日本企業の存続条件

(日本企業が国際競争に負ける条件を考えます)

 

1)企業ランキング

 

1990年には、評価額の世界の企業ランキングで日本企業企業が上位に名前を連ねていました。

 

2022年のデータでは、トップ100に残っているのは、トヨタ自動車1社だけです。

 

2022年のトヨタ自動車の売り上げは、過去最高でした。

 

一方、トヨタ自動車は、中国市場のEVについては、出遅れが指摘されています。

 

また、東証は1部上場企業で、PERが1を切っている企業については、改善を求めていますが、トヨタ自動車のこのグループに含まれます、

 

ここで問題になるのは、現在のガソリン車の売り上げではなく、EVの売り上げの増加率です。仮に、ガソリン車がEVに置き換わるという前提をおいて、そこで、ある程度の価格競争に生き残るためには、シェアが必要になります。シェアは絶対的な基準ではありませんが、トップグループから落ちてしまうと、製品に占める開発費の割合が高くなって、不利になります。そこで、中国市場でもシェアをとることを考えれば、日本企業は、EVを販売している中国企業以上の速度で、EVの売り上げを伸ばさねばなりません。

こう考えると、「1990年には、評価額の世界の企業ランキングで日本企業が上位に名前を連ねていた」ことは、有利なスタートポイントにいたことには、なりますが、将来の売り上げを保証するものではなかったことがわかります。

 

1990年に、世界市場で、大きなシェアをもっていた日本の家電製品のメーカーは、2023年には、シェアを中国企業に渡しています。

 

全ての日本の家電製品のメーカーは、海外市場から、事実上の撤退をしていますので、この現象は、特定の企業だけでなく、共通する原因があるはずです。

 

日本の製造業は、工場を海外に移転したり、非正規採用を使ってコストダウンをしましたが、中期的には、その対策には、効果がありませんでした。

 

そこで、共通の原因を考えてみます。

 

2)年功型雇用のコスト

 

GAFAは、2023年に入って大幅なレイオフをしています。

 

マスコミは、レイオフは大変だといった風潮の記事を書いています。

 

しかし、レイオフは人事管理の目的ではありません。

 

人事管理の目的は、労働生産性をあげて、賃金を確保することです。また、売り上げを増やして利益を増やすことです。

 

レイオフは、その副作用になります。

 

日本企業は、レイオフしない、あるいは、レイオフできないという実態があります。

 

レイオフする、あるいは、しないは、企業経営の手段であって、目的ではありません。

 

この先は、筆者の理解を越えていますが、推測すれば、次のようになります。

 

(S1)(経営の目的)レイオフより、雇用の維持を優先する。

 

ここで、雇用の維持が企業の経営の目的であるとは考えられないのですが、一応、そう仮定します。

 

(S2)(経営の副作用)社内失業を抱えて、生産性があがらないので、賃金が上がらない。

 

(S3)(経営の副作用)現在以上の人減らしは出来ないので、DXは導入できない。

 

(S4)(経営の副作用)スキルアップしても給与が上がらないので、だれも、リスキリングしない。給与をあげる唯一の方法は、歳をとることです。

 

(S5)(経営の副作用)若年者の給与が上がらないので、結婚できず、人口が減少する。

 

(S6)(経営の福採用)価格競争に勝てないので、企業は、売り上げが減少して、国際市場から撤退する。

 

S6については、国際市場で競争力のある日本企業があるという反論が出て来るでしょう。



3)ブルーオーシャン

 

ここで、検討しているのは、価格競争があるレッドオーシャンの場合で、ブルーオーシャンは対象外です。

 

ブルーオーシャンは、レッドオーシャンに切り替わることがあります。

 

日本の半導体は高価でしたが高品質でした。つまり、ブルーオーシャンでした。しかし、パソコンの普及によって、半導体は、低品質でも安価な方がよいレッドオーシャンになりました。その結果、日本企業は、半導体製造を中止しています。

 

パソコンのWindowsが普及するまでは、漢字のROMを搭載した日本のパソコンは海外のパソコンとは、独立したブルーオーシャンでした。Windowsが出て、市場がレッドオーシャンになって、日本製のパソコンはなくなりました。

 

現在の半導体は、3ナノの半導体については、TSMCサムスンしかつくれないので、ブルーオーシャンです。しかし、2年後に2ナノの半導体が量産化すれば、3ナノの半導体は、レッドオーシャンになります。

 

シャープは、高品質の液晶をつくれば、ブルーオーシャンでビジネスができると考えていました。亀山工場のブルーオーシャンの期間は、2年しか持たず、レッドオーシャンになって躓いています。シャープが買収されたあと、大幅なレイオフによって、業績は回復しています。

 

これから見れば、随時レイオフが可能なジョブ型雇用でなければ、レッドオーシャンの市場からは撤退することになると思われます。

 

