成長と分配の経済学(26)~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

8)所得倍増計画は容易である

 

所得倍増計画は、アンシャンレジームを捨てれば簡単に達成できます)

 

今回は、所得倍層が容易な訳を考えます。

 

最初に池田内閣の所得倍増計画を振り返ります。

 

8-1)池田内閣の所得倍増計画

 

池田内閣の所得倍増計画は、労働生産性の向上によって、起こっています。

 

この労働生産性の短期間の上昇は、労働移動によって生じています。簡単に言えば、農業労働者が工場労働者にシフトすることで、生じています。石油ショックのころ、田中内閣が、地方への公共投資を増額することで、地方で農業を兼業とするライフスタイルが定着することで、高度経済成長は終わります。高速道路が整備され、工場の地方分散が起こります。この時には、地方から3大都市圏への人口移動も減速しています。

 

労働者が、農業労働者から、工場労働者にシフトした理由は、給与水準の差にあります。

つまり、労働者は、賃金の安い方から、賃金の高い方に移動します。これが、労働市場の原理です。高度成長の時代には、農業労働者をやめて、工場労働者にシフトしたわけですから、年功型雇用は、雇用全体の中では特殊な例外であったことがわかります。

 

8-2)アメリカで起こっていること

 

アメリカのIT大手企業は、世界の企業ランキングで上位をしめています。利潤率も高く、技術者の給与平均は1400万円ともいわれています。年収2000万円でも、シリコンバレーでは家賃が高いため、貧乏なグループになるとも言われています。

 

これは、優秀な人材が、給与の高いIT系企業に、労働移動していることを示しています。

 

労働者が賃金の高い職種に移動することは、池田内閣時代と同じです。これは、資本主義下で労働市場がある場合には、市場原理が働いているからです。

 

池田内閣時代に、農業労働者の労働生産性は、工場労働者には遠く及びませんでした。その結果、労働移動によって、平均労働生産性があがり、所得が倍増しています。

 

アメリカの場合にも、労働生産性の低い製造業から、労働生産性の高いIT企業などのサービス産業部門に、労働移動することで、1人当たりGDPが20年間で、1.7倍になっています。

 

この労働移動は強制して行われたのではなく、高い賃金に引かれて、労働者が自発的に行ったものです。

 

8-3)日本でおこったこと

 

日本の労働者移動は特異です。

 

サービス産業で働く労働者の割合が増えていますが、増加しているのは低賃金の労働で、サービス産業で働く人が増えた結果、平均賃金が下がっています。

 

これは、労働移動ではなく、新規参入が関与している部分が大きいと思われます。

 

具体的に言えば、所得が減少し続けているため、収入の不足を補うため、今まで働いていなかった主婦が働きに出るような構図です。

 

ただし、サービス残業に見られるように、賃金が、市場原理で支払われていませんので、その影響の方が大きいと考えます。

 

8-4)所得を倍増する方法

 

ジョブ型雇用を行い労働市場を通じて、労働生産性の高い労働に、見合った対価を払えばOKです。

 

余りに簡単と思われるかも知れませんが、これが、欧米が行っていることであり、唯一の解決策です。

 

例えば、IT系の優秀なプログラマーは、年収2000万で雇います。これは、アメリカの大手ITと同じ賃金を支払うことです。要するに、世界の労働市場で、優秀な人材を調達することにつきます。以下、簡単に、世界労働市場調達と呼ぶことにします。

 

ある経済学者が、日本の大学では、GDPシェア1%の農業を対象とした農学部の定員が大学全体10%を越えているので、時代遅れになっていると指摘しています。このような場合には、農学部の定員を減らして、IT系の学科の定員をふやす必要があります。これを実現できる唯一の方法は、IT系学科の教員の給与を農学系学会の教員の給与より高くすることです。

 

労働市場を考えないアンシャンレジームに洗脳されていると、給与の差をつけるのはけしからんと考えます。しかし、もし、読者が農学系の学科の教員であって、IT系の学科に転職すれば、給与が2倍になると言われれば、喜んで転職するはずです。もちろん、そのためには、IT系の教員の養成コースを終了しなければならないかもしれません。しかし、生涯賃金が2倍近くなるのであれば、学びなおしのコストは安く感じるはずです。

