「西村カリンの判定条件」と「ご飯論法」

首相や大臣の記者会見について、何となくわかりにくいなと思っていたのですが、フリージャーナリストの西村カリン氏が6月17日の記者会見の首相発言について、「菅首相の会見、アドリブも鋭い質問も大歓迎な米仏の大統領とこんなに違う」で、非常に明確な判定条件をあげています。なお、以下で、判定条件を箇条書きにしたのは、筆者で、西村カリン氏ではありません。

もとの記事は短いので、ぜひ読んでください。

なお、記者クラブの記者は事前に質問をスタッフに伝えますが、フリージャーナリストと外国記者の質問は事前にスタッフに伝えられないそうです。その件(くだり)だけ、引用しておきます。


結果的に、記者クラブの記者とは異なり事前にスタッフに質問を伝えないフリージャーナリストと外国記者の質問に対して、首相はメモの中の一部をピックアップして質問と関係ないことを答えてしまう。民主主義大国の首脳としてあり得ないと私は思うが、それは菅首相だけではない。安倍晋三前首相も同じだった。日本の大手マスコミの責任もある。満足できる回答がない限り、同じ質問を繰り返してもいいと思う。


記事を、筆者なりにまとめると、ポイントは以下です。なお、発言者は、首相、質問者は、マスコミにしていますが、発言者と質問者を入れ替えれば、一般的に、使えます。

 

  1. 発言者(=首相)の発言内容は本人が思っている「憶測、願望」にすぎない。発言に科学的根拠が伴なわない。

  2. 発言者(=首相)は以前に言ったことを繰り返し、質問には、直接答えない。

  3. 質問者(=マスコミ)は、満足できる回答が得られるまで、発言者(=首相)に同じ質問を繰り返すべきだが、繰り返していない。

つまり、この条件が成立している場合には、記者会見や質疑応答は失敗している(成立してない)と考えられます。そこで、この3条件を「西村カリンの判定条件」と呼ぶことにします。

なお、「ご飯論法」という似た指摘もあります。(注1) 第2条件はその問題に近いかもしれません。しかし、第3条件で、質問者(=マスコミ)の共同責任を明確にしていること、第1条件に「科学的根拠」を明示している点で、「西村カリンの判定条件」の方が役に立ちます。

当たり前ですが、「ご飯論法」で問題になっている論点のズレの大きさを問題にする、あるいは、ずれた回答でも部分的に、回答になっていると考えるのは、論理的にはありえません。外国では、第3条件で、「ご飯論法」がなくなるまで、同じ質問を繰り返すことがなされます。したがって、質問に答えたか、答えなかったのどちらかであって、「ご飯論法」問題自体が存在しません。これは、対話dialogの基本です。「ご飯論法」の責任の半分は、第3条件のマスコミや、国会質問の質問者にあります。このため、第2条件は、簡単になっています。

 

2021/07/16の朝日新聞「首相、異なる五輪の質問にほぼ同回答 3社の書面質問に」は次のように報道しています。


 8日の菅義偉首相の記者会見で指名されなかった報道各社からの質問に対する回答が16日、書面で公表された。そのなかで、異なる三つの質問への首相の回答がほぼ同じ内容だった。


この質問に対する回答は、「西村カリンの判定条件」の第2条件「言ったことを繰り返し、質問に直接答えない」の極端な逸脱です。しかも、書面であったというのが、想像を絶します。回答を作った官僚も手を抜いた可能性が大きいです。書面なので、第3条件の質問を繰り返すために、回答になっていないとして、質問を再提出したかがポイントになります。黙って受け取れば、共同責任を負うことになります。

別の例をあげてみます。

2021/07/016の時事通信は、「元日弁連会長の宇都宮健児氏が東京五輪パラリンピック開催中止を求める45万筆超の署名を政府や東京都に提出したことに関して、加藤勝信官房長官は16日の記者会見で次のように述べています」


感染状況が一段と悪化した場合、五輪期間中であっても中止することがあり得るかどうか記者から問われたのに対し、加藤氏は「大事なことは足元の感染に対してしっかりと対応し、ワクチン接種を進めていくことだ」と述べるにとどめた。 


これに、「西村カリンの判定条件」を当てはめると次になります。

1.「ワクチン接種を進めていくことだ」は「本人が思っている『憶測、願望』にすぎ」ません。エビデンスをあげていませんが、ワクチンが不足して予約を中断しているというエビデンスがありますから、「ワクチン接種を進めていくこと」ができるという「憶測、願望」を支持するエビデンスはありません。

2.質問は、「中止することがあり得るか」ですから、質問に対する答えになっていません。

3.マスコミは納得できる答えが得られないのに、質問を中断しています。

というわけで、「西村カリンの判定条件」を使うと、何が問題点かが、すっきり、整理できます。

 

注1:

ご飯論法の議論には、賛同できません。それは、ご飯論法が通用するのは、議長の責任だからです。質問に正しく答えない場合には、取材の場合には、西村カリン氏のいうように質問を繰りかえすことになります。しかし、本会議場や委員会のように議長がいる場合には、質問に答えない場合には、議長は注意を促す責任があります。ご飯論法は、議長が、議事進行を正しく管理すれば起こりません。つまり、議長が、正常な質疑応答で、民主主義を維持するつもりが、なければ、議会(民主主義の運営)は崩壊し、ご飯論法になります。しかし、ご飯論法には、この視点が落ちています。副議長がいる場合には、副議長は野党から選ばれているはずなので、根が深い問題です。

付帯条件で整理すれば、以下になります。

 議長がいる場合には、第3条件を、以下に置き換える。

3.議長は、満足できる回答がない限り、正しく回答するように、発言者(=首相)を、指導する責任を持つ。

 

https://www.newsweekjapan.jp/tokyoeye/2021/07/post-75.php

  • 首相、異なる五輪の質問にほぼ同回答 3社の書面質問に 2021/07/16 朝日新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/cb70ed0ddc80d744c563753da9ab4d7aab6b6cc0

https://news.yahoo.co.jp/articles/add4e66b12a22c6b08cf0caa3a704f7e9e51e69f

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%94%E9%A3%AF%E8%AB%96%E6%B3%95

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