フュージョンと良い写真をめぐる考察(6)

モノクロ、線画とフュージョン

前回カラーを話題にしたので、モノクロについても触れておきます。

最初に、線画について触れます。写真では、線画という表現は基本的にはありえませんが、画像処理では可能です。

写真1は画像処理で作った線画です。西洋絵画の歴史には、浮世絵などが入る前には、線画はありません。漫画は、基本が線画なので、日本のアニメが人気があるのは、この点も影響しているかもしれません。線画も、目のフュージョンに対抗する表現であることを指摘しておきます。

さて、モノクロの表現は目のフュージョンでは原則ありません。しがって、モノクロ写真は、目のフュージョンに対抗する表現であるともみなせます。もちろん、歴史的に、写真でモノクロが多用された理由には、大きなダイナミックレンジ、高い解像度、現像と印刷のしやすさがあったことは事実です。しかし、モノクロ写真を見ると、目と脳は、色を再現しようとする傾向があります。この傾向は、動画でより顕著で、モノクロの映画や、テレビを見ていて、引き込まれると、モノクロであることは忘れてしまいます。

写真2と3は、古い建築です。現在の建築の色は、写真3のように色あせています。建築当初は鮮やかな朱色と緑だったはずです。写真2のモノクロの場合には、見る側に、そうした知識があれば、朱色と緑に見えるはずです。

写真4と5は、原爆ドームです。おそらく、この写真を見た人は、原爆が広島に落ちた時を想像すると思われます。そうした想像やノスタルジーを引き出しやすいのは、モノクロと思います。ここでは、セピアに色をつけています。カラーキャリブレーションの「BW iluimanse- mased」でモノクロに変換したあとで、LUT3Dで、セピアに変換しています。「BW iluimanse- mased」を使うと、自動的にダイナミックレンジが広がったモノクロ写真になります。なお、今回のモノクロ写真は、写真4以外は、全て、カラーキャリブレーションで、「Fuji Acros 100」を使っています。

写真6と7は、夜の原爆ドームです。筆者は、夜のモノクロ写真は各段の注意を要すると考えます。理由は2つあります。

カラー写真でも、黒い部分が多いので、カラーとモノクロの差がつきにくいです。

夜の風景で、暗くなると目のセンサーは、風景をモノクロとして認識します。このため、モノクロが、目のフュージョンに対抗する表現ではなくなります。つまり、写真6を見ても、色がないことに対する違和感がなくなります。(注1)

写真8と9は、フィヨルドの写真です。自然の風景で、色の効果は絶大なので、この2枚で、モノクロの写真の方が好みだという人は少ないでしょう。しかし、自然風景のモノクロ写真は、アンセル・アダムスの十八番です。アダムスの写真を見て、研究すれば、カラーを越えるモノクロ写真が作れるかもしれません。この画像は元がJpegでRAWではありません。

写真9を見ていて、この写真を撮影したときは、油絵の風景画を描くように、色による構図は頭の中にあったことに気づきました。つまり、色を外してしまうと、写真の意図が見えなくなるのです。そこで、写真10では、主題を滝と集落に集中するようにトリミングして見ました。トリミングの比率が大きいの画像が劣化していますが、モノクロ写真の主題の点では、写真10が写真8より、優れています。

 

写真11と12は、トルコの古い町並みです。この2枚で、モノクロがよいという人は皆無と思ってのせています。というのは、日本人で、このタイプの街並みを見たことのある人は少ないので、モノクロ写真を見ても色が付けられないのです。トルコの人が見れば、当然、違ってきます。

 

まとめ

写真は、目でなく、脳で見ているという事実をモノクロ写真は突きつけます。これは、目のフュージョンに対抗する表現です。この点を理解すれば、モノクロ写真にしかできない表現が可能と思われます。

 

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写真1 線画の例

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写真2 五重塔

 

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写真3 五重塔

 

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写真4 原爆ドーム

 

 

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写真5 原爆ドーム

 

 

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写真6 原爆ドーム(夜景)

 

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写真7 原爆ドーム(夜景)

 

 

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写真8 フィヨルドノルウェー

 

 

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写真9 フィヨルドノルウェー

 

 

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写真10 フィヨルドノルウェー

 

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写真11 マルディン(トルコ)

 

 

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写真12 マルディン(トルコ)