護送船団方式のコスト(8)機会費用のまとめ(3訂版)

8)機会費用のまとめ

8-1)予算の概要

 

2022年度の予算の概要は、国債とコロナ関連を除けば、概ね、以下です。

 

社会保障費 36兆円

 

公共事業 6兆円

 

文教費 6兆円

 

防衛費 5兆円

 

その他 8兆円

 

地方交付税 16兆円

 

大きくわければ、社会保障費 36兆円、地方交付税 16兆円、以上2つ以外 25兆円で、合計 77兆円あります。

 

77兆円のうち、どれくらいが、無駄な機会費用になっているかを考えます。

 

これは、例えば、護送船団方式によって、DXが遅れれば、無駄なコストが発生していると考える方法です。

 

既に、考察したように、産業振興や、公共事業には、マイナスの機会費用が含まれていると思われます。

 

産業振興は、その他、8兆円に含まれるのですが、これでは、額が小さすぎます。

 

内容を分割すると1つの項目は、1兆円にも達しません。

 

一方では、九州のTSMCに、6000億円の補助金を出しています。

 

半導体国産化に対する支援は、最低でも5兆円と言われます。

 

これは、8兆円の外と思われます。

 

8-2)仮定の単純化

 

考えられる財源は、補正予算特別会計になります。

 

特別会計の歳出総額は、令和3年度予算で493.7兆円に達していますが、会計間相互の重複計上額等を除いた「純計額」は245.3兆円となっています。

 

つまり、77兆円を分母にするのは不適切になります。

 

特別会計の中身は、プログラマーの用語でいえば、スパゲティ状態になっていて、解きほぐすのは至難です。

 

財務省は、財政破綻を回避するために、増税を主張しますが、特別会計の方が、一般会計より規模が大きくなっているので、議論になっていません。

 

さて、ここでは、筆者の能力を超えるスパゲティの解きほぐしを諦めます。

 

代りに、天下りシステムは、キャッシュバックシステムであると仮定します。

 

天下りした人に払う給与の、Z倍の補助金や事業費が、企業に渡っていると仮定します。

これは、円安等による機会費用でも構いません。Zの値は、ほぼ同じと仮定します。

 

この仮定の下では、天下りした人数に支払われた給与の総額がわかれば、その額をZで割れば、機会費用が求まることになります。

 

ここで、更に、単純化して、天下りした人に支払われる給与のバラツキが小さいと仮定します。そうすると、機会費用は、天下りした人数に比例することになります。

 

財務省関連の護送船団方式機会費用のオーダーは10兆円でした。

 

財務省以外の省庁からの天下りの人数が、財務省と同じであれば、機会費用は、10兆円になります。

 

財務省以外の省庁からの天下りの人数が、財務省からの天下りの人数より少ないとは考えにくいので、機会費用は、最低でも10兆円あると考えます。

 

これを合計すれば、護送船団方式機会費用は、20兆円になります。

 

これは、オーダーの推定ですが、消費税1%を2.5兆円とすれば、消費税率8%に相当します。

 

つまり、護送船団方式機会費用がなければ、消費税は0%でも、予算が回ることになります。

 

市場経済が破壊されているので、機会費用は、スパゲッティ状になっていて、精度の高い推定は困難ですが、このように、護送船団方式のコストは、非常に高いものです。



補足:

 

10月12日の朝日新聞は次のように報道しています。

 

 

岸田政権が月内にとりまとめる経済対策をめぐり、経済産業省半導体支援に計3・4兆円の基金予算を要求していることが、わかりました。文部科学省も1兆円の宇宙開発基金の新設などを求めており、各省庁による要求額は合わせて5兆円を超えます。

 

 折衝で経産省財務省に求めているのが、半導体の生産・開発支援などのために、すでに設けられている三つの基金の増設だ。「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発基金」と「特定半導体基金」、「安定供給確保支援基金」です。

 

 具体的には、次世代半導体国産化を目指す国策会社「ラピダス」に6千億円弱、半導体を受託生産する世界最大手「台湾積体電路製造」(TSMC)の日本第2工場に9千億円、ソニーイメージセンサーなどの従来型半導体にも7千億円強の補助金が、それぞれ必要だといいます。

 

 要求が実現すれば、今年度補正の半導体関連予算は3・4兆円となり、昨年度補正(1・3兆円)の2・6倍となります。

 

 

予想したように、補正予算に巨額の経費が計上されようとしています。

 

「科学と政治のメカニズム」で考えたモデルが当てはまる場合、この補助金には、技術開発効果はありません。

 

補助金の前に、年功型雇用を、ジョブ型に変えて、護送船団方式のマイナスの機会費用をとり除く必要があります。

 

