ミームの研究(18)中抜き原理のミーム

(中抜き原理が、市場原理に勝てる可能性はありません)

 

1)中抜き原理

 

政治家、官僚、経営者の中には、中抜き原理(中抜き経済)で、市場原理を抑えることが可能であると考えている人がいます。

 

あるいは、中抜き原理のミームによって、市場原理が見えなくなっています。

 

東芝が人員削減計画に入っています。

 

2024年4月17日に、東芝は国内の従業員を数千人規模で削減する検討に入りました。本社の間接部門などを中心に人員削減を行ない、人件費の軽減を図ります。削減計画は、5月中旬までに取りまとめる中期経営計画に盛り込みます。インフラやエネルギー、デジタル分野など成長が見込まれる分野に経営資源を集中します。東芝の国内従業員は約7万人です(2023年3月末時点)。

<< 引用文献

東芝、数千人規模で人員削減へ 5月中旬までに中期経営計画 2024/-4/17 共同通信

https://news.yahoo.co.jp/articles/9aaedc3d7b2b18d5d23b6f186bcead54210ce1c8

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東芝は、日本国内の投資ファンドである日本産業パートナーズ(JIP)が設立した特定目的会社である「TBJH株式会社」(後のTBJH合同会社)による非上場化を前提としたTOB形式での買収案の受け入れて、2024年12月20日をもって株式上場を廃止しています。

 

現在の東芝の経営幹部の過半数は、JIPから派遣されています。

 

ここでは、上場廃止までの経営を「市場経済と中抜き経済」の視点で振り返ってみます。

 

東芝は製品の製造からサービスに至るまでの間に、多岐に渡る子会社や関連会社を形成していて、東芝グループの中核に位置する巨大企業です。東芝はかつてテレビや家電製品、携帯電話、パソコンなど消費者向け製品でも事業展開していましたが、現在はコンスーマ商品から撤退し電子部品(HDDなど)・原子炉・重電機・軍事機器・鉄道車両など、企業間取引による重工業分野へ重点的に事業展開をしています。

 

冷蔵庫・洗濯機・掃除機・電子レンジ・炊飯器など、家電製品の国産化第1号の製品が多く白物家電の日本におけるパイオニアでした。しかし2015年の粉飾決算による経営不振発覚を契機に、主力事業の白物家電事業、テレビ、パソコン事業、医療機器事業、メモリ事業を中国企業などに売却し、社会インフラを中心とするメーカーに転換しました。

 

2024年現在でも、家電量販店にいけば、東芝ブランドの家電製品を見ることができますが、これは、中国企業の生産です。

 

白物家電事業、テレビ、パソコン事業及び医療機器事業、メモリ事業を中国企業などに売却する以前から、東芝では、黒字部門の利益を赤字部門に補填していました。

 

市場原理に基づく経営をするのであれば、黒字部門の利益は、黒字部門の製品開発費や、新規事業の立ち上げにまわして、赤字部門は整理することになります。

 

しかし、東芝は、赤字部門の維持のために、黒字部門の利益をつけ回していました。つまり、販売実績に関係なく、部門にポストがあれば、給与を払うために利益をつけ回しをしていました。これは、経営が中抜き原理で行なわれていたことになります。

 

2015年の粉飾決算による経営不振以降も、黒字部門を売却して、利益が薄い、または、赤字の部門を残しています。経営方針は、市場原理ではなく、中抜き原理に基づいています。

 

中抜き原理で経営をすれば、利益をあげられる部門はなくなります。

 

利益を生みだせる人材は流出してしまいます。

 

2021年4月7日、イギリスの投資ファンド・CVC キャピタル・パートナーズからの買収が提案されていることが報じられました。

 

株価がさがって、資産価値より低くなれば、買収する価値があります。投資ファンドが買収を計画したことは、経営再建の道筋がついていることを意味しません。

 

 東芝は、2024年5月中旬までに、5000人規模で人員を削減する計画を中期経営計画に盛り込む予定です。

 

中抜き原理では、市場原理に勝つことはできません。

 

2)中抜き原理のミーム

 

ここで、東芝の例をあげた理由は、東芝の経営を改善すべきであるという主旨ではありません。

 

中抜き原理は、法度制度のミームが原因で起こっています。年功型雇用は、ポストに給与がつくので中抜き原理でできています。

 

ジョブ型雇用では、経営者の責任は、機会費用で評価されます。悪い経営者の責任は、良い経営者であればあげられた利益と悪い経営によってあげられた実際の利益の差額になります。

 

