18)因果と責任
山本理顕氏は、今回の万博における一番の問題点は「責任者が誰なのか分からない」ということであるといいます。
<< 引用文献
「海外のカジノ業者の利益になるだけ」 世界的建築家・山本理顕が明かした「大阪万博批判発言」の真意 「安藤忠雄さんは逃げてはいけない」2024/05/21 デイリー新潮
https://www.dailyshincho.jp/article/2024/05210556/?all=1
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木村正人氏は、英国のエイズ裁判について、次のように、述べています。(筆者要約)
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英国で1970~91年にかけ、汚染された血液製剤や輸血で3万人以上の人々がヒト免疫不全ウイルス(HIV)や肝炎に感染し、約3000人が死亡したNHS(国民保健サービス)史上最悪の医療災害で調査委員会は5月20日、5年にわたる調査の最終報告書を公表した。
最終報告書は「この医療災害は回避することが可能であり、回避されるべきだった。患者は故意に『容認できないリスク』にさらされた」と結論付けた。さらに英国政府、医師、NHSが感染を隠蔽しようとしたと非難した。
日本でも厚生省が承認した非加熱製剤にHIVが混入していたため、80年代前半に血友病患者の3割に当たる約1400人がHIVに感染した。検察の捜査が入り、96年には民事訴訟で被告企業が責任を全面的に認め和解が成立している。日本と英国の差はどこから来るのか。
階級社会が残る英国では司法は弱者のために機能しない。高額報酬の優秀な弁護士を雇える企業や富裕層が法廷では圧倒的に有利だ。弱者は泣き寝入りするしかない。かつて「揺りか
ごから墓場まで」の福祉国家モデルとして称賛されたNHSは神でもあり、悪魔でもある。
英国は日常生活でも政治でも公然とウソがまかり通る。正直者は損をする社会だから、自分の非は絶対に認めない。非を認めたら最後、解雇されたり、賠償を求められたりする。しかし司法の機能不全と「否定の文化」は間違いなく英国社会を衰退させている。
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<< 引用文献
魔法の薬の「実験体」にされた子供たち...今も解決しない英「薬害エイズ事件」、なぜ日本と差がついた?2024/05/21 Newsweek 木村正人
https://www.newsweekjapan.jp/kimura/2024/05/post-257.php
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木村正人氏の論旨は、「英国は、日本に比べて、司法の機能不全で、政治でも公然とウソがまかり通る」というように読めます。
しかし、山本理顕氏の指摘を並べてみると、木村正人氏の論旨には納得できないところがあります。
最終報告書は、「この医療災害は回避することが可能であり、回避されるべきだった」と述べています。
医療災害の原因は、「英国政府、医師、NHSが感染を隠蔽しようとしたこと」にあると言っています。
つまり、最終報告書は、因果モデルで、医療災害の原因を特定して、その責任者を名指しにしています。
これは、どうみても、大阪万博よりマシに見えます。
東京オリンピックは、赤字でした。
英国と同じように、東京オリンピックが、赤字になった原因を調査する委員会が活動して、最終報告書で、赤字の原因が特定されていれば、山本理顕氏の指摘はあてはまりません。
英紙の報道では被害者への補償は100億ポンド(約3兆円)にのぼると推定されています。
「英国政府、医師、NHSが感染を隠蔽しようとしたこと」が原因であれば、「英国政府、医師、NHS」は、100億ポンドの一部を負担する責任が生じます。
同様に考えれば、大阪万博が赤字であった場合には、その赤字の一部を関係者が負担する必要があります。
日本では、給与の一部を返納すれば、責任をとったという主張をする人がいますが、これは因果モデルを無視しているので、イベントのたびに、赤字が繰り返されます。赤字が発生すると、責任を問わずに、税金が投入されています。
アメリカでは、脱税は非常に重い罪になっています。これは、税収がなくなれは、国家が転覆してしまうからで、脱税は、国家転覆を試みるアナキストと同罪であると考えられています。
同様に考えれば、イベントのたびに、赤字が発生して、責任を問わずに、税金を投入すれば、国家が転覆しますので、脱税や、アナキストと同じレベルの犯罪が繰り返されていると言えます。
イベントの赤字補填がなければ、その分は、減税をすることができます。
欧米でも、イベントの赤字に、税金が投入されることはありますが、強い制約がかかっています。
モントリオールオリンピックの赤字は、モントリオール市が30年かかって、返済しています。
大阪府に、それだけの覚悟があるのでしょうか。