アイリスオーヤマがEVを作る日

9月から10月の1か月の間に、EV関連の記事が、集中してあらわれました。

ここで、問題点を整理しておきます。

 

2021/09/04のotona x answerは、次のように伝えています。


トヨタ自動車豊田章男社長が「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べたというニュースが以前、話題になりました。「終身雇用時代の終了宣言」ともいわれ、「会社が一生面倒を見る」社会が崩れていくことを、はっきりと認めたわけです。


つまり、豊田社長は、内心は、終身雇用はやめたいといっています。

 

021/09/07のDiamond onlineは、GAFAの株式時価総額を、次のように伝えています。


8月末、米国のグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン(GAFA)の株式時価総額が、日本株全体の時価総額を上回った。


これをみると、日本企業が、技術革新に取り残されていること、恐らく、終身雇用がその一因になっていることが推測されます。

 

2021/09/09のロイターは、日本自動車工業会自工会)の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)の9日の会見を次のように紹介しています。


日本のエネルギーと自動車産業を軸にした課題について「プラクティカル(現実的)、かつ、サステナブル(持続可能)な観点で」まとめた報告を( 日本自動車工業会が)来月公表する方針を明らかにした。(中略)

10月に公表する報告では「国内生産1000万台を維持し、雇用を守りながら日本の発展に貢献し続けるため、まず自動車産業として必要なエネルギー、CO2排出量を整理し、いつ何がどれだけ必要かという原単位を明確にしていきたい」と述べた。

その上で「どれだけ投資や研究開発が必要でコストはどうなのか。自動車生産の競争力は維持できるのか。国内での事業性が成り立たない場合、国から何か支援策を期待できるのか。その財源はどうするのか。このような課題を提示し、議論のきっかけをつくっていきたい」と語った。


 

これは、かなり危ない話です。豊田会長は、内心は、「終身雇用はやめたい」のでしょうが、労働組合との関係もあり、「雇用を守りながら日本の発展に貢献」を掲げています。10月にレポートが出た時点で、議論がおこるでしょう。

年功型雇用(終身雇用)とジョブ型雇用の優劣を比較する人もいますが、筆者はナンセンスだと考えます。終身雇用は、採用した人すべてで、チームを作ります。これは草野球チームです。ジョブ型では、給与が払えれば優秀な人をスカウトしてチームを作ります。これは、プロ野球チームです。どちらが強いかは、試合をする前からわかっています。技術革新が急速に進む場合には、終身雇用では勝てません。

さて、今回のタイトルは、「アイリスオーヤマがEVを作る日」です。

EVの動向をみておきます。

 

2021/09/14のロイターは、トヨタ自動車の次の発言を紹介しています。


トヨタ自動車は13日、米民主党が提案した電気自動車(EV)に対する税控除拡充案について、国内の約半数の自動車労働者を差別していると批判した。


これは、かなり深刻です。文面を見る限り、トヨタ自動車は、EVで勝てないといっています。「電気自動車(EV)に対する税控除拡充案」は、どの企業も対象にしていますので、トヨタ自動車もEVに切り替えれば、その恩恵を受けることができます。しかし、それはしないか、できないといっています。

 

2021/10/02の日刊工業新聞は、次のように伝えています。


 車載電池価格は下がってきてはいる。英調査会社IHSマークイットによると、車載用リチウムイオン電池の平均価格は2012年から20年にかけて82%下がった。23年には1キロワット時当たり97ドルと、100ドル以下になると予想する。ただ、まだ手放しで喜べる状況にはない。

 日産自動車三菱自動車は、共同開発中の軽EVを22年度初めに発売する計画。補助金を考慮した実質価格は約200万円からを想定する。軽で200万円は“高級車”だ。EVの大衆化には、電池のさらなるコスト低減が不可欠だ。

 「日本の電池メーカーは崖っぷちだ」。6月、自民党本部で開かれた電池産業の振興を目指す議員連盟の設立総会。講演した旭化成の吉野彰名誉フェロー(2019年にノーベル化学賞受賞)は日本の電池産業の現状について危機感をにじませた。


 

つまり、日本のEVはとんでもなく高いのです。

2021/10/02のくるまのニュースによれば、中国の売れ筋のEVは、50万円くらいだそうです。このレベルでは、エアコンは、ついていないので、日本の消費者に合わせるには、グレードアップが必要ですが、それでも100万円あれば、おつりが来ます。

トヨタは、水素自動車を推進していて、2014年の初代ミライは、741万円でした。2020年12月に発売した2代目ミライの価格は710万円です。

テスラは、2012年6月に、モデルSを7万7400ドル(およそ900万円)で発売しています。

テスラは、2021年2月にモデル3の価格を3万5000ドル(429万円)に引き下げました。国や自治体がEV購入に支給する補助金を加えれば300万円台から買えます。

もちろん、2車種のグレードは違います。しかし、最低価格の車種が普及のカギになります。テスラは、3年以内には価格2万5000ドルの車種を投入するといっています。

つまり、「車載用リチウムイオン電池の平均価格は2012年から20年にかけて82%下がった」効果が、EVの価格に反映しています。

一方、水素自動車の価格は変わっていません。

トヨタの水素自動車は、価格が下がっていませんので、このまま、価格が下がらなければ、いつ撤退するかを判断する時期に来ていると思われます。

 

