止まらないVRSの欠陥問題

前回、VRSには、COCOAと同じレベルの問題があると申し上げました。

その後も、VRSの欠陥問題が、引き続き出ていますので、フォローアップしておきます。

一番の問題は、原因が、VRSのシステム設計の間違いであると認識されていないことです。

 

2021/07/06の朝日新聞には、次のように、書かれています。


 「6月末までに約9千万回分は供給され、接種回数は5千万回ぐらい。ということは市中に4千万回ぐらいあり、ミスマッチが起こっている」。田村憲久厚生労働相は6日の閣議後会見で、米ファイザー製のワクチンを自治体向けに配送したにもかかわらず、「目詰まり」が起きている可能性に言及した。

(中略)

接種回数や自治体の在庫量を国が一元管理するワクチン接種記録システム(VRS)の入力が自治体ごとにばらつき、接種状況をリアルタイムで把握できていないからだ。


ここで、問題は、「接種回数や自治体の在庫量を国が一元管理するワクチン接種記録システム(VRS)」という記述です。

VRSは、「接種券に記されたOCRライン」を読み取るソフトです。当たり前ですが、「接種券に記されたOCRライン」は接種データではありません。また、ワクチンの瓶のロットナンバーと配布先、ロットナンバー単位での毎日のワクチンの瓶の消費状況を収集しているとは思えません。もしも、ワクチンの瓶のロットナンバーと消費状況を把握できていれば、VRSの入力をしなくとも、ワクチンの在庫量は把握できるはずです。また、予約システムとワクチンの消費予定データも把握していません。通常は、システム設計では、冗長性を担保して、1つのデータに問題があっても、他のデータである程度カバーするように設計します。「(VRS)の入力が自治体ごとにばらつき」は、自治体が、悪いような記載ですが、冗長性がゼロのシステムでは、エラーに対して、脆弱で使えないのは当たり前です。

VRSの一つの大きな問題は、ワクチンの予約システムをセットで提供しなかったことです。つまり、ワクチン接種全体を管理するトータルシステムとして、設計されていません。その結果、予約システムは、各自治体が、ワクチン接種予約システムを流用して、次の問題が生じています。

  • 予約システムのデータフォーマットが、自治体ごとにことなり、予約システムのデータは、VRSに反映されません。

  • 既存のワクチン接種システムは、2回接種を想定していません。このため、既存のワクチン予約を流用すると2回目の接種予約について、混乱が起こります。

たとえば、1回目の接種を受けた医院で、2回目の接種が自動的になされるか、2回目は、別途予約するかといったルールの混乱です。つくば市の場合には、説明資料には、1回の予約で、2回目も自動的に予約できると書かれているようですが、一方で、WEBには1回目だけでなく、2回目の接種の予約のメニューもあるようです。さらに、1回目に、2回目を自動予約しても、都合で、2回目が接種できなかった場合には、どうなるのかの説明はありません。その時点で、再予約すると、直後の予約は埋まっていますから、3週間を軽く過ぎてしまいます。その場合には、1回目から、やり直すことになるのかもしれませんが、実のところは不明です。こうした混乱はワクチンの量のミスマッチの原因になります。つまり、VRSに、予約システムをセットとでつけなかった、ツケが回っています。予約システムをセットでつけると、タブレットアプリだけでなく、予約できる端末に対応したWEBアプリ、予約の確認をメール連絡するアプリもセットにする必要があります。これを避けて、予約状況に基づいたワクチンの消費予測データを最初から取るつもりはないのですから、適正なワクチンの配布ができるはずがないのです。

このような場合には、素人がシステム設計で、悩む必要はありません。

  • 適正なワクチンの配布ができるように、予約に基づく、ワクチンの消費量と在庫量の推定ができること

などのように、システムが、満足すべき要件を箇条書きにして、仕様書が、それに、対応しているかをチェックし、あるいは、βテストのときにも、システムがチェックリストを満足するかを見ればよいだけです。

つまり、現状は、チェックリストが不在であったとしか思えません。

2021/07/13の共同は、次のように、伝えています。


 自民党下村博文政調会長は13日、党の新型コロナウイルス感染症対策本部などの合同会議で、ワクチン供給に関し「足らないという風評が広がっていることも事実だ」と述べた。

(中略)

下村氏は、供給したものの接種されていない市中在庫を活用することが重要だと指摘。

(中略)

会議に出席した河野太郎担当相は政府の想定を超えるペースで自治体が接種を進め「これに供給が追い付かないというのが現実だ」と話した。


この原因は、前回、書きましたように、VRSには河野太郎担当相と平井卓也デジタル改革担当大臣がお墨付きを与えています。問題の原因は、VRSの欠陥です。

2021/07/13の朝日新聞は、次のように書いています。


 新型コロナウイルスのワクチン接種で、自治体での加速化を担う武田良太総務相は13日の閣議後会見で、菅義偉首相が掲げた「7月末までに高齢者接種を終わらせる」との目標について、7月末を前に一足早く「達成できている」との認識を示した。

(中略)

ただ、「7月末の接種完了」の定義はあいまいで、同省幹部は「定量的な定義はない」と話す。武田氏も6月の会見で「希望者が何人いるかという全体的な枠組みはつかめていない。具体的な数字をあげるのはなかなか難しい」と述べていた。


37+11=48億円も使っているシステムですが、ここまで、役に立たないことは、システムを仕様を決めて、随意契約を結んだ2月26日時点で、予測できたことです。

なるべくして、なったことを、冷静に受け止めるべきです。

 

  • ワクチン供給、どこで目詰まり?実態つかめぬ政府の誤算 2021/07/06 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASP766VV2P76UTFK01Q.html?oai=ASP7F4HCCP7FULFA00L&ref=yahoo

  • 下村氏、ワクチン不足は「風評」 自治体反発も 2021/07/13 共同

https://news.yahoo.co.jp/articles/68540410daf4ccdd960589a4f2fc6f41ce671805

https://news.yahoo.co.jp/articles/60aff8244c1db099dffabaa2f62b1958700c546e

 

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