経済と利権の政治勢力~経験科学の終わり

(経済と利権の政治勢力の枠組みで考えることが有効な場合もあります)

 

1)検討の枠組み

 

前回、工業社会学型企業の利権(コダックの場合には特許)にこだわって、デジタル社会型企業に組み替えられずに、企業が倒産することをコダック病と呼びました。

 

筆者は、株主主権であれば、株主の利益を確保するデジタル社会型企業への組み替えが起こるはずであるが、既得利権が優先して、経済発展より利権維持が優先される場合には、コダック病が蔓延するといいました。

 

今回は、経済と利権の政治勢力の枠組みで、課題を整理してみます。

 

2)中国の例

 

2022/11/09のNewsweekで、練乙錚氏は、中国の政治勢力は、3つに分けられると言っています。要約すれば以下になります。

 

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中国では四半世紀前から、政権の中枢を占める時の権力者(「太子党」と呼ばれる革命第1世代の党指導者たちの子弟)と、それ以外の機関の多くを牛耳る共青団派、国有企業以外の経済部門で影響力を持つ江沢民派の異質な3つの政治勢力が共存している。

 

最近では、習近平ら「一強」体制が強まりつつあるが、他の2つの勢力も温存されている。文化大革命を経た「太子党」には、基礎的な学力の欠如という致命的な弱点があり、今後も引き続き安泰とはいえない。

 

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筆者は、四半世紀前の1995年頃に、ある中国人から2つの政治勢力の説明をうけたことがあります。上海を中心とした江沢民派が経済力をつけ始めたころです。中国には、上海を中心とした経済中心のグループと北京を中心とした軍隊中心のグループがある。経済中心のグループの子弟は、辺境で兵役につくことはない。経済発展をすれば、江沢民派が力をつけるが、軍隊を押さえていないので、その後では、北京を中心とした軍隊中心のグループの反撃が起こる。その場合、国内対立が強まり、場合によっては、中国は分裂の可能性がある。

 

毛沢東は、大躍進と文化大革命の2度にわたり、ジェノサイドを引き起こしました。大躍進では、2000万人が文化大革命では、700万人が犠牲になったと推測されています。

 

このような無茶が出来たのは、毛沢東が、軍隊を抑えていたからです。

 

現在も、中国外の外国に居住している中国人がいなくなっている、ウイグルでジェイサイドが起こっていると主張する人もいます。真偽は不明ですが、大躍進と文化大革命の例を参考にすれば、真偽がわかるには、10年以上の時間が必要になると思われます。

 

現在は、北京を中心とした軍隊中心のグループが実権を握っているように見えます。

そうなると、2022/11/02のニューズウィークで、加谷珪一氏が主張しているように、今後の中国経済は、成長が急速に鈍化するはずです。

 

中国の事例をまとめると、利権維持に動く軍事中心のグループと、経済活動をする経済中心グループの2つの政治勢力が発生しやすいです。2つのグループのどちらかが、第3のグループを巻き込むことが出来れば、パワーバランスが変わる可能性があります。

 

3)日本の場合

 

1990年頃まで、日本は、経済は1流だが、政治は2流と言われていました。

 

現在は、経済も、政治も2流になったと思われます。

 

この変化をどのように解釈するか、視点は複数あります。

 

1990年頃までの日本には、現在の中国と同じように、経済中心の政治グループと利権中心の政治グループがあったと考えることもできます。

 

このモデルでは、2022年には、経済中心の政治グループが消滅してしまったように見えます。

 

言うまでもなく、イノベーションは、経済中心の政治グループが起こします。

 

利権中心の政治グループは、イノベーションを封印します。

 

利権中心の政治グループは、最終的には、軍隊を押さえて実権をゆるぎないものにしたいわけです。

 

そして、ここに着くと、ジェノサイドが起こります。

 

大躍進では、2000万人が、餓死しました。人を殺すためには、ガス室が必須ではありません。

 

最近の日本では、防衛費の上限がなくなりました。

 

さらに、大規模災害など、緊急事態での国会議員の任期延長について、衆議院憲法審査会で、自民党は最優先で取り組むべきだとして論点の集約を求めています。

 

2022年11月10日のダイヤモンドオンラインで、野口悠紀雄氏は、次の点を指摘しています(要約)。

 

政府は10月28日、「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」を閣議決定しました。 ガソリン・電気・ガスの価格統制によって、「消費者物価(総合)上昇率を1.2ポイント程度抑制する」としています。

 

この1.2ポイントが経済指標に反映されないと、実際のインフレが小さく見積もられ、消費者物価上昇率が1.9%程度を超えると年金のインフレ補正がなされる「マクロ経済スライド」が発動しなくなります。

 

つまり、ガソリン・電気・ガスの価格統制は、インフレにもかかわらず、経済指標を操作することで、年金の支給額を増やさないためのトリックに使われる可能性があります。

 

政府は、パートの企業年金加入を促進しています。年金を企業に押しつけることは、政府が貧困対策を企業に丸投げして放棄することになります。

 

デジタル社会のレジームシフトを考えれば、今後20年の間に企業の半数以上が入れ替わると考えられます。つまり、年金を企業に押し付けると倒産による社会的な混乱を増幅してしまいます。

 

利権中心の政治になると、イノベーションしても所得が増えません。イノベーションよりも、忖度して利権に関わる方が所得が増える状況になります。

 

この状態では、補助金をばら撒いても、効果はゼロです。

 

これが現状に思われます。

 

引用文献

 

文革で学習能力が欠如する習近平ら「一強」体制が、うかうかできない理由とは? 2022/11/09 Newsweek 練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者、香港出身のコラムニスト)

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/11/post-100064.php

 

習近平「独裁」で、中国経済「成長の時代」は終焉へ...経済より重視するものとは? 2022/11/02 ニューズウィーク 加谷珪一

https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2022/11/post-209.php

 

政府の物価高対策で年金増額が抑制?消費者物価指数の「ウソ」が起こす大問題 2022/11/10 ダイヤモンドオンライン 野口悠紀雄

https://diamond.jp/articles/-/312590

 

衆院憲法審査会 緊急事態での国会議員の任期延長めぐり議論 2022/11/10 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221110/k10013886881000.html