人口減少と産業構造(13)

社会構造の変化の予測(3)

3)年功型雇用

年功型雇用は、超過利潤システムと結びついています。年功型雇用は、賃金の後払いになります。企業が、潰れてしまうと、後払い分は、もらえなくなります。2000年頃までは、大企業は潰れない、後払いの賃金をもらい損なうことはないと考えられていました。2000年以降、夕張市の破綻が生じます。日本航空は、企業年金の切り下げを行なっています。

2010年以降は、福島原発事故で、電力会社が、不安定になったこと、家電メーカーの収益が悪化したこともあり、大手家電メーカーが軒並み赤字になりました。

現在では、大企業は潰れないというのは、神話でしかないことが理解されています。

新規採用された大学の卒業生で、数年で会社を変わる人は多くいます。一方で、企業も、ジョブ型雇用をした外国人社員とのバランスの問題があり、ジョブ型雇用に切り替えるところが増えています。

年功型雇用の認知バイアスは非常に大きいです。多くの人は、年功型雇用を標準に、雇用を考えます。

認知バイアスの例に次があります。

a)年功型雇用と、ジョブ型雇用を混在させて、利用することが可能である。

b)肩書きがあれば、中身は問わない。

b)は途上国で典型的に見られるバイアスです。大学を卒業した、博士の学位を持っているなどの肩書きに価値があると考えます。ジョブ型雇用では、価値があるのは、仕事ができるか否かだけです。b)の問題点は、肩書きを見て人を判断し、肩書きが所得に結びつく点です。会社で言えば、部長、社長は、偉く、給与が高くて当然だと考えます。また、ポストと給与は順次上がっていき、下がることは稀です。この方式では、失敗回避型の行動が、選択されるため、技術革新が回避され、現状維持がベストになります。中身で、人を評価するために、評価者も、評価に必要な情報と、判断基準を持つ必要があります。これは急には身につきませんが、民主主義の基本です。

社長が偉いのは、人事権を持っていることと、経営の決定を持っていることにあります。年功型で、給与が、階段式に上がっていくと、解雇は、不利になります。お馬鹿社長が経営して、会社が潰れそうになっていても、忖度しないと、左遷されるリスクがあります。左遷されると生涯賃金が下がるので大変です。こうして、転勤や滅私奉公が生まれます。しかし、ローテーション人事が、専門性を破壊しますので、DXの敵です。一方で、会社の経営がおかしくなっても、不要な人員も、窓際族で、雇用を続けないと、裁判で負けてしまいます。このルールは、滅私奉公と表裏なのでしょう。

ジョブ型雇用あれば、お馬鹿社長のいる会社は、危ないので、早く辞めて、まともな会社に変わることが合理的な行動です。つまりジョブ型雇用の会社の比率が上がると年功型雇用の会社は、優秀な人材を集められなくなります。現在は、この状態です。IT関係の人材の給与を年功型の体系外に高くしたり、転勤をなくすなどの対策が始まっていますが、これは、年功型の雇用では、特に優秀な人材の確保が難しくなっているためです。この状態では、経営上、年功型雇用を続ける合理的な理由はありません。

年功型雇用は壊れつつあると思われますが、実態はよくわかりません。その理由は、社会にある認知バイアスです。

例えば、オーバードクター問題では、博士の学院を出した大学や文部科学省は、博士を持っているのに、就職できないのは問題であるといいます。しかし、博士は肩書きに過ぎません。ジョブ型雇用では、博士を持っている人に何ができるかで、雇用が決まります。欧米では、ジョブ型雇用なので、博士を持っている人の給与が、持っていない人の給与より高くなります。しかし、これは、肩書きに対して給与が決まっているわけではありません。同じ大学卒業(学士)でも、専門によって給与は違います。同じように、博士の給与が、学士の給与より高いのは、評価によってそうなったからであって、博士というラベルに価値があるわけではありません。ジョブ型雇用で、博士で失業する場合には、就職できない本人に問題がある場合か、博士のカリキュラムに問題がある場合のどちらかです。しかし、日本のオーバードクター問題をこうした視点で、分析したレポートはありません。

強いプロ野球チームを作るには、目利きが、選手を発掘する必要があります。同じように、強い会社を作るためには、目利きが人材を発掘して、働きに応じた年俸を提示する必要があります。一番、確かな方法は、テスト生として実際にチームに加わってプレイしてみることです。会社では、インターンが、テスト生に相当します。ドイツでは、インターン経験なしに、就職することが難しくなっています。

まとめます。

年功型雇用は、崩壊して、ジョブ型雇用が増えてきています。雇用側も、被雇用側も、シフトは始まっています。一方では、情報は、年功型雇用のラベル中心の視点で書かれたものだけです。このため、実態が、よくわかりません。

筆者は、技術進歩についていくには、ジョブ型雇用しかあり得ないと考えます。年功型とジョブ型を混在させた混合型雇用は、持続不可能です。

雇用の将来予測は、難しくはありません。

予測が困難な部分は、雇用形態の変化が次のような要素に与える影響です。

これは、10年後に残る仕事、残らない仕事といったタイトルの本で数年前から、流行しています。流行する原因は、年功型雇用の視点で、雇用を考える人が多いためです。ジョブ型雇用では、仕事がなくなれば失業します。そのことを問題にするよりも、失業期間の手当や、再教育の費用負担を政府が担保することが重要です。欧米では、こうした点が、選挙の争点になりますが、日本では、会社の中で特に、仕事がなくても、首にならないことが政治の課題になっています。

予測が困難な部分は、雇用形態の変化が次のような要素に与える影響です。再教育のカリキュラムは十分にあるのでしょうか。再教育の効果は、どこで判定されるのでしょうか。

大学はカリキュラムを大きく変えて、社会人教育に対応できるのでしょうか。それとも、ネットなどの通信教育が主流になり、仕事をしながら、学習して、次の転職先を探すようになるのでしょうか。

リモートワークで、複数の仕事を掛け持ちすることが普通になるでしょうか。少なくとも、売れっ子のワーカーは、こうなりそうに思われます。

 

つまり、仕事がなくなることよりも、雇用や教育という社会システムの変化の方が、はるかに影響が大きいと思われます。

日本では、まだ、年功型雇用が残っていますので、将来像としては、ジョブ型雇用への切り替わりを予測している人は多いでしょう。しかし、その頃に、なると、仕事、学習といった社会システムや、社会システムに対する価値観が変化していて、その影響が大きくなっていると考えます。

(以下、続く)

 

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