テスラ経営の目標

1)テスラに対するマスコミの課題



テスラの2023年7-9月の出荷台数は約1年ぶりに減少しています。

 

米テスラが、生産過剰に陥り、在庫が増えて、価格値下げをしています。利益率が急激に下がり、経営の自由度が下がっています。

 

これをもって、販売店をもたないテスラの経営に問題があるという分析をする専門家(評論家)もいます。

 

しかし、イーロン・マスク氏が、生産過剰の可能性を考えていなかったとは思えません。



経営に対するイーロン・マスク氏の考え方は、テスラ、X、スペースXでも共通していると思います。

 

テスラは、ベンチャーですから、コアな技術部分を残して、残りの部分を既存の自動車メーカーに売却する可能性もあります。

 

ベンチャーは技術優先企業ですので、量産体制の維持には向きません。

 

どこまで、量産体制の企業に進むべきか、企業を売却すべきかは、ケースバイケースです。

専門家は、過去のトヨタや、VWの事例を並べて、その帰納法で得られたルールにしたがっていないので、テスラは成功しないと結論づけます。

 

しかし、イーロン・マスク氏のビジネスは、帰納法にとらわれない新しいビジネスモデルを構築することです。

 

帰納法にとらわていれば、スペースXを作ることはありません。

 

自動車メーカーは、テスラを含めて、垂直統合であって、水平分業ではありません。

 

論点は2つあります。

 

第1は、今後のEVの動向の分析です。

 

第2は、タイトルにもある経営の目的です。

 

2)EVの生産動向

 

2022年の世界のEV生産台数では、BYDはテスラを超えています。

 

2023年7-9月期の完全EV販売台数は、BYDが前期比23%増の43万1603台、テスラが43万5059台で、両社の差は3456台と過去最小になっています。(中国BYD、EV販売世界一の座に迫る-テスラの販売減少で 2023年10月3日 Bloomberg

 

統計のバラツキは、EVの定義にあると思われます。

 

2023年11月現在は、BYDとテスラの生産台数はほぼ互角、伸び率は、BYDが圧倒的高いと整理できます。

 

テスラの販売台数の増加が止まっています。が、その原因を、テスラが、ガソリン自動車に勝てないことに求める専門家がいます、しかし、テスラの当面の課題は、BYDとの競争に生き残ることであると思われます。

 

AUTORISENは、「EVの販売戦略で中国メーカーに価格競争で勝つことは今の時点ではほぼ不可能です。なぜなら中国メーカーはEVに必要なレアアース等の材料を全て自国で賄えるからです」といっています。

 

つまり、レアアースの調達コストが、EV価格を決めているという仮説です。

 

2023年/11月14日のNewsweekで、アーディル・ブラー氏は、次の様に述べています。(筆者要約)

 

中国商務省は2023年11月7日、輸出業者に対し、レアアースの輸出先などを報告するよう義務付けると発表しました。ただし、現段階では輸出数量制限は導入されていません(どの種類のレアアースが報告義務の対象となるかは明らかにされていません)。この措置は、今後少なくとも2年間継続します。

 

国際エネルギー機関(IEA)の統計によると、中国は、レアアースの採掘で世界の60%、加工で87%という圧倒的なシェアを占めています。

 

2010年に、東シナ海尖閣諸島の領有権問題をめぐり日本との緊張が高まったとき、日本へのレアアース輸出を停止しました。トヨタやホンダなどの日本の自動車メーカーはこれをきっかけに、新しいハイブリッド・モーターを開発し、レアアースへの依存を大きく減らしたり、完全になくしたりしました。

 

したがって、中国のレアアースが無ければ、EVが作れないことはありません。

 

しかし、EVの製造コストでは、中国のレアアースが有利な可能性があります。



この仮説が、正しければ、テスラはなかりの苦境にあります。



日本の自動車メーカーは、テスラよりさらに、悪い状態にあるといえます。

 

この時期に、円安で、自動車メーカーは、過去最大の利益をあげていますので、経営方針を転換することが極めて難しくなります。

 

後世の歴史家は、円安が、改革放棄という日本企業に致命的なダメージを与えたと評価するかも知れません。

 

丸川知雄氏が、BYDの増産に関する記事を書いています。(以下筆者の要約)

 

 

自動車の組立工場は年産20万台の能力を持つ。

 

BYDが、図1のように年42万台から年188万台に拡大するには、年産20万台の7つの新工場が必要になる。トヨタが一つの工場を新たに立ち上げるには数百人のエンジニアが必要になる。BYDに多くのエンジニア確保する実力があったとは考えにくい。

 

これから、トヨタの時代に比べ、新工場の開設の条件が容易になる方向に変化したと考えられる。その要因は以下と推測する。

 

(C1)BYDは生産拡大に対応できるよう工場を増設できた。(前提)