AMSLは、ブルーオーシャンの市場でビジネスをしています。ブルーオーシャンの市場でビジネスをするためには、卓越した技術が必要です。

 

データサイエンスの出現によって、卓越した技術とは、ソフトウエアのシステム化技術になりました。

 

ソフトウェアのコーディングをするためには、職人の技は不要です。

 

コーディングするには、キーボードがたたければ十分です。

 

ピアニストとは指が回らなくなると、難しい曲は演奏できなくなりますが、プログラマーは、指が回る必要がありません。

 

キーボードを早くたたければ、それだけ早くコーディングできますが、このレベルのコーディングは、生成AIで十分です。

 

オリジナルで優秀なアルゴリズムが組めれば、指の回りが遅くとも問題にはなりません。



4)危険なパターン

 

以上の考察から、ポイントは日本企業が、レッドオーシャンで、ジョブ型雇用企業と競争が出来るかという点になります。

 

マーケットが拡大して、売り上げが伸びて、レイオフの必要がない場合には、社内失業はありませんので、ジョブ型雇用企業と年功型雇用企業の差はあまり大きくありません。

 

一方、マーケットが縮小するか、シェアを失って、売り上げが低下する場面では、レイオフができる企業とできない年功型雇用企業では、原価に大きな差が出てしまいます。

 

談合が成立する世界は、ブルーオーシャンですから、余剰人員を抱えた年功型雇用でも経営は可能です。

 

しかし、ブルーオーシャンを維持するためには、単価を高く維持したり、補助金をばらまく必要がありますので、そのためのコスト負担は、納税者にツケが回っていることになります。

 

組合せパターンは、2X2です。



  表1 組合せパターン

 

     市場  BO   RO

売り上げ増    BO+  RO+

売り上げ減    BO-   RO-

 

レッドオーシャン(RO)で、売り上げ減の「RO-」になった場合には、年功型雇用では、勝負にならないはずです。

 

品質が良ければ売れるという発想は、ブルーオーシャン戦略です。

 

日本は、レッドオーシャンでは勝てないので、モノづくりのブルーオーシャンを目指すのは危険です。ブルーオーシャンは、直ぐに、レッド―オーシャンになります。

 

ガソリン車がEVになれば、ブルーオーシャンレッドオーシャンになります。

 

カメラの性能がレンズでではなく、量産効果の効く画像素子と現像ソフトウェアになれば、レッドオーシャンになります。

 

カメラメーカーは、フルサイズセンサーのカメラで、ブルーオーシャンでビジネスをしたがっています。しかし、レンズも安価になり、プラスチックレンズの性能も上がっています。ストロボなどの周辺機器は、完全なレッドオーシャンで、中国製が、日本製を駆逐しました。

 

日本企業は、レイオフできないので、ブルーオーシャン戦略をとるのでしょうが、日本企業には、ブルーオーシャンの中心であるソフトウェア技術がないので、これは、無理な戦略です。

 

5)ラピダスの戦略

 

パイの焼き具合の画像認識の機械学習で、失敗画像がないと、焼き具合の判別ができないと申しあげました。

 

経済産業省の過去の半導体振興施策は、全て失敗しています。

 

経済産業省は、無謬主義です。つまり、失敗のデータを集めて分析していませんので、失敗を回避するノウハウは持っていません。

 

これから、「経済産業省の過去の半導体振興施策は、全て失敗」しているのは、偶然ではなく、必然的結果であることが判ります。

 

無謬主義は、権威の方法で、なおかつ形而上学です。

 

科学の方法ではないので、成功はまぐれにしか起こりません。

 

AMSLは、ブルーオーシャンのビジネスをしています。

 

AMSLは、中国の産業スパイの標的になっていて、幾つかの技術は既に流出しているといっています。AMSLは水平分業です。協力関係にある企業は5000社にのぼります。このため、AMSLは、中国に、一部の技術情報が流出しても、模倣することは不可能であると言っています。



ラピダスの戦略は、「水平分業でしょうか」、「レッドオーシャンでしょうか」。

 

ラピダスは、「ブルーオーシャンの垂直分業」を目指しているようにみえます。しかし、2ナノ半導体の量産が、TSMCより2年遅れれば、その時点では、レッドオーシャンになっているはずです。価格競争に生き残るためには、垂直分業では無理です。しかし、水平分業のパートナーを確保することは容易ではありません。AMSLは、TSMC半導体製造の最大のパートナーにしています。AMSLは、ラピダスに、露光装置を納品はしてくれますが、TSMCの場合のように、2ナノ半導体技術を開発するための共同パートナーになるとはいっていません。

 

ラピダスの量産半導体の実勢はゼロですから、TSMCには、共同パートナーになるメリットは全くありません。





引用文献

 

EV急伸する中国市場、落日の日本勢は販売台数3割減 EV出遅れのツケ大きく価格競争でも「最大の敗者」 2023/05/02 Newsweek

https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2023/05/ev3.php