東京都の感染者数と変異株率のシナリオ分析~コロナウイルスのデータサイエンス(218)

6月14日から、土日を除いた変異株の毎日の速報値が公開されています。このデータは、全てではなく、落ちがあるようですが、各データのバイアスのかかり方が同じなら、増減を見る上では、問題はありません。

2021/07/20のNHKは、「都の『専門家ボード』の座長を務める東北医科薬科大学の賀来特任教授」の話を紹介しています。


賀来特任教授は、東京都がいま抱える大きなリスクとして、▼緊急事態宣言が出ているのに人出が十分に減少していないこと、▼マスクの着用など対策が十分ではないこと、▼感染力が強いインドで確認された変異ウイルス「デルタ株」が広がっていること、それに▼4連休、夏休み、東京オリンピックが始まり、人の動きが活発になることの4点を指摘しています。

また、賀来特任教授によりますと、年末から年始にかけての感染拡大の第3波で、医療がひっ迫した時期の経験から、東京都内での入院患者数は2600人を超えると医療のひっ迫が起きるとされる、ということですが、6月下旬から倍増し、すでに2300人となっていて、厳しい状態になりつつあるということです。

賀来特任教授は「今、東京都は、これまでで最大の危機を迎えていると思う。今回は、1日の感染者数が3000人を超える感染が起こりえる可能性があり、非常に危惧している」


図1は、感染者数の占める変異株の割合で、現在、35%に達しています。線形モデルの増加速度は、1日0.93%で、31日まで11日ありますから、7月31日には45%になります。

図2は、いつもの1週間前の同じ曜日のデータとの比較です。7月20日前後のデータをみると、最近の増加率は65%(前週の1.65倍)です。

図3は、変異株率と感染者数の増加率をプロットしています。

変異株率が1%増えると、感染者数の増加率は1.3%増えます。

ベースシナリオ(シナリオ1)

7月20日の7日間移動平均感染者数は1179.3人です。これを基準に、増加率一定で、1週間単位で予測をしてみます。

増加率が65%(1.65倍)の場合は、次になります。

7月20日

1179.3人

7月27日

1179.3x1.65=1945.8人

8月3日

1945.8x1.65=3210.5

8月10日

3210.5x1.65=5297.4人

賀来特任教授が、3000人を超えると言っているのは、8月3日あたりの数字でしょう。

シナリオ2

次に、変異株の割り増しを、過去のデータから出してみます。

変異株率の増加は、1日あたり0.936% ですから、1週間では

0.936x7=6.55

6.55%になります。変異株率が感染者数の増加率に与える影響は、1.327倍ですから

1.327x6.55=8.69

となり、1週間で、9%弱増加します。これを使うと、次の推定値になります。

7月27日

1179.3 x(1+(65+9)x0.01)=2052人 

8月3日

2052x(1+(65+9+9)x0.01)=3755人  

8月10日

3755x(1+(65+9+9+9)x0.01)=7209人 

シナリオ3

図2の最近の増加率が急増しているのは、変異株の影響が入っているからと考えます。

図4に、7月5日以降の増加率をプロットしてあります。

増加率の増加速度は、1日当たり、2.8%というとんでもない数字です。

1週間では、

2.8x7=19.6%

と、ほぼ20%に達します。

7月27日

1179.3 x(1+(65+20)x0.01)=2181.7人 

8月3日

2181.7x(1+(65+20+20)x0.01)=4472.4人  

8月10日

4472.4x(1+(65+20+20+20)x0.01)=10062.9人 

まとめ

シナリオ予測の比較を表1と図5に、示します。

シナリオの番号が、増えるにしたがって、非線形性が強くなっています。

これは、試算であって予測を当てるつもりはありません。

この程度の感染者の増加には、準備をしておくべきです。

現状の感染拡大を次のように理解しています。

オリンピックが開催される一方で、感染防止対策の改善(PCR検査数、病床数、スマホアプリ、ワクチン接種証明、PCR陰性証明による行動の自由など)がなされなかったので、緊急事態宣下による行動制限の増加に期待できなでしょう。エビデンスのない議論がまかり通り、正直者は馬鹿を見ると思われています。さらに、パラリンピックに観客を入れる議論をしていますので、緊急事態宣言に、危機意識は感じられません。行動制限が変化しない場合には、感染拡大に影響する要因は次の2つです。

  • ワクチン接種の拡大による感染拡大抑制効果

  • 変異株の拡散による感染拡大効果

7月5日以降のデータは、この2つの差し引きです。つまり、ワクチンより変異株が勝っています。変異株率は、35%でまだ、増加する余地があります。ワクチンの接種速度は、大きく変わらないでしょう。株式会社野村総合研究所は、2回目の接種率が40%を超えれば、ワクチンによるコロナウイルス抑制効果が顕著に出ると予測していますが、1日100万回で、1回目の接種が40%を超えるのは、8月13日、2回目の接種が40%を超えるのは、9月8日です。1日120万回+1650万人職域接種の最短シナリオでも2回目が40%を超えるのは、 8月21日なので、当面はワクチンの効果に大きな変化はありません。「国内のワクチン接種人数」のデータが正しければ、7月19日時点の接種者は100万人で、減少傾向にあります。2回接種率は22%です。しかし、このデータの信頼性は低いと考えます。

いずれにしても、あと2、3週間は7月上中旬のバランスが継続すると思われます。

若年層の重症患者は、少ないので、感染者数の許容基準を緩める考えもありますが、病床数を増やせなかったので、治療が受けられないリスクは残ります。

最大の問題は、感染拡大を抑制する切り札がないことです。

このため、インドネシアのように、治療を受けられない人が多発するリスクがあります。

最悪の場合には、南アフリカのように、社会不安のリスクも考えられます。

これは、極端なシナリオですが、日本では、大規模に医療を受けられないことはありませんでしたので、そうした極端な現象が生じた場合には、極端なシナリオもありえるでしょう。

 

 

表1 シナリオ予測の比較

シナリオ 7月20日 7月27日 8月3日 8月10日
シナリオ1 1179 1946 3210 5297
シナリオ2 1179 2052 3755 7209
シナリオ3 1179 2182 4472 10063

 

 

 

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図1 変異株の比率の変化

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図2 東京都の感染者数の前週の同じ曜日との比較とGoogle Transit(左軸:感染者数の差、人、右軸:行動制限率%、右軸:感染者数の比x(ー1))

 

 

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図3 変異株比率(横軸)と感染者数の増加率(縦軸)

 

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図4 7月5日以降の感染者数の増加率の変化

 

 

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図5 シナリオ予測の比較

 

  • 変異株スクリーニングの状況 報道発表 令和3年 7月 東京都

https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2021/07/index.html

  • 東京都の感染状況「最大の危機 1日の感染者3000人超の可能性」2021/07/20 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210720/k10013150061000.html

  • ワクチン接種先行国における接種率および感染状況から見た今後の日本の見通し(更新版)2021/06/30 株式会社野村総合研究所 

https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2021/cc/0630_1

  • 国内のワクチン接種人数

https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/coronavirus-japan-vaccine-status/

  • NHK特設サイト

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/

  • 都内の最新感染動向

https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

https://www.google.com/covid19/mobility/ Accessed: <2021.7.17>2021-7-15version.

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