(C2)EVの内部構造が通常のガソリン自動車よりも簡単であるため、組立ラインが短くて済むメリットがあった。

(C3)BYDがすすめたEVの内部構造をより簡素にするためのモジュラー化に効果があった。

(C4)BYDは広範な自動車部品を子会社で作っている。BYDは車載電池の有力メーカーであるが、その他に自動車用ランプとミラー、サスペンション、ワイヤーハーネス、シートベルト、金型(日本のオギハラの館林工場を買収した)、車載ICなど子会社で作っている。

 

日本では、自動車メーカーは、ランプは小糸製作所、ワイヤーハーネスは、矢崎総業、シートベルトはば東海理化といった専門メーカーから調達しているが、BYDはこの部品まで垂直統合している。

 

BYDは2023年には生産台数をさらに2倍にして、年産360万台を目指している。BYDのEV生産能力は現状でも290万台分あるので、供給能力の面では2倍増はでる。問題は需要である。2023年1~3月の生産実績は56万台で、昨年同期より94%多いが、さらに尻上がりに生産を増やさないと300万台を超えることは難しい。(筆者注:2023年5月時点の評価)

 

(筆者注:2023年1~3月の生産実績は69万台でした。同じ増加比率で、計算すると、2023年の4半期毎の生産台数は、56万台、69万台、85万台、105万台となり、合計は315万台になります)

 

日本メーカーは出遅れているが、メディアの責任も大きい。マツダの経営者の決断が遅かったためEVシフトに乗り遅れてしまったのだが、こともあろうに『日経ビジネス』はそれを「逆張り戦略」だなどと持てはやしている。

 




 

 

垂直統合か、水平分業化は、どちらが良いというものではなく、条件に合わせて、ベストな組合せを使うべきです。

 

この場合、年功型雇用で組織が硬直化すると、垂直統合か、水平分業化かを選択する自由度がなくなって、経営が困難になります。

 

自動車は、部品数が多いので、モジュール化が有効です。その場合、1つのモジュールは、1つの企業内で、完結しますので、水平分業は不適になります。

 

BYDが極度の垂直統合を行っていることと、モジュール化は対応しています。



図1は、中国国内の販売台数です。



テスラが不振になるのであれば、日本の自動車メーカーは倒産するかもしれません。

 

3)経営の目的

 

企業の経営目的は、株主利益の確保です。

 

これは、売り上げから、費用を引いた、利益で評価することができます。

 

あるいは、株価で評価することができます。

さらに、ROEなどの指標を使うこともできます。

 

しかし、この通説には問題があります。

 

第1に、株価は、将来の期待に対して生じる評価を含みますので、直接の経営の目的にはなりません。



2023年は、円安で、空前の利益をあげている日本企業も多くあります。

 

赤字でないことは、良いことですが、それだからと言って、日本企業の経営が理想的な状態にあるとはいえません。ドル建ての輸出は、殆どのびていませんし、競争力ランキングは、極めて低くなっています。

 

こう考えると、日本企業と政府は、企業経営の目標を失っているいように見えます。

 

テスラ、X、スペースXの経営の目的は、利益でも、株価でもないように見えます。マスク氏の経営では、Xをみれば、経営の目的は、利益でも、株価でもないことは明らかです。

 

マスク氏は、Xの赤字体質の排除を目的としていますが、利益をあげることが目的であれば、Xの経営に着手するメリットは大きくありませんでした。

 

アマソンをリタイアしたベゾフ氏の場合も、企業の利益を確定するよりも、先行投資を優先していました。

 

TSMCは、モリス・チャン(Morris Chang、張忠謀氏が、10年以上の時間をかけて、作り上げた半導体の新しいビジネスモデルです。

 

これらの、長期政権の経営者の場合、経営の目的は、ビジョンに従った新しいビジネスモデルの構築にあるように見えます。

 

ビジョンに従った新しいビジネスモデルは、今まで世の中にないものですので、帰納法によつ推論や、前例主義では生みだすことのできないものです。

 

日本では、ホンダがジェット機を販売していますが、自動車メーカーがジェット機を製造販売した前例はありません。しかし、ビジョンをかかげて、ビジョンにむけて、時間をかけて、前進することで、ジェット機の製造販売という新しいビジネスモデルを構築しています。

 

最近の経済新聞にのっている日本企業の経営は、先行事例のコピーと追跡ばかりいなっています。

 

これから、日本の企業経営は、目標を失っているように見えます。




引用文献

 

テスラ、7-9月の出荷台数は約1年ぶりに減少-年間目標は維持 2023/10/02 Bloomberg

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-10-02/S1WKV1T0AFB401



世界のEV生産台数、BYDがテスラを超える|中国EVメーカー恐るべし 2023/04/22 AUTORISEN

https://riesen.co.jp/26394

 

突然躍進したBYD 2023/05/18 Newsweek 丸川知雄

https://www.newsweekjapan.jp/marukawa/2023/05/byd.php



中国「レアアース輸出管理強化」の背景には何があるのか?その効果と企業が取れる対策とは 2023/11/14 Newsweek アーディル・ブラー

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/11/post-103030.php