水素自動車のリスクを考える

2021/10/30の読売新聞オンラインによると、政府は、水素ステーションの整備、1か所につき、1億円の補助金を計画しているそうです。水素ステーションは、5台型と1台型があり、1台型の価格は、1.5億円なので、1億円の補助金があれば、5千万円で整備できるようになります。

 

水素ステーション 5台/1h型 4億円

水素ステーション 1台/1h型 1.5億円

急速充電器 100~300万円

 

しかし、急速充電器の価格は、1台当たり、100~300万円です。仮に300万円としても、5000万円とくらべれば、17倍の価格差があり、価格競争力はありません。

2021/10/29のスマートジャパンは、調査会社の富士経済が、2021年10月に発表した水素関連市場の調査結果を提示しています。それによると、2021年度の水素関連の国内市場は前年比4.6%増の183億円になりますが、見込市場規模は、水素供給と水素利用が市場の大半を占めています。

商用水素ステーションは、政府の掲げる「2020年度160箇所整備」を達成していますが、160か所では、意味はないと思います。

水素・燃料電池プロジェクトは、「長時間の充電が必要な電気自動車と違い、ガソリン内燃機関自動車と同様に短時間の燃料充填が可能」と言いますが、これは眉唾です。

水素ステーション=専用の装置で圧縮し、高圧状態にした水素を、ガソリン車のようにノズルを使って車両に吹き込む作業は、FCVは1台あたり約3分で満タンになりますが、水素を充填できる状態にする準備に時間がかかり、5台/1h型の充填能力は1時間で5~6台です。

急速充電装置では、一般的には約30~40分で80%程度まで充電ができますので、この充電速度は、1台/1h型の水素ステーションとほぼ同じです。

FCVの「トヨタ・ミライ」は最安値のモデルでも710万円で、燃料電池が劇的に値下がりしない限り、同格のエンジン車並みの価格にはならないといいます。

つまり、価格競争力はありません。

2021/05/19のWEBCGによると、トヨタは、FCVではなく、水素エンジン車を考えているようです。

しかし、EVに比べれば、水素エンジン車は、複雑で高価になります。

水素エンジン車には、エンジン技術をコア技術にして、競争優位に立ちたいというトヨタの意図が透けて見えます。

自動運転車のコア技術は、SoC(CPU)とOSです。

アップルが、iPhoneを水平分業で組み立てたため、垂直分業を、水平分業の2分論が横行しています。水平分業でも、コア技術を内製できないと、競合企業とのレッドオーシャンになります。アップルは、GPUとOSを内製しています。

テスラは、SoC(CPU)とOSを内製しています。その結果、トヨタ半導体不足で、生産規模を縮小しているのに対して、テスラは、半導体不足の影響を受けていません。テスラは、SoCの生産のために、アップルからエンジニアを引き抜いたと言われています。

トヨタは、現在、SoCとOSを内製していません。日本の技術レベルはかなり落ちていますが、SoCを内製できる人材はいると思いますが、OSについては、人がいないと思います。

トヨタには、今のところ、SoCとOSを内製する計画はありません。

富士経済の「水素関連の国内市場規模が、2035年度には268倍の4.7兆円規模」という推定は、提灯持ちで、使い物になりません。現在の10倍以上の価格差を考えれば、水素自動車が、2035年まで生き残る確率は、低いと考えるべきです。中国では、10万円EVも出ています。EV自動車の価格は、自動運転のない小型車であれば、100万円以下が主戦場です。

政府が、水素ステーション整備に補助金を出せば、トヨタは、FCVまたは、水素エンジン車から、手を引けなくなります。

これは、リスクが、非常に高い決定です。

 

補足1:

水素ステーション補助金は、政府が、経済原理を無視して、既得利権を守るために、税金を投入して、日本の産業をだめにしてきた繰り返しにも、見えます。

太陽光パネル、ICなど、過去に、政府の補助金の介入で、アウトになった産業は、数多くあります。

補足2:

現在は、過疎地でも、自動車道路を整備していますが、これらの道路の利用率は非常に低いです。

使われない道路を維持管理することは、コスト的に見合いません。

筆者は、環境面と維持管理コストから、将来は、過疎地では、支線道路を廃止して、ドローンに切り替える方が合理的と考えています。

ドローンは、幹線道路と住宅やホテルの間をつなぎ、幹線道路にでたら、自動運転の自動車を使います。

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/a81e4eef8c88ed0dcec00d7e5bf7a19f16c579a5

  • 水素関連の国内市場規模、2035年度には268倍の4.7兆円規模に 2021/10/29 スマートジャパン

https://news.yahoo.co.jp/articles/cc9df50dc4d5b51fc13657ce72c93a464427ad91

http://www.jari.or.jp/portals/0/jhfc/beginner/about_fcv/index.html

  • 燃料電池車と水素エンジン車はどこがどう違うのか? 2021/05/19 WEBCG

https://www.webcg.net/articles/-/44517

  • 電気自動車・プラグインハイブリッド 自動車の充電インフラ整備事業費補助金 について H29 製造産業局 自動車課

https://www.meti.go.jp/information_2/publicoffer/review2017/html/h29_s6.pdf

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