大阪万博が最終的に赤字になった場合、赤字の補填は経営者の責任になります。万博を中止した場合と、万博を実施した場合の赤字の差が、経営者の責任であり、経営者はその金額を補填する責任があります。ここでいう経営者には、府知事も含まれます。

 

責任を市場原理でとれば、もしも、赤字のリスクが高ければ、経営者になり手がいなくなり、万博は中止になります。

 

赤字のリスクが低ければ、経営者は、赤字の場合に、補填をする保険契約を保険会社と結ぶことができます。この保険料が、経営者の給与より、安ければ、保険会社は、万博は黒字になる確率が高いと評価していることになります。

 

保険会社が、万博は赤字になる確率が高いと評価していれば、保険料は高額になり、経営者の給与では支払れなくなるので、経営者のなり手はいなくなります。

 

その場合には、万博は自動的に中止になります。

 

これが市場原理です。

 

経営責任といって、賞与を返還しても、万博が赤字でも、給与は残ります。この場合には、経営者には、万博を中止する理由がありません。

 

オリンピックと同じように万博が中止になった場合に、税金を投入すべきではありません。

 

税金の投入は、消費税の造税、社会保険料の値上げ、年金の切り下げ、医療費の補助の切り下げに繋がります。

 

おそらく、市場原理の経営責任を導入していれば、万博の費用が当初見込みより大きくなった時点で、経営者のなり手がいなくなっていたと思われます。

 

中抜き原理は、法度制度のミームが生み出しています。

 

法度制度のミームがなくなるのは、年功型雇用がなくなり、春闘がなくなった時です。

 

問題は、ミームの入れ替えにあります。

 

3)デジタル赤字

 

みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏は、デジタル赤字を次のように推計しています。(筆者要約)

 

デジタル関連収支は、通信・コンピューター・情報サービス、専門・経営コンサルティングサービス、知的財産権等使用料(除く研究開発ライセンス等使用料・産業財産権等使用料)の三つを合計しています。

 

2023年時点のデジタル関連収支赤字は約5.5兆円と過去最大を更新し、過去最大の黒字を更新した旅行収支黒字の約3.6兆円を優に食いつぶしていまする。観光産業という「肉体労働で稼いだ外貨」は、今や「頭脳労働で生み出されたデジタルサービス」への支払いに消えています。

 

デジタル関連収支は米国が1114億ドル、英国が692億ドル、欧州共同体(EU、除くアイルランド)が332億ドルの黒字で、米国・英国・EUの3強の様相です。

 

EU内では、フィンランドが95億ドルの黒字、ドイツが102億ドルの赤字、フランスが24億ドルの赤字、オランダが8億ドルの赤字です。

 

これに対して、日本は364億ドルの赤字で、OECDで最も大きな赤字です。

 

除外したアイルランドのデジタル関連収支は、480億ドルの黒字です。

 

アイルランドを含めた場合、EUのデジタル関連収支は812億ドルの黒字となり、英国の692億ドルを超えます。

 

通信・コンピューター・情報サービスに限れば、アイルランドは1940億ドルの黒字で、これは米国の12倍、英国の8倍に相当します。

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コラム:OECⅮで最大のデジタル赤字国・日本、欧米の背中遠く=唐鎌大輔氏 2024/04/18 ロイター

https://jp.reuters.com/opinion/forex-forum/XV2SBVGD3BPXDEHTTWHAZ33G2I-2024-04-16/

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日本が経済成長しない原因は、デジタル社会へのレジームシフトに取り残されているからです。

 

政府は、デジタル人材が不足するといいますが、アイルランドの人口は512万人に過ぎません。

 

デジタル人材数は、不足していません。

 

日本では、市場原理がないので、高度人材が仕事が出来る場がありません。

 

どうして、日本のデジタル赤字が364億ドルのOECD最大になっているかと言えば、法度制度のミームに原因があります。

 

東芝は、人材の確保が困難になっています。

 

高度人材が、東芝を選ぶ理由を考えることは困難です。

 

しかし、同じ問題は、日本国にもあてはまります。

 

中抜き経済の日本から、高度人材の流出は止まりません。

 

マイナンバーカード問題は、日本には、高度人材の働く場がないことを明確にしめしています。

 

エストニアのような電子政府を作るロードマップがないのですから、日本の生産性があがるはずはありません。つまり、この国には、高度人材に高い給与をはらう企業は少ないことがわかります。

 

しかし、法度制度のミームで動いている政府には、中抜き経済でしか、現象が見えなくなっています。