1)推論の根拠
正しい推論とは何でしょうか。
全国知事会は2025年11月11日、外国人の受け入れなどに関するプロジェクトチーム(リーダー=鈴木康友・静岡県知事)の会合を開き、多文化共生社会の実現に向けた共同宣言案をまとめました。外国人の受け入れが増える中、「外国人が増えると犯罪が増える」といった根拠がない情報がSNSで見受けられると指摘し、国民の不安を払拭(ふっしょく)するよう国に正確な情報発信を求めるものです。2025年11月26日に開く全国知事会議で正式決定する計画です。
リーダーの鈴木氏は、「不安払拭にはファクトが必要である」といっています。
しかし、この推論は、破綻しています。
「不安払拭にはファクトが必要である」という主張は、現在は、ファクトがないことを指しています。
「外国人が増えると犯罪が増える」という主張は、根拠がない情報かもしれまっせんが、
「外国人が増えても犯罪が増えない」という主張も、根拠(ファクト)がない情報です。
つまり、ファクトがないので、「外国人が増えても犯罪が増えない」という主張と「外国人が増えても犯罪が増えない」という主張のどちらが正しいかはわからないことになります。
「外国人が増えると犯罪が増える」といった情報に根拠がないことは、「外国人が増えると犯罪が増える」という仮説が間違っているという主張の根拠にはなりません。
根拠がないことは、仮説が間違いであるという理由にはなりません。
2)数的言語
全国知事会は、「外国人が増えると犯罪が増える」を、「外国人が増えると犯罪率が増える」と読み替えている可能性があります。
これは、犯罪率という数的言語を使わないために、コンテキスト依存性が高くなっている問題です。
仮に、外国人と日本人の犯罪率が同じでも、人口が増えれば、それだけ犯罪件数が増えます。
「外国人が増えると犯罪が増える」を、「外国人が増えると犯罪件数が増える」とよめば、この主張は常識的なものです。
従来と同じレベルに犯罪を押さえるためには、予想される犯罪件数に合わせて、警察官を配備する必要があります。これは、警察官を過疎地域から、外国人人口の増加地域に移動することで可能です。
とはいえ、2025年には、過疎地域では、クマの被害が出ていて、警察官のクマ対策の仕事が増えているので、移動の賛成を得ることは難しいかもしれません。
3)交番システム
交番システムは、日本独自のシステムです。
交番システムでは、交番は、担当のエリアを持っていて、警察官は、そのエリアの状況を把握することで、犯罪の発生確率を下げます。
伝統的な一戸建て住宅地域であれば、転入すると警察官が、挨拶にきます。警察官は、各戸に、どのような住民がいるかをだいたい把握しています。
学生街のような、転入・転出の激しい地域では、このシステムは、部分的にしか機能しなくなります。それでも、近くの大学の数が少ない場合には、警察官は、どのアパートには、どの大学の学生が住んでいるかというレベルの情報はもっています。
交番の担当エリアに、外国人が住んでいる場合にも、学生街と同じような問題が発生します。
転入・転出の激しい場合には、交番システムは破綻します。
例えば、マンションの1室を民泊ホテルにする場合には、交番システムは、まったく機能しなくなります。
交番が担当するエリアの人口が増加した場合、治安の悪化を防止するために交番システムを維持するには、警察官の増員が必要になります。
この必要な増員数は、人口増加に単純に比例するわけではありません。
4)データ表現先行パラダイム
パールは、「データ表現ー>データ取得ー>データに基づく推論」というデータ表現先行パラダイムがあるといいます。
ジム・ロジャーズ氏は、母国をさって、わざわざ海外で一旗あげようとする人に、犯罪目当ての人が含まれる確率は低いといいます。
2025年10月16日、アメリカ財務省はカンボジアの「プリンス・グループ国際犯罪組織」に関連する幹部および団体ら146人を対象とした在米資産凍結などの制裁と、12万7271BTC(ビットコイン。約2兆1600億円相当)という巨額の資産の没収を発表しました。制裁の理由は、特殊詐欺拠点をすくなくとも10か所運営していたことと、その拠点内での奴隷的強制労働・拷問・殺人、マネーロンダリングです。「プリンス・グループ」の経営者は福建省連江県出身の陳志(チェン・ヂー、ヴィンセント・チェン)(38歳)で、カンボジアと他の国の国籍を持っています。
「プリンス・グループ」が2022年以降、日本国内に少なくとも関連会社3社を設立していたことが2025年11月16日にわかっています。
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【独自】国際詐欺集団、日本に3社設立 米が制裁、カンボジア企業 2025/11/16 KYODO
https://news.yahoo.co.jp/articles/e556a49251835b8a3a7be6df93f775c74739fcf1
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「プリンス・グループ」の経営者が、中国から出国するときから、犯罪を目指していたのか、カンボジアに移住してから、犯罪に手を染めたのかは不明です。
しかし、ジム・ロジャーズ氏の議論も、アメリカ財務省の対応も、外国人移民の数を問題にしているのではなく、外国人移民の犯罪のデータを問題にしています。
つまり、この議論をするためには、ひとりひとりの外国人移民のデータに、犯罪に関するデータが紐づけられていることが前提になります。
外国人移民1人分のデータはベクトルであり、複数の外国人移民のデータは、マトリックスになります。イメージを示します。
氏名 年齢 性別 国籍 スキル 犯罪のリスク
A X X X X X
B X X X X X
C X X X X X
外国人の受け入れとは、このマトリックスのフィルター設計問題になります。
経済学のモデル、例えば、コブダグラス関数では、労働者は労働力にすぎません。
簡単にいえば、経済モデルは、高度人材と犯罪者を区別できません。
これは、経済モデルのデータ表現には、上記のマトリックスが含まれていないためです。
経済学者は、外国人労働者がふえた場合には、犯罪のリスクを推論できるデータを持ちません。
全国知事会も、外国人労働者がふえた場合には、犯罪のリスクを推論できるデータを持っていないと思われます。
データ表現に含まれない内容を推論することはできません。
5)不偏推論
ここまでの検討は、正しくない推論があるという問題でした。
正しい推論とは、通常は、仮説が検証された推論を指します。
ここまでの検討は、正しくない推論を排除する方法を取り上げています。
通常の正しい推論という名前は使えないので、この正しくない推論を排除する方法を、ここでは、不偏推論と呼ぶことにします。
6)ファクトとエビデンス
これは、観察と介入の区別ができていないことを示します。
推論は、EBPM以前のレベルにあります。
観察と介入の区別ができていない議論では、政策効果(介入)の検討は不可能になります。
生成AIは、観察と介入の区別ができます。
この場合に、生成AIは、不偏推論ができるが、全国知事会は、不偏推論ができないと言えます。