軍隊と表現型

(自然科学では、表現型と真の値を区別します)

 

1)表現型の課題

 

自然科学は、エビデンスに基づくので、エビデンスが自然科学であるという誤解が流布しています。

 

ある分野の学会では、観測値を記載すること科学的であって、観測値の解釈は、科学ではないという誤ったパラダイムを使っています。

 

観測値が科学であると考えるのは、経験科学の世界です。

 

科学とは、観測値から推定される真の値に対するビジョンであって、モノの見方です。

 

観測値は、真の値にノイズが乗ったものです。

 

この真の値が何かは、ビジョンに依存します。

 

慣性の法則では、転がっているボールは等速度運動を続けます。

 

実際には、ボールは摩擦によって減速して、最後には停止します。

 

これは、観測値を分離して説明していることになります。

 

観測値=>(分離フィルタ―)=>等速度運動+摩擦による減速+観測誤差

 

観測値は、分離フィルタ―によって、3つの成分に分解され、「速度運動」と「摩擦による減速」という2つの真の値があると解釈されます。

 

情報科学で解釈すれば、慣性の法則は、等速度運動成分を分離する分離フィルタ―になります。

 

サイコロを振る時、サイコロの目は変化しますが、統計学では、サイコロの目の真の値は、おのおのの目が6分の1出る確率であると考えます。

 

統計学が難しいのは、真の値が、観測値とは全く異次元の表現になる点にあります。

 

コロナウイルスの感染では、検査数が曜日によってばらつくので一週間の移動平均をとれば、曜日によるノイズ成分は取り除くことが出来ます。また、7個のデータを使うことで、サンプリングのバラツキによる変動成分を少なくできます。

 

これから、感染者数の真の値を推定するには、一週間の移動平均をとれば良い訳です。



一方、マスコミ報道では、1週間前の感染者数との比較が行われます。

 

これは、観測された患者数こそが真の値であるという経験科学の立場を表わしています。

 

理論科学以降の観測値では真の値ではないとう科学的リテラシーの欠如を示しています。

 

2)軍事国家と経済国家

 

国を動かす政治勢力は、軍隊派と経済派に分かれるという政治モデルがあります。

 

このモデルは、中国やロシアの政治のメカニズムを理解する上で有益と考えられています。

ロシアの場合には、ソ連崩壊では、社会主義経済から、資本主義経済への移行を目指す経済派が力を持ったのですが、経済システムの移行に失敗して、軍隊派(正確には、秘密警察派)が力をもって、現在に至っています。織田信長の楽市・楽座に見るように、軍隊派が、経済活動に非介入の方針を貫けば、共存が可能で、経済が発展しますが、軍隊派が、経済活動に介入すると、経済発展が阻害されます。

 

さて、ここで考えたい問題は、軍隊派とは何かという点です。

 

軍隊派は、表現型としては、軍隊を押さえている政治勢力になります。

 

一方、日本は憲法で軍隊を禁止していますので、自らが軍隊を押さえていると主張する政治勢力は存在しません。だからといって、実質的に軍隊を押さえている政治勢力がないとはいえません。

 

軍隊を押さえる政治勢力とは、経済派とは相容れない政治勢力です。資本主義では、経済派は、市場経済と自由競争を尊重します。民主主義の自由とは、機会の平等に支えられた経済活動の競争の自由です。自由とは、誰もが、競争に参加して、努力をすれば、豊かになるチャンスがあることを意味します。親ガチャで、機会の平等がなく、競争に参加する資格がない世界は、自由な世界ではありません。

 

つまり、軍隊派を反経済派(反市場経済派)と考えれば、軍隊がなくとも、かくれ軍隊派が存在する言えます。

 

例えば、新幹線の生みの親である十河信二氏は、満鉄理事でした。十河氏は満鉄理事の中でただ一人関東軍を支持し、関東軍に協力して満州事変の拡大を進めています。

新幹線工事にあたり、5年間で総額3千億円という予算問題に直面した十河氏は、国会で予算を通すために、1959年(昭和34年)に1972億円で国会承認を受け、残りは政治的駆け引きで押していきました。

 

これは、 経済派にとっては、市場経済を無視したルール違反の活動です。

 

日本は、敗戦の復興の中にありましたので、輸送需要は圧倒的に不足していました。その結果、東海道新幹線は成功しました。しかし、東海道新幹線の成功の結果、経済性(市場原理)を無視した新幹線投資が当たり前になり、問題を現在に引きずっています。

 

当時、東海道新幹線が、技術的に失敗する可能性もありました。その場合、日本経済の高度成長はあり得なかったことになります。東海道新幹線は、必要だったと思いますが、国会財政に、極端に高いリスクをかけた短期間の建設が妥当であったかは、検証すべき課題です。

 

2023年1月に、 国土交通省は、高速道路をの有料期間を、2065年から50年後の2115年に変更する法令改正計画をあきらかにしています。2005年の旧道路公団の民営化に際して掲げた無料化は、撤回されています。

 

これは、明らかに、反経済派の活動です。高速道路が有料であると、高速道路が無料の国より、生産コストがあがりますので、国際競争力が低下します。人口が減少しているにもかかわらず、高速道路の新線が建設され続けています。一方、既存路線の改修を後回しになっています。その結果、今後の補修費が嵩むので、無料化はできないとう論理です。

 

このように見ていくと、日本は経済派が主流の経済国家ではなく、非経済派(かくれ軍隊派)が主流の軍隊国家であることがわかります。



軍事費の拡大は、表現型です。問題は、日本が、非経済派の軍隊国家であれば、参戦に歯止めがかからないことです。

 

これは、簡単に言えば、経済合理性を無視した整備新幹線の建設を中止できないのであれば、自衛隊の参戦を阻止することは、できないということです。

 

なお、経済派は、経済合理性で、政策選択しますので、科学的文化に属し、軍隊派は、合理的な説明のない人文的文化に属するとみることもできます。