水産データの信頼性とヒストリアン~2030年のヒストリアンとビジョナリスト(11)

水産データの信頼性とヒストリアン~2030年のヒストリアンとビジョナリスト(11)

 

「2030年のヒストリアンとビジョナリスト」は、データサイエンスの話題の一部ですので、今回は、水産データの信頼性を話題にします。

 

2022/02/08のYahooに、勝川俊雄氏は、図1を掲載して、次のように述べています。

 

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アサリ資源の低下

 

国産アサリの漁獲量は1960年代から1980年代まで12~16万トン程度で安定していました。それが1990年代から直線的に減少をして、2020年には4305トンまで落ち込んでいます。ピーク時の3%を割るような状況であり、ほぼ消滅と言っても良いでしょう。当たり前のようにスーパーに国産あさりが並んでいるなどあり得ないことなのです。こういった知識があれば、安価で売られているアサリは、殆どすべて外国産だったというのも頷ける話です。




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図1 アサリ漁獲量



 

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ここが、データサイエンスのスタートです。

ここまでで、間違いに気づきましたでしょうか。

 

図1は、アサリの漁家量というヒストリアンのデータです。図1は、漁獲量であって、資源量ではありません。

 

漁家量=資源量x漁獲努力量

 

の関係があります。漁獲努力量のデータが無ければ、資源量を推定できません。

 

つまり、図1を提示したということは、科学的な資源量調査のデータがないからと思われます。

 

データサイエンスでは、できるだけ、介入とセットで、調査して、データを集めることが原則です。図1のように、報告されているだけのデータの信頼性は低いと考えます。

 

2022/02/12の熊本日日新聞には、次のように書かれています。

 

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県が毎年作成している水産統計にも、漁獲量を大きく上回る県産アサリの市場流通が記録されており、偽装の疑いが長年見過ごされてきた可能性がある。

 

 県の統計資料「熊本県の水産」に記載されたデータによると、県産アサリ類の2015~19年の年間漁獲量は最大で730トン、最少で207トン。年間で千トンを超えた年はない。

 

 これに対し、同じ期間の県産アサリの取扱量は、「熊本県の水産」にデータがある大阪府内の中央卸売3市場だけでも年間1309トン~1666トン(16年は数値なし)に上る。中でも15年は、漁獲量に対して約8倍も多く流通していた。

 

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この記事では、アサリの漁獲量データは使える(正しい)と考えているのでしょうか。

 

生態学では、資源量は餌の量できまり、エネルギー収支で計算できます。その場合、熊本県の沿岸の餌の量が、資源量を決めると考えます。ところが、畜養すると、アサリを外から持ち込むので、エネルギー収支が合わなくなります。つまり、その時点で、資源量の議論はできなくなります。

 

これは、ルートヴィヒ・フォン・ベルタランフィの一般システム理論から得られる結論です。

 

2022/02/04のJIJI.COMは、大間のクロマグロの漁獲量の偽装を、次のように報告しています。

 

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2021年秋、大間で1カ月間、「100キロもの」に換算すれば少なくとも100本以上となるマグロが、地元の漁業協同組合に報告されずに水揚げ・出荷されていたことが分かった。

 

水産庁によると、青森県に配分されているマグロの今漁期年(2021年4月~22年3月)の大型魚(30キロ以上)漁獲枠は、合計543トン。このうち県は、大間漁協に半分近い253トンを配分している。

 

 「無報告」の水揚げ分がどれくらいに上るのか、はっきりとは分からないが、政府関係者は「相当な数に上るのでは」との見方を示す。現行の漁業法では、漁獲データについて「報告をせず、または虚偽の報告をした者」に関して、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科すことにしているが、県によると、今年1月末時点で大間の漁業者への適用例はない。

 

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つまり、資源管理を破って、枠外漁獲をして横流ししていた訳です。



それに先だって、レジャーフィッシュに対して、2021年6月から、クロマグロの資源回復のため、まずは30キロに満たない小型魚の採捕を禁止しています。更に、2021年8月下旬からは大型魚も禁止になっています。クロマグロを狙ったキャッチ・アンド・リリースも認められておらず「意図せず釣れた場合には直ちに放流して」と、厳しいルールが設定されています。

 

つまり、レジャーフィッシュは、キャッチ・アンド・リリースもだめといいながら、漁業者は、違法漁獲をしていた訳です。

 

こうなると、クロマグロの漁獲量データも使えないことになります。

 

2022/02/07の IZAは、2021年10月、焼津港からカツオを盗んだとして、窃盗の疑いで焼津漁協職員ら7人を逮捕。うち5人が起訴された事件の続報を伝えています。

 

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静岡県焼津市の焼津港で水揚げされた冷凍カツオを盗んだとして焼津漁協職員らが逮捕・起訴された事件で、県警は7日、神奈川県大井町に本社を置く運送会社が鹿児島県枕崎市内に開設した営業所など数カ所を家宅捜索した。静岡県警は、一部の冷凍カツオがこの営業所に横流しされたとみて調べている。

 

捜査関係者によると、運送会社の運転手は、焼津港で水揚げされた冷凍カツオを、本来必要な計量をせずにトラックに積み込み、持ち去った疑いが持たれている。一部は枕崎市の営業所に運び込まれたとみられる。

 

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つまり、焼津から、カツオを盗んだだけでは、売れませんので、受け入れ側が、枕崎にあり、神奈川県大井町に本社を置く運送会社は、仲介をしていたわけです。

 

これから、みると、カツオの漁獲量データも使えない可能性が高いです。

 

今回は、漁獲の是非そのものを問題にしたい訳ではありません。漁獲量の報告を集めただけのヒストリアンのデータで結論を出すと、間違った結論に達することが多いと言いたいのです。

 

建設受注統計で国交省が不正(あるいは、不適切な集計)をしてたという事件もありましたが、報告を集めただけのデータが使えると考えることは、データサイエンスの常識に反するヒストリアンの視点です。

 

熊本県、アサリ偽装疑い見過ごす? 統計の漁獲と販売に大きな差 「畜養の実態把握できず」 2022/02/12 熊本日日新聞

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/f10e40cd7810b263f38e07a437485b64018863a0

 

大間マグロで漁獲隠しが横行 ブランド継承に暗雲、豊洲市場関係者は…【大漁!水産部長の魚トピックス】2022/02/04 JIJI.COM

https://www.jiji.com/jc/v8?id=20220203fishtopics



クロマグロ釣りはなぜ全面禁止になったのか? 釣り人は不満「せめてキャッチ・アンド・リリースは…」【大漁!水産部長の魚トピックス】 2021/09/05 JJI.COM

https://www.jiji.com/jc/v4?id=20210904fishtopics0001

 

運送会社を家宅捜索 焼津カツオ窃盗、静岡県警 2022/02/07 IZA

https://www.iza.ne.jp/article/20220207-CZWSAEVMNZO47BCA4DSKAIU3BE/

 

アサリの産地偽装はなぜ繰り返されるのか? ~みんなが幸せになる産地偽装のカラクリ~2022/02/08 Yahoo  勝川俊雄

https://news.yahoo.co.jp/byline/katsukawatoshio/20220208-00280566