ビジョナリストが世界を創る

トランプ前大統領は「世界はディールだ」と考えていたようですが、これは、かなり変わった世界観と思われます。

一般的には、進化論の誤った解釈として有名ですが、世界は競争(戦争)だという世界観が主流と思われます。最近のボランティア主導の世界観もありますが、欧米では、ボランティアは功成り名を遂げた人が社会貢献する場であるのに対して、日本国内では、単位を落として留年しそうな学生さんが、ボランティアに熱をあげるので、その業界の人に騙されている(例えば、海外ボランティアであれば、旅行業界)のではないかと、勘繰りたくなります。

それはさておいて、ある程度の競争があるという認識は共通していると思われます。

これは、例えば、囲碁や将棋で考えるとわかりますが、競争のある場合には、戦略が必要です。プロは、相手を見て、どのような試合を展開するかのビジョンを立てます。手筋を考える訳です。ビジョンのない素人は、プロのビジョナリストには勝てません

一般には、良いビジョンを描いて、実現した人が成功します。アマゾンの成功は、本のネット販売から始めて、クラウドサービスを展開して大きくなります。べゾフにはビジョンがありました。あるいは、ビル・ゲイツは、PCが広がっていった時に、OSを中心としたビジネス戦略のビジョンがありました。IT企業の場合には、過去に類似のサービスはありませんから、ビジョンを描いて実現していくしか方法がありません。これは、演繹法になります。うまくいっている会社を分析して、その手法をコピーする方法は帰納法です。外食産業では、ゼンショーグループがこの手法に秀でていることが知られていますが、IT企業では、この方法では、出遅れで生き残れません。(注1)

最近、日本に決定的にかけているの点が、ビジョンを大切にしない帰納主義のように思われました。

尖閣諸島の問題でも、中国は、ビジョンをもって仕掛けていることは明らかです。ですから、これに対抗するには、日本もビジョンをもって、主体的に行動しないと不利になります。

政府は、CO2の排出をゼロにする目標を掲げましたが、その達成の手順が明らかにされていません。したがって、「CO2の排出をゼロ」はビジョンとは言えないわけです。CO2で政府が、ビジョンを描けないことがわかってしまいました。

コロナで、売り上げが落ちている飲食店に時短要請をして、補償金を払ったり、雇用助成金を出します。しかし、それによって、ポストコロナがどうなるのか、まったく、ビジョンがありません。転職が必要であれば、雇用助成金でつなぎとめるのではなく、新しいスキルの習得にお金を使うべきです。

テレビをみていたら、某大臣が出ていて、ワクチン接種のスケジュールについて質問が出たのに対して、ワクチンの許認可がまだなので、予定はわからないという返事をしていました。これは、政府は、ワクチン接種のビジョンを持っていないか、持ちたくないという返答で、これをいったら終わりだと思いましたが、マスコミはその点は、何も指摘しませんでした。マスコミも、コロナ対策のビジョンを示す気はさらさらないようです。

1990年頃まで、日本が失われた30年に入る前に、世界は、日本は、ビジョンを持っていると思っていました。ソニーやホンダが輝いていて、あるいは、通産省のIT戦略が、脅威になると思われていた時代もあったのです。しかし、今から振り返ると、ソニーやホンダの創業者を除けば、結局は、外国のビジョンをコピーして輸入していただけのように思われます。

前回は、COCOAの問題を取り上げましたが、要点は、コロナ対策のビジョンがあって、その一部を実現するツールとしてCOCOAを組み立てていれば、あのようにはなりえなかったと思われます。

ビジョンは演繹法です。過去の類似事例を調べて、個別の問題に対応するのは帰納法です。帰納法は基本的には、カーネマンのファスト脳回路です。ビジョンは演繹法なので、スロー脳回路の働きです。行政や企業の方針を見て、どちらに、対応しているかを判断すれば、その方針で将来どうなるかが、大まかに予測できます。たとえば、銀行がビットコインを導入するのは、類似の企業を調べて、取り残されないようにビジョンをコピーする方法で、ファスト脳回路です。コピーされたビジョンは、見えない先の展開を含んでいないので、ビジョンとはいえません。これに対して、問題はあるにしても、ロビンフッドには、ビジョンがあります。ファスト脳回路を使っている人は、スロー脳回路を使ったビジョンは理解できないので、マネはできますが、永久に追いつくことはできません。

つまり、日本というは場所は、世界を創るビジョナリストが生息していないか、生息できない環境であると思われます。(注2)

注1:

帰納的手法で生き残れないのが、IT企業だけならよいのですが、恐らく、10年以内に、IT化できない企業が全滅してしまいIT系企業しか残らなくなる可能性が大きいです。

注2:

ソフトバンクや、ユニクロのトップは、例外的にビジョナリストと言えるかもしれません。楽天は厳しいでしょうか。