14)クスリの費用対効果
高額医療費問題は、ペンディングになったようです。
「こども政策の強化に関する関係府省会議」のレポートは、科学的(統計学)に、間違った推論です。
科学的に間違った推論をすれば、効果のある政策(エビデンスのある政策)は、実施できません。
高額医療費問題は、これから医療の費用対効果分析に進む可能性があります。
しかし、事態は予断を許しません。
市川衛氏は、ゾコーバの費用対効果分析について説明していますので、引用します。
なお、現在使われている薬の7割以上には、エビデンスがありません。EBMが出てきてまだ30年ですので、それ以前から使われている薬には、エビデンスはありません。
高額医療費問題では、キムリアとオプチーボが取り上げられました。こうしたがんの薬は、例外的に、エビデンスが厳密に計測されています。特に、アメリカで認可されている新薬には、エビデンスがあります。
市川氏は、次のように書いています。(筆者要約)
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2024年10月9日(水)の中央社会保険医療協議会(中医協)で、国内で開発された初の抗新型コロナウイルス薬であ「ゾコーバ(エンシトレルビル)」を最低ランクである「費用増加」と評価することが承認されました。
要は「せき止め薬などの一般的な治療に加えて使っても、重症化予防や症状の緩和、さらには罹患後症状(いわゆるコロナ後遺症)の予防などの効果があるかは示されておらず、余分なお金だけがかかる」ということです。
指摘は、次の2点です。
1)一般的な風邪の治療(咳止め薬や抗ヒスタミン薬を含むかぜ薬)と比較をしていない。
2)臨床試験において、計画より多くの患者を分析対象としていた。
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ゾコーバの処方を処置Aとします。
かぜ薬の処方を処置Bとします。
この2つの処置には、次の組合せがあります。
A and B
A and ¬B
¬A and B
¬A and ¬B
ゾコーバの臨床試験では、「A and ¬B」と「¬A and ¬B」を比べて効果があったとしています。
市川氏は、1)を「A and ¬B」と「A and B」を比較していないという説明をしています。
しかし、筆者には、1)は、第1には、「A and ¬B」と「¬A and B」を比較していないという指摘に思われます。
「A and ¬B」と「A and B」を比較していない場合は、第2の検討対象に思われます。
これは、ゾコーバの効果が、安価で、安全性が検証されているかぜ薬より小さければ、高価なゾコーバを使う理由はありません。
仮に、ゾコーバの効果が、かぜ薬と同じであれば、費用の安いかぜ薬を優先すべきです。
これは、費用対効果(便益)分析の考え方です。
費用対効果をつかって、無駄を省けば、効果は変わらずに、医療費を減額することができます。減税が可能になります。
市川氏は、かぜ薬のような市販薬以下の効果しかない(「費用増加」という最低ランク)という評価を受けた新薬の価格についても、ラゲブリオを例に説明しています。
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ラゲブリオの場合、「費用増加」という最低ランクの評価を受けた結果、薬価は引き下げられました。ただし約9万4000円から8万6000円程度と、引き下げ幅はおよそ8%に留まりました。
「余分な費用がかかるだけ」とまで評価された割には、そんなに変わらない?と感じる方もいるかもしれません。
薬価は、「本体価格+加算部」で構成されます。
これは別に、何か手心が加えられたわけではなく、そもそも価格の引き下げ額が一定の範囲(加算部)に限定される制度になっているためです。
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<< 引用文献
【速報】ゾコーバも「追加的有用性なし」 1治療5万円以上する新型コロナ治療薬は「余分なコスト」なのか 2024/10/09 市川衛
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/5cf7aeef574b8e81b2c6fad87894c42aaa121d5a
>>
ラゲブリオの場合、本体価格が92%で、加算部が、8%でした。
これは、「法の支配」で考えれば、「法の支配」(能力主義、薬の効果に基づく部分)が8%で、「法治主義」(許認可利権に基づく部分)が、92%であることを意味します。
つまり、「法治主義」(権威主義、法度制度、利権優先、鉄のトライアングル)をやめて、薬価が、100%費用対効果に基づいて算定されれば、医療費の92%がカットできることを示しています。
もちろん、92%は平均ではありません。しかし、ベイズ統計の場合には、議論は、事前情報からスタートします。ここでは、「法の支配」と「法治主義」の構成比が問題になります。
