法の支配(1)

1)首相の発言

 

石破茂首相は、2025年2月13日の衆院本会議で、7日にワシントンで臨んだトランプ米大統領との首脳会談を報告した。共同声明から「法の支配」の文言が落ちたとの指摘に「法の支配を重視する立場に全く変わりはない」と強調した。力による現状変更に反対する姿勢を示したと説明しました。

 

石破首相の説明では、「力による現状変更に反対する姿勢」が、「法の支配」になります。

 

しかし、この解釈では、フランス革命は、「法の支配」に反することになります。

 

この解釈では、民主主義は、「法の支配」に反することになります。

 

最近、政府は、「法の支配」という単語を多用しています。

 

「法の支配」が、問題なく、行われていれば、「法の支配」という単語が取り上げられることはありません。

 

つまり、首相は、<「法の支配を重視する立場に全く変わりはない」と強調>しましたが、実態は、「法の支配を軽視する立場」になっている可能性があります。

 

2)日本語版のウィキペディアの「法の支配」

 

日本語版のウィキペディアの「法の支配」から、引用します。

 

法の支配(英語: rule of law)は、専断的な国家権力の支配を排し、権力を法で拘束するという英米法系の基本的原理である。法治主義とは異なる概念である。

 

「法の支配」とは、統治される物だけでなく統治する側もまた、より高次の法によって拘束されなければならないという考え方である。大陸法的な法治主義とは異なり、法の支配では法律をもってしても犯しえない権利があり、これを自然法憲法などが規定していると考える。

 

(中略)

 

法の支配は、極めて歴史的な概念で、時代や国、論者により異なる様相を呈する多義的な概念である点に留意が必要である。

 

(中略)

 

法の支配と法治主義

 

大陸法系においては、ローマ法が普及するに伴い「法の支配(Rule of Law)」は衰退し、19世紀後半にドイツのルドルフ・フォン・グナイストが理論的に発展させた「法治主義」(rule by laws、独:Rechtsstaat)が浸透していった。

 

法治主義は、法律によって権力を制限しようとする点で一見「法の支配」と同じにみえるが、法治主義は、手続きとして正当に成立した法律であれば、その内容の適正を問わない。したがって、「法の支配」が民主主義と結びついて発展した原理であるのと異なり、法治主義はどのような政治体制とも結びつき得る原理である。

 

 

英米法系の基本的原理」、「法治主義とは異なる概念」が、重要です。



法の支配は、「英米法系の基本的原理」であり、「大陸法的な法治主義とは異なり」ます。

 

法治主義は、手続きとして正当に成立した法律であれば、その内容の適正を問」いません。

 

「法の支配」とは、「統治される物だけでなく統治する側もまた、より高次の法によって拘束されなければならないという考え方」です。

 

政治式規制法違反では、議員は、「手続きとして正当に成立した法律」を守れば、「その内容の適正」にかかわらず、問題はないと主張しています。

 

これは、「法治主義」であって、「法の支配」ではありません。

 

つまり、日本は、「どのような政治体制とも結びつき得る原理である法治主義」であって、日本には、「法の支配」がないと思われます。

 

この違いは、重要です。

 

明治憲法は、「法治主義」であって、「法の支配」ではありません。

 

現在の憲法は、GHQが草稿をつくっているので、「英米法系の基本的原理」である「法の支配」を採用しています。

 

「法の支配では法律をもってしても犯しえない権利があり、これを自然法憲法などが規定していると考え」ます。

 

憲法になっても、明治憲法時代の個別法が残りました。

 

この個別法を文言通り実施すれば、「手続きとして正当に成立した法律であれば、その内容の適正」を問わない「法治主義」になってしまいます。

 

英語版のウィキペディアによれば、この問題は、「上級法による規則(Rule according to higher law)」の問題になります。「上級法による規則」は、後で考えます。

 

与党は、憲法改正を計画しています。

 

「法の支配では法律をもってしても犯しえない権利があり、これを自然法憲法などが規定していると考え」るので、憲法改正ができます。

 

筆者は、「法治主義」の憲法改正の根拠が理解できません。

 

<「法の支配」とは、統治される物だけでなく統治する側もまた、より高次の法によって拘束されなければならないという考え方>です。

 

統治する側(国会議員)が、利益誘導の法律をつくることができる状態は、「法の支配」と呼ばません。

 

