Go ToトラベルとGo Toイートの功罪

感染者数を減少させる政策は、今のところ打ち出される様子はありません。

議論は、Go ToトラベルとGo Toイートをどうするかというところに集中しています。

おそらく、このままいけば、年末には緊急事態宣言になる可能性が高いと思います。

「Go Toトラベルが感染拡大の原因であるというエビデンスはない。」と発言された人がいます。

データサイエンティストとして見ると議論が余りにひどいので、要点を整理しておきます。

Go ToトラベルとGo Toイートは感染拡大の原因になったか

  • 悪魔の証明の不可能性(統計バイアスへの対処)

    Go To事業が感染拡大に影響していないという証明は、全数調査をしない限りできません。Go To事業を全てスマホで登録制にして、事前の体調、利用時の体調、利用の時価と場所、利用後の体調のデータを収集すれば、全数サンプリングも可能であったはずです。これは、割引特典を得られるのですから、それと引き換えに個人情報の提示を求めるという方法です。こうした発想が出てこなかったことは、市中感染のデータを集めて、感染拡大を防止するという視点が全くなかったことを意味しています。

    Go To トラベルの感染者が11月15日までで、148人という発表は、残りの3976万人が感染していなかったことを意味しません。これは、食品の問題で例えれば、4000万個の出荷にたいして、148個の異物混入があった場合と同じです。残りに異物が入っていない保証はありませんから、食品メーカーは4000万個を回収するはずです。異物混入のリスク管理マニュアルは苦情が2件あった時点で、リコールすべきかの検討に入るのが普通です。148人で少ないから大丈夫というのは、リスク管理としては正気を失っています。統計バイアスは必ず存在します。その時に、安全側に対処することが原則です。148人で大丈夫というのは、残りは感染していないと考える訳ですから、危険側に目いっぱいバイアスをかけていることになります。これは、感染拡大しても構わないといっているのと同じです。

    結局、Go Toトラベルには、リスク管理マニュアルがなかったことを意味します。これだけでも、Go Toトラベルを中断する(食品メーカーであれば営業停止にする)理由として十分と思われます。

  • 介入による証明

    富岳を使ったシミュレーションはエビデンスにはなりません。そもそも、データをまともに収集できないことを、スパコンで肩代わりさせることはお門違いです。現時点で、可能性のある分析は、介入による効果分析だけです。Go Toイートは介入の効果が明確で、感染拡大の原因です。Go To トラベルでは、どの部分を介入と考えるかが問題です。おそらく、Go Toトラベルの開始時期はなく、その後の連休が効いているように思われます。この場合は、因果があるように見えます。介入については、以前のブログで書いたのでここでは省略します。

  • 同調圧力とアンカー効果の問題

    Go To事業の感染拡大では、最大の問題は、感染者数が増えた直接効果ではなく、外出してもよいと考えるようになった間接効果だと思います。筆者は、同調圧力を殆ど気にしませんので、今までも、誰もいない公園に犬をつれて散歩にいっていました。誰もいなければ、感染するはずがないからです。7月くらいまでは、公園には人はほとんど出ていませんでした。ところが、その後、Go To事業で外出する人が増えてしまいました。TVで京都の嵐山に人が出ていますという報道をします。そうすると、こうした報道は、同調圧力で今まで外出をやめていた人に、皆は外出しているのだ(外出しても普通なのだ)という同調圧力を生じさせます。こうなると、同調性の高い日本人の多くは、外出抑制をしなくなります。実際に、10月からは、週末に公園に犬と散歩に行きますと、コロナウィルスのなかった1年前よりも各段に多い人出になっています。

    同調圧力と共に、決定的にダメージを与えるのがアンカー効果です。これは、現在の状態をアンカーにして判断するという認知バイアスです。1週間に1回か、外出しない状態を続けていれば、1週間に3回外出すれば、今週は外出が多かったと感じます。ところが、Go To事業で、平均すれば、1日1回、1週間に7回外出するようになれば、これが判断基準になります。この場合には、1週間に5回しか外出しなければ、今週は外出をずいぶん控えたと感じます。

    アンカー効果は、レストランやホテルにも生じます。Go To事業でいったん顧客が来るようになれば、そこが基準ですから、顧客が少しでも減ることは苦痛になるはずです。実際に、時短要請に応じられないという飲食店が出てきていることは、Go To事業がアンカー効果をまき散らしたことを示しています。

    こうした間接効果はいわば、パンドラの箱だったのですが、Go To事業で箱が開けられてしまったと思われます。それにしても、政策決定に際して、認知科学の専門家がいなかったのでしょうか。