ここまでの検討で、この問題について、得られた唯一の情報は、8%対92%でした。
ベイズ統計では、このような事前情報から議論をスタートします。
なので、この数字は荒唐無稽ではありません。
92%は、鉄のトライアングルのキャッシュバックの財源になっていると思われます。
ここでの検討は、医療費の費用対効果の問題でした。
「こども政策の強化に関する関係府省会議」のレポ―トには、予算(費用)のみが記載されていて、効果の記述は皆無です。
そこで、唯一の事前情報である「8%対92%」をつかえば、費用対効果分析に基づき、92%のこども政策をカットしても、同じ政策効果が得られると推論できます。この数字では、ファクトのデータが追加されれば、更新されます。
同様に、法度体制のもとでは、多くの政策では、予算(費用)のみが記載されていて、効果の記述は皆無です。
費用対効果分析のファクトに基づいて、政策選択をすれば、予算は大きく削減が可能です。
13)pーハッキング
「2)」は、pーハッキングがあったと言っています。
「高等学校統計」では、pーハッキングの方法を教育しています。
<< 引用文献
「高等学校統計実践報告②「仮説検定」 林兵馬
https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/kou/math/jissen_arch/202207/
>>
林兵馬氏は、ASAの声明の和訳を引用しています。
<< 引用文献
一般社団法人 日本計量生物学会に掲載のASAの声明
Wasserstein RL, Lazar NA. Editorial: The ASA’s statement on p-values: Context, process, and purpose. The American Statistician 2016; 70: 129-133.
https://www.biometrics.gr.jp/news/all/ASA.pdf
>>
英語版のウィキペディア「Data dredging」には、次のように書かれています。
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データドレッジング(データスヌーピングまたはpーハッキングとも呼ばれる)は、統計的に有意であると提示できるデータ内のパターンを見つけるためにデータ分析を悪用することであり、これにより偽陽性のリスクが大幅に増加し、過小評価されます。これは、データに対して多くの統計テストを実行し、有意な結果が返ってきたものだけを報告することによって行われます。
>
ゾコーバのpーハッキングは、「これは、データに対して多くの統計テストを実行し、有意な結果が返ってきたものだけを報告する」に該当しています。
英語版のウィキペディア「Misuse_of_p-values」には、次のように書かれています。
<
p値の誤用は、科学研究や科学教育では一般的です。p値は多くの場合、誤って使用または解釈されます。
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カーンアカデミーの「高校の統計(High school statistics)」は、GAISE IIに対応していますので、pーハッキングは、カリキュラムにはありません。
14)Real-World Evidence
FDAガイドラインで、pーハッキング問題がどのように扱われてるかを調べたのですが、今のところ、はっきりしていません。
<< 引用文献
Real-World Evidence
https://www.fda.gov/science-research/science-and-research-special-topics/real-world-evidence
>>
読みやすい和文献は、英語の論文を翻訳した(平松且稔 、Annabel Barrett 、宮田泰彦 2021)「日本におけるリアルワールドデータとリアルワールドエビデンスの現状、課題、そして今後の展望」です。
このなかで、著者は、日本のリアルワールドエビデンスの推進上の問題の改善のために、次のような提案をしています。
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様々なデータベースに別々に存在する個々の患者の診療データを国民識別番号(マイナンバー)で連結して、大規模で高品質な各個人の生涯健康記録を作成することを提案する。厚生労働省は 2021 年に医療機関で健康保険証の代わりにマイナンバーカードを利用できる新しいプロジェクトを開始し、2023 年までにほぼすべての医療機関で利用できるように取り組んでいる。この動きは、RWD とマイナンバーを連結させるという提案を後押しすることになるであろう。
