因果推論と帰納法(1)

1)帰納法の間違い

 

因果推論からみれば、帰納法は、間違いです。

この間違いの原因は、帰納法には、仮説の検証力がない点にあります。

 

データサイエンスでいえば、帰納法は、「モデル作成・検証・モデル適用のデータの違いを無視している。過学習である。交絡因子を無視している」ことになります。

 

仮説の検証力がないことは、帰納法で作った仮説が間違っている可能性が高いことを意味します。

 

仮説の検証には、前向き研究で得たエビデンスが必要であり、高いハードルがあります。

 

しかし、帰納法で得られた仮説が間違っていることを示すには、反例を提示するだけで十分です。

 

つまり、帰納法の束縛を離れて、より自由に、クリティカルシンキングできれば、今まで、見えなかった世界が見えてきます。

 

2)教育と社会的成功

 

学校の成績が良ければ、将来の所得があがるかという教育経済学の問題があります。

 

その結果を見ると、大学の成績上位者や難関大学の学生といった「学業成績」の上位者の将来の所得が高くなる傾向は見られていません。

 

ペンシルバニア大学のアンジェラ・リー・ダックワース教授は、社会的な成功に必要な要素は、「学業成績」ではなく、「グリット(やり抜く力)」であるといいます。

 

経団連(⽇本経済団体連合会)は、2018年に加盟企業に行った「新卒⼀括採⽤についてのアンケート」の「選考にあたって特に重視した点」の上位5位は、「コミュニケーション能⼒」「主体性」「チャレンジ精神」「協調性」「誠実性」です。「学業成績」は重視されていません。

 

「新卒⼀括採⽤についてのアンケート」は、社会的な成功には、「学業成績」は関係がないという教育経済学の成果を反映しているように見えます。厳密には、少し違いますが、ここでは、話を単純化します。

 

さて、問題は、ここからです。

 

因果推論を使って、クリティカルシンキング(反例を考える)をすれば、どうなるでしょうか。

 

帰納法の致命的な欠陥は、因果構造を無視している点にあります。

 

例えば、イーロン・マスク氏は、現代を代表する経営者です。

 

マスク氏は、「グリット」「主体性」「チャレンジ精神」「学業成績」では高いスコアを出すと思われます。

 

一方、マスク氏の「コミュニケーション能⼒」「協調性」「誠実性」は高そうにありません。

 

教育経済学の成果では、社会的成功に必要な要素は、「コミュニケーション能⼒」「主体性」「チャレンジ精神」「協調性」「誠実性」になっています。

 

これは、日本の平均的な企業の平均的な傾向を帰納法でまとめています。日本企業の経営が効率的であれば、この方法でもよいかも知れません。しかし、日経平均とS&P500を比べれば、日本企業の経営には、問題があります。今後、日本企業が経営を改善していけば、「コミュニケーション能⼒」「主体性」「チャレンジ精神」「協調性」「誠実性」が重視されなくなる可能性があります。

 

DeepSeekは、難関大学の成績優秀者を優先して採用しています。「コミュニケーション能⼒」「主体性」「チャレンジ精神」「協調性」「誠実性」があっても、「学業成績」が悪ければ、生成AIのシステムを開発することはできません。

 

生成AIのシステムの開発に必要な能力とは、今まで、誰も解いたことのない数学の問題を解くことが出来る能力です。「コミュニケーション能⼒」「主体性」「チャレンジ精神」「協調性」「誠実性」は、役に立ちません。

 

今後は、AIの開発を重視するという経営戦略を提示している日本企業があります。そうした企業でも、「コミュニケーション能⼒」「主体性」「チャレンジ精神」「協調性」「誠実性」を重視した採用をしている場合がほとんどです。

 

なので、筆者は、日本企業の90%は、競争力のあるAIを開発できないと考えます。

 

これは、日本企業の90%が、生産性競争に負けて、淘汰される可能性が高いと言い換えることもできます。

 

マイクロソフトは、ソフトウェアの開発の大きな部分を、インドで行っています。この場合の「コミュニケーション能⼒」は、ネットワークを通じて、世界的に分業ができる能力を含みます。

 

生成AIが実用化しています。現在では、ソフトウェア開発に必要な「コミュニケーション能⼒」には、生成AIとコミュニケーションできる能力が追加されています。

 

教育経済学の成果と「新卒⼀括採⽤についてのアンケート」の「コミュニケーション能⼒」には、このような要素が含まれていません。

 

さらに、データサイエンスで考えれば、「コミュニケーション能⼒」「主体性」「チャレンジ精神」「協調性」「誠実性」といったオブジェクトには、明確に指摘できるインスタンスがありません。これは、テーマが、形而上学である可能性を示しています。

 

日本企業は、大学院卒業生を採用しません。これは、日本企業が、採用にあたって、「コミュニケーション能⼒」「主体性」「チャレンジ精神」「協調性」「誠実性」を重視して、「学業成績」を軽視しているからです。

 

大学関係者には、日本企業は、大学院卒業生を採用すべきであると主張する人もいます。

 

しかし、日本の大学院では、データサイエンスで言えば、帰納法のように、科学的に間違った推論を教育しています。

 

例えば、pハッキングが間違いであることが分ったので、ゴミ箱行きになった過去の研究成果が多くあります。

 

過去の研究が、ゴミ箱行きになったので、失職した大学教員の話は聞いたことがありません。

 

生成AIが出てくるまでは、物知りであることに経済的な価値がありました。

 

現在では、物知りであることに、経済的な価値はありません。

 

日本企業を相手に、過去のデータをあつめて、「学業成績」と、社会的な成功の間の相関を調べることができます。しかし、そこには、因果構造はありません。

 

物知りであることに経済的な価値がなくなるように、因果構造に変化がおこると、過去のデータをあつめて、帰納法で得た結論は、間違い(再現性がなくなる)になります。

 

しかし、帰納法を封印してしまった場合、日本の大学の研究室はいくつ残るでしょうか。

 

パールの「因果推論の科学」を読むと、「XXは、因果ではない」という表現が出てきます。

 

パールは、その先は、言わずもがなであるとして何も言いません。