2021/09/21に、志葉玲氏は次のようにいっています。


最先端を行くノルウェーは昨年の新車販売で電気自動車が全体の半分を上回った。同国は、2025年までに全てのガソリン車/ディーゼル車の新車販売を終了させるとしている。大手自動車メーカーを抱えるドイツ、高級車やスポーツ車のメーカーを擁するイギリスも2030年には、ガソリン車/ディーゼル車の新車販売ができなくなる。しかも、これらの規制対象には、ハイブリッド車も含まれる。


 

今月になって、トヨタは、立ち乗り電動3輪車を発売しています。これは、30万円台です。

電動 キックスクーターなら、2万円で買えます。

立ち乗り電動3輪車は、この価格帯では売れません。

 

さて、話をタイトルに戻します。

中国の50万円のEVと勝負できるメーカーが、日本にあるとしたら、それは、日産自動車トヨタ自動車ではなく、アイリスオーヤマです。アイリスオーヤマは、「雇用を守る」必要がありませんので、ロボットを使った全自動工場で、部品を組み立てることができます。その結果、LEDを、大手家電の3分の1の価格で作ることが出来ました。この価格は、中国の大連工場の生産を、一部、日本国内に移しても利益がでるレベルです。

同様に、EVでも、価格を3分の1にできれば、現在の200万円が、70万円になります。この価格帯であれば、中国のメーカーと勝負になるでしょう。

アイリスオーヤマが、自動車を作れるだろうかと思われるかもしれません。しかし、中国のEVメーカーよりは、アイリスオーヤマの技術レベルは上です。中国で作れるものであれば、アイリスオーヤマは作ることができます。EVの自動車の製造は、エンジン車に比べ、簡単なのです。

この上のグレードであれば、テスラが200万円台で自動運転付EVの攻勢をかけて来るはずです。

テスラは、「3年以内には価格2万5000ドルの車種を投入する」と言っていますので、3年後には、この状況になるでしょう。

そうなると2030年までには、新しい勢力地図が出来上がっているでしょう。

日本自動車工業会自工会)の10月のレポートに、この問題に対する対応策が含まれていない場合には、日本の自動車メーカーの生き残りは、困難と思われます。

10月のレポートを待ちたいと思います。

 

 

  • 「キャリア開発」を社員の自由に委ねることは、本当に会社のためになるか 2021/09/04 otona x answer

https://news.yahoo.co.jp/articles/7e66faf0593e59ee03152b9a2616aafca6da2746

https://news.yahoo.co.jp/articles/2563b304950ff9769dd1bcc6677924134447b4e3

https://news.yahoo.co.jp/articles/a9588860c684ae53bcb1ef365abe9cb00cb4a676

  • トヨタ、米民主のEV税控除拡充案は「労働者差別」 テスラも反発 2021/09/14 ロイター

https://news.yahoo.co.jp/articles/fec96d7d6651dc5fbf09ac87331e2bd6cd194269

  • 世界的なEVシフトへの挑戦:水素カーは対抗の切り札になるか? 2021/09/17 nippon.com 宇野 貴文

https://news.yahoo.co.jp/articles/743bb34557deeabf0fa90f6cf78522bf3d63aa89

https://news.yahoo.co.jp/articles/8a5b3ff87c02da0e2cb2ff4d4602a9a142d68400

  • 雇用維持へ「脱炭素対応」 全トヨタ労連が定期大会 2021/91/17 KTODO

https://news.yahoo.co.jp/articles/b08128f707800398c4e84cdc2536253b5042c01d

  • 自民・河野氏トヨタ社長が火花?!「電気自動車だけでない」発言に「誤った戦略にならないよう」と返す 2021/09/21 志葉玲

https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20210921-00259351

  • 元テスラ社員が立ち上げた「自動運転トラクター」企業の実力 2021/09/25 Forbes Japan

https://news.yahoo.co.jp/articles/49d4a5517192ec45d6666be04205ea1c3ddfa04d

  • トヨタ豊田章男社長「EV一辺倒」に危機感の波紋 政府の「脱炭素」方針を痛烈批判 「輸出と雇用を失う」 2021/09/25 夕刊フジ

https://news.yahoo.co.jp/articles/5429571d0282448738e31706f959a8ff116b64bd

  • 水素仲間が日本を救う!? トヨタカワサキが実験中の壮大すぎる野望とは? 2021/10/01 ヤングマシン

https://news.yahoo.co.jp/articles/66838e80ae3b18a056d3a2541ad94eb806de9469

  • トヨタ、立ち乗り電動3輪車発売 2021/10/01 レスポンス

https://news.yahoo.co.jp/pickup/6405897

  • 国内メーカー「崖っぷち」。車載電池・価格競争の行方 2021/10/02 日刊工業新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/39f7f9c40a88cab9b0452322e83aa3c0672bb194

  • 100万円台の「軽EV」出る? 政府は補助金強化も検討! 課題多いEV普及の必要性とは 2021/10/02 くるまのニュース

https://news.yahoo.co.jp/articles/ad3ff64e534f0b8ff4d8ad4fb5eef8d95e033ec1?page=1

 

 

 

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