ソリューション・デザイン(30)

 

(30)政府にできること

 

(Q:政府にできることとできないことの境界はどこにあるのでしょうか)

 

1)政府にできないこと

 

政府は、「〇〇をする」といって、赤字国債を発行して、予算をつけます。

 

これは、かなり異常なことです。

 

北欧の国のような人口が1000万人クラスの国では、人材と予算が限られていますので、政府は、実現可能なことに絞って対策を打ち出します。

 

何でもできると考えて予算をばら撒くことができるのは、大国の場合だけです。

 

1990年頃は、日本は大国でしたが、2023年には、日本はもはや大国ではありません。

 

軍事費を増やしても、アメリカと中国なみにはできません。

 

ですから、国力に応じた政策の絞りこみが必要です。

 

スペースジェットは敗退してしまいました。

 

国産ロケットも、現状をみれば、世界市場で価格競争が得られるとは思えません。

 

1990年頃には、アジアでは一番ランキングが高かった日本の大学も、競争力がなくなっています。

 

1960年代に、経済産業省(旧通産省)は、日本は、資源がないので、加工貿易で食べていくと考えましました。その時に、日本の唯一の資源は人なので、教育が重要であると認識されていました。国立大学の授業料は、年間1万2千円で、返済免除の奨学金もありました。大学進学率が低かったので、エリートを優遇する財政負担は小さかったのです。

 

現在の高等教育は、病んでいます。

 

大学進学率があがりましたので、大学卒業はエリートではなくなりました。しかし、大学生の学力の分布をみるとトップ集団のレベルが極端に落ちています。これは、学生数が減って、旧帝大レベルの難関校に入学しやすくなった一方、難関校を卒業しても、給与が保証されないためです。初任給に差がないので、学生は勉強しません。学生の学力の分布に合わせた高等教育にはなっていません。

 

2)撤退の計画

 

政府は、「〇〇をする」といって、予算をつけます。

 

しかし、それは実現可能でしょうか。

 

この段階で、出来る、あるいは、出来ないというのは、科学的な態度ではありません。

 

必要なことは、状況判断に必要なデータ収集を行い、そのデータに戻づいて、継続、撤退、あるいは、計画変更するする手順を事前に決めておくことです。

 

残念ながら、そのような議論はなされていませんので、スペースジェットと同じようなエラー(不合理な撤退)が起こる可能性があります。

 

計画が、成功するか、失敗するかは、事前に予測不可能です。

 

ですから、撤退したことが問題ではなく、予定通りに撤退できなかったことが問題になります。

 

3)出口から考えること(A:政府にできることとできないことの境界)

 

「(28)年功型雇用とアマチュア」で、出口から考えることの有効性を指摘しました。

 

この手法を、「ラピダス」に使ってみます。

 

なお、以下では、特定の個人を問題にするのではなく、「〇〇をする」といって、予算をつける手順を問題にしているので、引用文献は載せず、曖昧な記述にしてあります。



現在の日本の技術では、最先端の2ナノレベルの半導体は生産できません。できる技術者はいません。

 

ラピダスは、2ナノレベルの次世代半導体製造をめざすと言っています。

 

TSMCは、1987年にアメリカで、IC製造にかかわっていて張忠謀氏によって創立されています。TSMCは技術者が、その時点の技術でできることからスタートしています。まず、人材ありきです。

 

ラピダスには、予算がつきましたが、技術者の人材確保は今後の課題です。アーム社のような上流の設計工程は特に弱いと言われています。

 

技術は、IBMやベルギーIMECとグローバルアライアンスで連携を進めています。

 

しかし、グローバルアライアンスは、他力本願で、自前の技術がなければ、連携先の本気度も限定的になります。

 

EUVリソグラフィ露光装置は、日本のニコンキヤノンより、オランダのASMLがより高性能で、2ナノレベルに対応できる装置は、AMSLしかないと言われています。

 

最大の問題は、利益確保にあると言われています。TSMCのような生産ラインを作るには、数兆円の投資が必要です。これは、700億円の研究予算とは桁が2つ違います。

 

つまり、2ナノレベルの次世代半導体製造を行うためには、半導体製造で、数兆円の利益をあげて、それを技術開発投資に投入できることが必要です。

 

このように出口から考えると「設計工程を中心とした人材確保」、「半導体製造で、数兆円の利益をあげるビジネス計画」が出来ていませんので、実現の可能性は低く見積もられます。

 

半導体製造で、数兆円の利益をあげるビジネス計画」は、国産ロケットと同じ課題です。現在のロケット開発も、「衛星打ち上げで、利益をあげるビジネス計画」なしには実現できません。

 

あるいは、ソフトウェア開発も「クラウドサービスや、生成AIで、数兆円の利益をあげるビジネス計画」なしには実現できません。

 

政府が、補助金でできることは限られています。