断っておきますが、筆者は、補助金に反対している訳ではありません。

 

エビデンスを評価して、生産性向上(技術革新)に効果のない補助金は、止める必要があると主張しているだけです。

 

補助金を選択するポイントは、中長期的な技術革新効果です。短期的な効果は、所得移転にすぎないでの、市場を破壊して、不効率が蔓延します。技術革新とスキルの問題は、次に考察します。

 

2022年には、半導体不足が経済の足を引っぱりました。

 

しかし、今度の経済発展の制約になるのは、半導体設計の出来るような高度人材であって、工場のハードウェアではありません。

 

2023年には、既に、半導体は、供給過剰になって、価格が崩れています。

 

ここにあるのは、半導体ウォシングと思われます。

 

2020年度の第1次補正、第3次補正、2021年度の補正、2022年度の第2次補正を合わせると、資金総額は16兆円になります。

 

3年平均を5兆円とすれば、消費税の2%に相当します。

 

これは、岸田政権の打ち出したは3兆5千億円規模の「次元の異なる」少子化対策より、大きな金額です。

 

経団連は10月10日、「政治献金の判断基準」となる政策評価を発表し、自民党を中心とする与党に対し、10年連続で高評価を与えました。

 

 そのなかで、課題として「こども・子育て政策において、広く国民全体が負担する財源のあり方の検討」とし、消費税を増税するように、強く求めています。(注1、注2)

 

公共経済学では、市場経済を破壊する個別企業への補助金は、ご法度です。

 

市場経済を破壊すれば、非効率が蔓延して、賃金が下がります。

 

技術進歩をするよりも、規制によって寡占市場を維持したり、天下りを受け入れて、随意契約に近い形で受注する方が儲かれば、生産性は上がらなくなり、給与は伸びません。企業の国際競争力はなくなり、貿易黒字はなくなります。

 

少子化対策や基礎教育は、公共財で、こちらの方が、優先度が高いはずです。

 

筆者は、「次元の異なる」少子化対策には賛成しませんが、産業助成と少子化対策や基礎教育の公共財支出のどちらを優先すべきかと、聞かれれば、公共経済学の言う通り公共財支出を優先すべきと考えます。

 

これは、公共経済学のイロハです。



要するに、政治利権を優先して、選挙の票に結びつかない少子化対策や基礎教育の公共財に支出しなかったことが、少子化の原因です。

 

実態がバレないように、少子化担当大臣を置いて、少子化ウォシングをしてきました。

 

16兆円の中には、3兆円のガソリンの補助金が含まれます。

 

有権者は、ガソリンの補助金は、少子化を促進していることを理解すべきです。

 

ガソリンの補助金の原因は、一因は、円安にあります。

 

経団連は、円安政策を政府に要望してきました。円安は、貧困世帯を直撃して、少子化を促進します。

 

このように、因果は絡み合っているので、ガソリンの補助金のような個別の対策の効果は小さいです。個別の対策は、絡み合っている因果をさらに、複雑にしてしまいます。

 

公共経済学は、こうした因果が絡み合った場合には、問題解決はできなくなると主張します。「市場供給のない公共財以外は、市場原理にゆだね、格差が問題になる場合には、所得移転で、基本的な人権の確保をする」これが、唯一の解決方法であると主張します。



注1:

 

なお、経団連が、消費税を言い出す理由には、今までは消費税増税の代わりに社会保険料をあげてきたことがあります。しかし、経団連は、社会保険料の議論を避けてきました。社会保険料の半分は企業負担になるにもかかわらずです。これは、社会保険料の企業負担増以上の見返りが期待できた可能性を示唆しています。消費税を議論するのであれば、産業補助金、消費税の輸出還付金、社会保険料法人税と合わせて、トータルな解決方向を示す必要があります。

 

注2:

 

「(1)消費税は上げられるか(改訂版)」の議論を振り返る必要があります。

 

EU に比べれば、消費税と社会保険料を合わせても、まだ10%の増税のノリシロがあります。

 

しかし、これは、大きな政府(手厚い社会保障)の場合です。

 

現在の政府は、政府は老後の面倒をみないので、自分で資産運用するように指導しています。これは、政府は、小さな政府を目指しているというメッセージです。言い換えれば、「政府は夜警国家を目指します。産業振興はしません。減税をしますので、その分のお金を積み立てて、医療も、年金も自分で面倒を見てください」と言っていることになります。

 

実際に、医療費の自己負担は増え、年金はインフレでカットされる計画になっています。

 

この状態で、増税に反対する人が増えるのは当然と思われます。



引用文献

 

半導体基金に3.4兆円要求 経産省、ラピダスやTSMC補助金で 2023/010/12 朝日新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/297606af3f2313b322594e04636c2754fcdea4c6