2030年には、世界のガソリン車の新車販売が、ゼロになる理由

ノルウェーでは、ガソリン車、ディーゼル車の新車販売を2025年までには、ゼロにする計画でしたが、現在のトレンドが続けば、2022年の前半までに、新車販売が、ゼロになると予測されています。

EUは、2035年に、ガソリン車を禁止する法案を成立させていますので、これから考えると、2030年には、ガソリン車の新車販売がゼロになると考えます。(なお、国によっては、2030年に廃止なので、更に、前倒しになりますが、煩雑になるので、ここでは、2035年で考えます)

その理由は、簡単で、ガソリンスタンドがなくなるからです。ノルウェーで、2022年にガソリン車の新車販売がゼロになっても、ガソリン車の耐用年数を10年とすれば、2032年までは、ガソリンスタンドは、残ります。しかし、単純に新車に占める、ガソリン車とディーゼル車の比率が、ガソリンスタンドの残存比率に比例すると考えれば、2031年のガソリンスタンドの残存率は、2021年の比率の10%以下になります。つまり、2031年頃に、ガソリン車で、国境を越えて、ノルウェーに行った場合、ガソリンスタンドを見つけることが難しい状態になります。一方のEVであれば、電気の来ているところであれば、エネルギー補給に、問題はありません。ホテル等の宿泊施設は、夜間の駐車台数に合わせた充電施設を設置しています。

つまり、ガソリンスタンドが減少して、EVスタンドが増えた時点で、ガソリン車を買うことは、耐用年数の終わり頃の10年後に、ガソリンスタンド不足に悩むリスクを抱えることになります。

そうなると、あえて、ガソリン車を選ぶことは、価格上の優位がなければ、あり得ません。

こうして、ガソリン車が売れなくなると、ガソリンスタンド不足のリスクは、更に高くなります。これが、フィードフォワードループで、変化が加速度的に起こる要因です。

EUで、2030年までに、ガソリン車の新車販売がゼロになるとして、世界市場で、一番影響の大きいのは、中国市場です。中国も2035年までに、ガソリン車の廃止を決めています。更に、米国とカナダの一部の州も、追従しています。

ガソリン車が、世界的に売れなくなると、量産効果が効かなくなるので、ガソリン車は割高になります。これもフィードフォワードを強化する要因です。保守点検をできる人も減りますので、修理や点検できる場所も減ります。

世界の家電製品のシェアで中国製品が伸びたように、中国は、50万円EVで、世界のEV市場のシェアを獲得する可能性があります。特に、軽自動車や小型自動車に市場では、競争力があります。

2030年にガソリン車の新車販売が、ゼロにならない条件は、次ですが、条件成立はグレーです。

1)耐用年数の終わり頃の2040年に、ガソリンスタンドの数、点検修理できる場所が十分確保されると予想できること

2)2030年のガソリン車の新車価格が、EVよりも、大幅に安いこと

2021年時点で、ガソリン車の販売中止を決めたホンダは、その時期を2040年に設定していますが、仮に、日本政府が、ガソリン車の販売中止を2040年に設定したとしても、フィードフォワード効果を考えれば、世界平均の変化速度に取り残されることはないでしょう。売れる製品と売れない製品を比べて、代替性がある場合に、無理をして、売れない製品をつくることはありません。その場合、EVは、ガソリン車産業で働く人数だけの雇用の確保はできません。こうして、自動車関連産業の雇用は減少するので、解雇と再教育に対して、早めに手を打たないと経済に致命的なダメージを生ずることがわかります。

現在の日本政府は、2050年のゼロエミッションに対して、ロードマップを描けていません。EVをどのように、組み込むかは、これから進める予定です。

全自工は、10月に、政府に働きかけるレポートを提出する予定です。現在の情報では、レポートは、雇用維持のために、ガソリン車の廃止をできるだけ、遅らせることを推奨するようです。しかし、世界の自動車市場を考えれば、この方針は、市場経済を無視しています。売れないものは作れません。

もちろん、EVの電気を何でつくるかという問題は、グレーです。しかし、EUと中国が、EVに方針を切り替えた時点で、そのことを議論する時期は過ぎています。EVへの切り替えが、本当にゼロエミッションのためであったか、自国の産業保護のためであったかは、グレーです。しかし、自動車市場のルールは、元には、戻りません。このグレーさは、問題提示のスタートから温暖化問題についている特徴で、簡単には、無くなりません。

フィードフォワード効果を考えれば、切り替えが決定的になるのに要する時間は、5年くらいです。これは、電報からファックスへ、ファックスからEメールへ、フイルムカメラからデジカメへ、デジカメからスマホへ、SPレコードからLPレコードへ、LPレコードからCDへ、CDからネット配信へ、電球が蛍光灯に、蛍光灯がLEDに、などの過去の規格の入れ替えを見れば、わかります。

フィルムカメラは、フィルムと電池があれば、使えました。クラシックカメラでは、電池も不要でした。しかし、ガソリン自動車の場合には、ガソリンがどこでも簡単に給油できなくなると、実用的な価値は無くなります。

2030年に世界のガソリン自動車の新車販売がゼロになるシナリオの実現確率は高いといえます。

 

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