 

これが、池田内閣時代に、農業をやめて、自発的に工場労働者に転職したモチベーションです。所得倍増計画には、同じ仕組みが必要です。

 

企業がジョブ型雇用を採用する場合にも同じ問題があります。

 

世界労働市場調達ができない原因は、経営者が、自分が降格されることを恐れて優秀な人を採用しないか、経営者が無能な場合に相当します。株式会社であれば、株主総会では、こうした社内政治に熱心または、無能な利益を出せない経営者は、解雇すべきです。

 

これに対して、経営者が仕掛ける保身対策がアンシャンレジームです。

 

8-5)アンシャンレジームの例

 

2022/08/10に、岸田首相は新しい閣僚を指名しました。前日のある全国紙に、「入閣待機組80人をどう処理」というタイトルで、入閣待ちの議員の話がでていました。しかし、閣僚を実力で指名すれば、年功順、派閥割にはなりません。ですから、この報道には、アンシャンレジームが当然であるという暗黙の了解があります。また、あるTV局も、決まった閣僚を派閥別に説明していました。ここにも、アンシャンレジームが当然であるという暗黙の了解があります。

 

新聞には、IT人材が不足しているといった、ある種の人材が不足している報道が多く見られます。これもアンシャンレジームです。IT技術者であれば、年収2000万払えば、人材不足にはならないはずです。人材不足と言っているのは、安い賃金で人材を集めようとするからで、それが通れば、自由市場ではありません。



2000年以降、アンシャンレジームになりました。そこでは、労働市場に介入して、賃金を下げて、無理やり働かせる政策が導入されました。その対象は、若年層、女性、外国人でした。

 

安い賃金で人材を集めて働かせることが可能であるのは、独裁政権の強制労働だけです。

外国人研修生制度が、人権問題で、制度の見直しに追い込まれていますが、これは、アンシャンレジームをすれば、おこるべくしておきた状態です。

 

学校教育に、情報を取り入れましたが、教える人材がないと新聞には、書かれています。ITを学んだ学生が将来生み出すであろう価値を考えれば、より高い給与を支払ってもおつりがきます。例えば、非常勤で、時給10万円位払えば、人材は確保できると思います。

 

情報教員の年収が、古典を教えている教員の2倍くらいあれば、農学部の場合と同じように古典をやめて情報の教員になる転職希望が出てくると思います。

 

この文章は、古典軽視はけしからんというアンシャンレジーム派の反発があることを想定して書いています。

 

日本経済は、中国に追い越されました。台湾、韓国も、最近では、先を進んでいるように見えます。

 

ベトナムという国があります。元は水田農業中心で、漢字をつかっていました。人口は1億弱で、時間の問題で、日本を追い越すでしょう。ベトナムは、現在では、漢字は使っていませんし、学校では、漢字の古典教育は行っていません。つまり、日本と比べれば、古典教育に割く時間を科学技術教育に使っているとみなすことも可能です。

 

ベトナムの現在の経済規模は小さいですが、急速に伸びています。

 

日本が、アンシャンレジームを続けていけば、ベトナムに経済で追い越されるのも時間の問題になります。「古典軽視」の議論は、こうした現実を背景に考えるべきです。

 

なお、年功型雇用では、転職をすると懲罰のように所得が下がってしまいます。簡単にいえば、年功型雇用とは、DXに合わせて転職して、産業構造の変化に対応することを禁止するシステムです。



8-6)まとめ

 

所得倍増計画は、アンシャンレジームを捨てれば、簡単に達成できます。

 

逆に、所得倍増計画に着手できなければ、日本は、デジタルシフトを達成できず、発展途上国に戻ります。

 

岸田政権は、簡単に所得倍層計画を放棄して、アンシャンレジームに後戻りしてしまいました。

 

アンシャンレジームの経営者は、自分の利益のために、会社の利益を犠牲にします。

 

これは、カルト宗教の教祖が、自分の利益のために、信者の生活を犠牲にすることに似ています。

 

こう考えると、アンシャンレジームは、カルトの一種だと思います。

 

アンシャンレジームに洗脳されると、アンシャンレジームを捨てられなくなり、その結果、所得倍増計画が進まず、日本は、途上国に逆戻りすることになります。