebb9dccca7291

  • 三菱電の品質不正、あまりにも怠慢で企業体質に問題=経産相 2021/12/25 ロイター

https://news.yahoo.co.jp/articles/e129032803e7db53751c9498bc38e115d53afa36

  • 大学にガバナンスは要らない?監督強化に抵抗する理事長たちの理屈 2021/12/16 現代ビジネス

https://news.yahoo.co.jp/articles/fae6d58228d60a80e7edcc38c692da8e4dcd989d

インテルが中国で謝罪 新疆製品の不使用要請で 2021/12/23 産経新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/e49846c585f97e3e70f3cd3f0ba6728b61ffb4bd

  • 2013 Internal Control – Integrated Framework COSO

https://www.coso.org/Pages/default.aspx

https://www.protiviti.com/JP-jp/insights/revised-coso-internal-control-framework-faq

https://www.pwc.com/jp/ja/assurance/seminar/2013/assets/pdf/coso-internal-control130531-02.pdf

  • 改訂版COSO内部統制フレームワークの内部監査での活用事例 2015/11 日本内部監査協会

https://www.iiajapan.com/pdf/kenkyu/0141511_1.pdf

https://jicpa.or.jp/news/information/docs/5-99-0-2-20160112.pdf

https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/risk/articles/rm/coso.html

  • Circular A-4, Regulatory impact Analysis 17/09/2003

https://www.regulationwriters.com/downloads/Circular-A-4.pdf

https://www.whitehouse.gov/sites/whitehouse.gov/files/omb/circulars/A4/a-4.pdf

https://www.reginfo.gov/public/jsp/Utilities/circular-a-4_regulatory-impact-analysis-a-primer.pdf

  • 規制の事前評価(RIA) 金融庁

https://www.fsa.go.jp/seisaku/18ria.html

  • 米国の予算編成に係る調査機関の役割 上原啓一

https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h28pdf/201614902.pdf

https://www.jbaudit.go.jp/koryu/study/pdf/itaku_r1_1.pdf

  • デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン実践ガイドブック 2021/03/30 内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室

https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/jissen-guide_ikkatsu_20210330.pdf