簡単に言えば、国会議員の給与などは、国会で議決するにしても、法案は、独立した第3者機関が、提案すべきです。これは、「統治する側もまた、より高次の法によって拘束されなければならない」に相当します。

 

3)悪法も又法なり

 

日本語版のウィキペディアの「悪法も又法なり」には、次のように書かれています。

「悪法も又法なり」は、「世に存在する法律は、それがたとえ悪い法律であっても法律は法律であるため、それが廃止されない限りは守らなければならないという意味」

 

悪法もまた法であるという考え方は、法治主義の観点からは(少なくとも形式的には)正しいと見做され得るが、法の支配や自然法の観点からは否定されることが多い。

 

この記述には、問題があります。

 

ローマ法の「悪法も又法なり」の第1の意味は、「統治される物だけでなく統治する側もまた、より高次の法によって拘束されなければならないという考え方」、つまり、「法の支配」を意味する言葉です。法の前に万人は、平等であるという意味です。

 

日本語版のウィキペディアには、第2の意味が書かれています。

 

なお、「法の支配は、極めて歴史的な概念で、時代や国、論者により異なる様相を呈する多義的な概念である点に留意が必要である」も、同様に、「法の支配」に対する歪曲になっています。この問題は、英語版のウィキペディアで取り上げます。

 

4)人材の獲得

 

森永卓郎氏は、「日本は身分の高い人間に特権が用意されている!」と言います。

 

森永卓郎氏は、「アメリカでは、州・地方政府税については総合課税になっているのに、日本でできない理由はないはず」といいます。

 

<< 引用文献

森永卓郎が残した「最期の喝」…「日本は身分の高い人間に特権が用意されている!」 富裕層が優遇されている「日本の欠陥制度」の中身 2025/02/10 現代ビジネス 森永卓郎

https://gendai.media/articles/-/146117

>>

 

しかし、アメリカは、「法の支配」ですが、日本は、「法治主義」の可能性が高いです。

 

日本では、年功型雇用を中心にして、法度体制が残っています。

年功型雇用は、太平洋戦争のとき、法度体制を強化する目的で導入されています。

 

正社員と非正規雇用は、身分制度なので、「法の支配」ではありえない概念です。

 

ジョブ型雇用では、「正社員と非正規雇用」の区別がありません。

 

森永卓郎氏は、経済学のメンタルモデルで、議論していますが、「法の支配」は、法哲学(人権思想)のメンタルモデルでなければ、検討できません。

 

森永卓郎氏は、次のようにも言います。

いまの日本社会では、学歴があるかどうかで、職業選択の自由度が大きく変わる。

 

ただ、学歴というものは、所詮は肩書、ブランディングの問題に過ぎない。

 

ITビジネスアナリストの深田萌絵さんは、もともといわゆる「Fラン大学」の学生だったが、大学を卒業してもまったく就職できなかったので、一念発起して早稲田大学に入り直したところ、卒業の時点で就職先は選び放題だったという。

<< 引用文献

親が“お金持ち”でないと「東大」には行けない…森永卓郎が最期に提案した「親の所得が子どもの最終学歴を決める理不尽な時代」を根本から変える「画期的な方法」2025/02/10 現代ビジネス 森永卓郎

https://gendai.media/articles/-/146120

>>

 

森永卓郎氏の指摘は、年功型雇用が、法度体制であることを示しています。

 

「学歴というものは、所詮は肩書、ブランディングの問題に過ぎ」ませんが、それが、通用する根拠は、日本流の「悪法も又法なり」にあります。

 

日本企業の人事は、法度体制に組み込まれていて、人材の能力評価が全くできません。

 

日本の人材評価は、年齢、経験、ポストです。能力評価が入っても、せいぜい、過去の実績(経験の一部)にすぎません。

 

一方、ジョブ型雇用は、経験ではなく、能力評価です。

 

ジョブ型雇用も、毎年進化しています。

 

Wiredは、DeepSeekの人材獲得について、述べています。

DeepSeekの梁氏によると、DeepSeekで研究チームを編成した際、経験豊富なエンジニアの代わりに、自らの実力を証明したいと熱望する、北京大学清華大学など中国トップクラスの大学に通う博士課程の学生に焦点を絞った。中国のテクノロジー関連メディアである『QBitAI』によると、メンバーの多くは一流の学術誌に論文を発表したり、国際的な学術会議で賞を受賞したりしているが、業界での経験は不足していたという。