マイナンバーを家族情報とも紐づけることを提案する。これにより、遺伝性疾患の発症と家族歴との関係について信頼度の高い情報を元に研究できるようになる。
日本の全国民にインターネットを利用できる権利を保障し、全国民が必要なパーソナルヘルスデータの入力を行える体制を構築し、治療や診断に活用されるようにすることを提案する。PHR データは、医療機関の電子カルテに適宜、取り込みがされている。
診療データベースの国際標準化を進めることを提案する。
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<< 引用文献
日本におけるリアルワールドデータとリアルワールドエビデンスの現状、課題、そして今後の展望 平松且稔 、Annabel Barrett 、宮田泰彦 2021
https://www.phrma-jp.org/library/library202202/
>>
この論文は、2021年にでたので、既に4年経っていますが、マイナンバーの議論は、全くありません。
リアルワールドエビデンスを推進すれば、費用対効果分析が幅を効かせて、利権部分がなくなります。これは、法度体制(鉄のトライアングル)の崩壊になります。
つまり、法度体制(年功型雇用、政治献金のキャッシュバックを含む鉄のトライアングル)で出来ている政府には、リアルワールドエビデンスと費用対効果分析を阻止する動機があります。
動議があるということは、利害関係者ですから、民主主義の3分立ルールでは、いったん、退席するべきであると言えます。
リアルワールドエビデンスに対応するリアルワールドデータがなければ、医療におけるAIの利用は不可能になります。
NHKは次のように伝えています。
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政府は2月28日の閣議で、AIの開発や活用に関する新たな法案を決定しました。政府は、AIによって国民の権利や利益が侵害される事案が発生した場合、調査や事業者への指導などを行うとする一方、適正な研究開発や活用も推進するとした法案を国会に提出しました。一方で、AI技術の適正な研究開発や活用を図り国際競争力を向上させるため、政府がすべての閣僚からなる本部を設置し、基本計画を策定することも盛り込んでいます。
平デジタル大臣は、閣議のあとの記者会見で「AIの包括的な規制をするわけではなく、リスクが高そうなところは民間事業者と情報共有し、報告してもらうという考え方だ。政府の司令塔機能を強化するためにも法案が早く成立することを願っている」と述べました。
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<< 引用文献
AI開発や活用の新法案 国会に提出 リスク施策や開発推進 政府 2025/02/28 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250228/k10014735811000.html
>>
「政府がすべての閣僚からなる本部を設置してつくる基本計画」は、法度体制の維持を目的とした計画です。
「基本計画」は、「法治主義」であり、「本体価格+加算部」でいえば、本体価格の割合を増やす計画です。つまり、基本計画を遂行すれば、費用対効果が無視され、非効率あるいは効果のない政策に、税金は投入されます。
「基本計画」を進めば、効率が低下して、財政赤字が拡大して、増税が繰り返されます。
その結果、一人あたりGDPは低下しつづけます。
これが、過去30年繰り返されたことです。
ファクトとエビデンスがあれば、費用対効果分析が可能になり、非効率あるいは効果のない政策は追放されます。しかし、それでは、法度体制が崩壊するので、政府は、ファクトとエビデンスを封印しています。
「政府の司令塔機能を強化する」とは、法度体制を強化することであり、社会主義政策です。
政府は、あくまで、法度体制の強化のために、ファクトとエビデンスを封印する計画です。
そのために、「AIによって国民の権利や利益が侵害される事案が発生した場合、調査や事業者への指導などを行うとする一方、適正な研究開発や活用も推進する」といいます。
リアルワールドデータは、絶対阻止する計画です。
AIは、コンピュータサイエンスの産物です。AIは、コンピュータサイエンスのメンタルモデルがなければ、記述することができません。
道路を走っている自動車と、おもちゃの自動車があります。どちらも自動車です。この2つの自動車を区別するためには、機械工学の言葉が必要になります。
「閣僚からなる本部」は、コンピュータサイエンスの言葉を持たないので、本物のAIとおもちゃのAIを区別することができません。
この2つを混同した司令塔には、太平洋戦争の大本営レベルの能力しかないはずです。
政治家が、科学者より偉い(政治主導)というのは、法度体制であり、科学(能力主義)の否定になります。これは、「新時代の日本的経営」に対応しています。