フュージョンと良い写真をめぐる考察（８）

構図とフュージョン（１）

構図と遠近法については、過去に、いくつか記事を書いています。3分割構図などは、そちらでも論じていますので、ここでは、フュージョンの破綻の面で考えてみます。

例によって、サンプルを示しながら説明します。

写真１は、後ろ姿です。フランスのアカデミック絵画では、依頼主を画面に描くことが基本でした。歴史で最初のころの写真には、人物がレンズの方を向いているものが多いです。後ろ姿は、撮影が容易になって、コストが下がってから出てきた表現と思われます。この手法のメリットは、見ている人が、登場人物に共感しやすい点にあります。顔が写っていないため、見ている人は、自分が登場人物になった場合を想定して写真を見ることができます。

写真２は、空いた椅子です。この場合にも、見ている人物が、そこに座った状態を想定出来ます。

スマホのぬい撮りも同じ効果と思われます。縫いぐるみに感情移入できるかどうかは、人によります。実際の人物に後ろをむいてもらって、撮影するのは大変なので、ぬい撮りは手軽な手法です。写真２を、ぬい撮りの一種とみなすことも可能です。右に、ぬいぐるみがあります。

写真３は、道ですが、これも、見ている人が、歩いて進んでいくイメージができます。

このように、本来人物がいるべきところが開いていることで、感情移入がしやすくなります。

写真４も、道です。ただし、筆者は、最近この構図には問題があるのではないかと考えています。というのは、写真３の道は、右奥にある建物に行く道です。写真３の主題は、この建物です。一方、写真４には、主題がみえません。つまり、空き箱を撮影しているような写真なのです。わかりにくいですが、奥に白い橋がみえます。この部分を、強調して、橋に行く道にすれば、まだ、良くなるかもしれません。ただし、写真３の道は、道の地面と小さな柵だけで構成されていますので、空き箱に近いです。一方、写真４の道では、木がすこしあります。ですから、少しだけ、空き箱ではないかもしれません。

写真５は、道の写真ですが、左右に、木と生垣が密にあります。この場合には、空き箱のイメージは少ないと思います。この写真はオリンパスの45㎜（換算90mm）のレンズで撮影していて、他の道の写真と比べると、圧縮効果が明らかです。ストリートフォトの鉄則は換算85mmですが、オリンパスは換算85㎜のレンズは作っていないので、オリンパスのレンズで、ストリートフォトを撮影するには、この換算90㎜の画角を使うことになります。

道の構図は、空き箱になるリスクをもっています。目的地点が、視野に入っている方がベターと思いますが、必須とまではいえないと思われます。

構図の説明には、画角が触れられることはあまりありませんが、構図とレンズの画角は、関連しています。

写真６は、料理の写真です。料理の写真では、構図は、お皿が、切れることが良いとされます。これは、目のフュージョンに反した画像になる効果を狙っていると思われます。単純に、画角に置き換えれば、85㎜くらいで、圧縮効果をねらって撮影することになります。ただし、85mmで撮影すると、椅子に座って、普通に食事をする位置では、カメラを構えられません。広角側の画角で撮影すると、料理にかなり近寄って撮影できます。この場合、スマホのようにセンサーが小さいと、より近くまで寄れるので有利です。センサーが大きいと寄れない場合もあります。構図としては、正解がほぼ決まっていますが、食事をしながら撮影するのは、意外と難しいです。筆者は、何度か焦点が合わずに、ボケた写真を作ってしまい、最近は、マクロモードのついたコンデジを使っています。

構図の問題は、アカデミック絵画が破綻して、印象派が出てきた時点で、広範に研究されています。この問題を、次回に取り扱います。