 

「当社の技術部門の中核を担うポジションは、ほとんどが今年、あるいは過去1から2年の間に卒業した人がほとんどです」と、梁氏は23年に『36Kr』に語っている。この採用戦略は、豊富なコンピューティングリソースを自由に使って、型破りな研究プロジェクトに取り組める、協力的な企業文化の創出に役立った。

<<

中国のDeepSeekが、OpenAIに匹敵するAIモデルを開発できた理由 2025/01/28 Wired

https://wired.jp/article/deepseek-china-model-ai/

>>

 

36KrJapanの記事は、更に、詳細です。

2024年末、中国で1人の若い女性に突如注目が集まった。中国スマートフォン大手・シャオミ(小米科技)の雷軍CEOが、「AI天才少女」として知られる羅福莉さんを年俸1000万元(約2億円)で大規模言語モデル(LLM)開発チームの責任者にスカウトしたからだ。ただ、現時点で羅さんはシャオミに入社しておらず、「まだ検討中」だとメディアは報じている。

 

破格の年俸もさることながら、羅さんが世間からこれほど注目される理由は、彼女がいま話題沸騰のAIスタートアップ「DeepSeek」のメンバーとしてAIモデル開発に関わってきたことにある。

 

ネット上の情報をまとめると、羅福莉さんは1995年生まれで、いわゆる「Z世代」に属する若き開発者だ。北京師範大学コンピュータサイエンスを学び、学部卒業後は北京大学でコンピュータ言語学修士課程に進学した。その後、アリババグループの最先端研究機関「DAMOアカデミー(達摩院)」の機械知能研究所に加わり、多言語事前学習モデル「VECO」や「AliceMind」のオープンソースプロジェクトに携わった。2022年、羅さんはアリババを離れ、DeepSeekに深層学習リサーチャーとして入社し、専門家混合モデル (MoE) 「DeepSeek-V2」の開発に参加した。

 

実は2019年の時点で、彼女はすでにSNS上で注目を集めていた。当時、まだ修士課程在学中だった羅さんは、人工知能分野のトップ国際会議であるACL(Association for Computational Linguistics)で8本の論文を発表(うち2本は筆頭著者)。これをきっかけに、「AI天才少女」という称号が彼女の代名詞となった。

 

(中略)

 

DeepSeekは2023年5月の設立以来、スタッフの規模を150人ほどに抑え、役職にこだわらないフラットな組織で、研究やリソース配分を進めてきたという。目下、AI開発企業の多くが数百人、ひいては数千人規模の開発チームを編成し、AI分野の経験豊富なベテランを高給で引き抜いているのとは対照的に、DeepSeekは職歴のない若者たちを好んで採用している。

 

DeepSeekと関わりのあるヘッドハンターの話では、DeepSeekが求めるのはベテラン技術者ではないという。「せいぜい社会経験3から5年までで、社会人になって8年以上だと採用はほぼ見送られる」

 

例えば、数学的推論に特化したAIモデル「DeepSeekMath」を開発した主要メンバー3人は、博士課程のインターン期間中にこの研究を行った。またDeepSeek-V3の研究者の1人は2024年に北京大学で博士号を取得したばかりの若手だ。

 

職歴のない新卒生の能力を測るうえで、出身大学のほかにコンテストでの実績が重要な指標となっているそうだ。複数の関係者によると、同社がコンテストの受賞歴を非常に重視しており、「基本的に金メダル以外は眼中にない」と明かしている。

 

実際、DeepSeekのメンバーの1人がネット上で公開した経歴は驚くべきものだった。北京大学を卒業後、ACM国際大学対抗プログラミングコンテストに3度出場し、いずれも金メダルを獲得。さらに、学部在学中にトップクラスの学会で6本(うち2本は共著)の論文を発表するなど、際立った実績を持っている。

 

(中略)

 

人材サイトで公開されている情報を見ると、DeepSeekはこれまでに複数の職種で採用を行っており、一部の給与データも明らかになっている。同社は「年収=月給×14ヶ月分」という給与制度を採用しており、過去の求人情報(詳細は下表)では、最も高い年収の職種は「深層学習リサーチャー」で、月給は8万〜11万元(約168万から230万円)。年間14カ月分で計算すると、年収は税引き前で最高154万元(約3230万円)に達する。

 

(中略)

 

現在、多くの中国のAI開発企業は海外から優秀な人材を引き抜くことに必死になっているが、「AI分野で特に優れた人材トップ50人のうち、中国企業に所属している者は一人もいない」とも言われている。それに対して梁氏はこう述べた。

 

「世界のトップ50の人材が中国にいないとしても、そのような人材を自分たちで育てることができるかもしれない。トップレベルの人材が最も強く惹かれるのは、世界的な難題に取り組み、それを解決することだと思う

<< 引用文献

たった150人で世界に激震! 話題の「AI天才少女」を擁するDeepSeekの人材採用論2025/02/04 36KrJapan

https://36kr.jp/328412/

>>

 

前述のリポートでは、DeepSeekが人材確保のためにも大量の資金を投じていることが示されている。同社は有望な開発者に対し、中国のテック大手やほかのAIベンチャーの給与水準をはるかに上回る年俸130万ドル(約2億円)以上を提示したとのことだ。

 

現在、DeepSeekの従業員は150人ほど。特徴的なのは、採用時に事前にポストを決めるのではなく、応募者の能力に応じて柔軟に役割を決定する点だ。過去のキャリアではなく、能力や好奇心を重視し、北京大学浙江大学などの中国国内の名門校で定期的に採用活動を実施している。

 

中国の人材サービス大手BOSS直聘(BOSS Zhipin)には、DeepSeekの求人が37件掲載されており、コアシステム開発エンジニアは月給5万から8万元(約110万から170万円)、深層学習リサーチャーは月給6万から9万元(約130万から190万円)で、インターン生以外は「年収=月給×14ヶ月分」という給与体系を採用している。

<< 引用文献

 

「コスト600万ドル」は誤解。中国DeepSeekの真実:GPUを5万枚以上保有、年俸2億円も 2025/02/06 36KrJapan

https://36kr.jp/328412/

>>

 

石破首相の説明では、「力による現状変更に反対する姿勢」が、「法の支配」になります。

 

つまり、「日本流の法の支配」とは、法度体制の「現状変更に反対する姿勢」を排除する「法治主義」を指しています。

 

法治主義」は、民主主義ではなく、「法の支配」ではありません。

 

「日本流の法の支配」は、森永卓郎氏のいう身分制度(法度体制)のことです。

 

科学を否定する法度体制が、日本の科学技術を破壊しています。

 

「AI分野で特に優れた人材トップ50人のうち、中国企業に所属している者は一人もいない」といわれますが、これは、日本にもあてはまります。

 

法度体制では、この問題を議論することはタブーであり、将来、AIに入れ替わる全く意味のないリスキリングがすすめられています。

 

補足:

テレ朝は、次のように伝えています。

 

文部科学省はAIなどの研究力向上のために、日本と共同研究を行うインドからの留学生や若手研究者に対する支援の拡充を目指しています。

 

文科省は2025年度の予算案で、AIなどの先端技術分野でインドの大学院生や若手研究者と共同研究を行う大学への支援の拡充を計画しています。

 

支援の期間は1年で、最大270人ほどを対象に1人あたり300万円を想定しています。

 

論文の量、質ともに日本よりも上位に位置するなど、理工系分野に強いインドとの人的交流を強化して、研究力や競争力の向上をねらいます。

<< 引用文献

共同研究で来日のインド人留学生や研究者に300万円支援へ AIなど研究力向上 2025/02/14 テレ朝

https://news.yahoo.co.jp/articles/b9e1ac47e26fee021ee383557b962ef081591526

>>

 

文部科学省の政策は、確率変数(分布)を無視しています。

 

下図の上段が、エンジニアの能力ヒストグラムです。

縦軸が頻度で、横軸は能力になります。

 

下図の下段が、エンジニアの収益性です。

 

収益のあるエンジニアは、黄色の部分になります。

 

赤い部分のエンジニアには、収益性はありません。

 

DeepSeekでは、黄色の部分の人材だけを集めています。

 

1人あたり300万円では、赤い部分の人材しかあつまりません。

 

インドでは、高等学校のレベルで、複数のコンピュータ言語をマスターしています。

 

大学入学時には、能力差が、分かれてきています。