コロナ対策とデジタル教科書に見る科学技術立国の終わり(1)

ここでの話題は、コロナ対策とデジタル教科書と科学技術立国の現状の関連を整理して見ることです。次の3つは、つながっていると思います。

3回に分けて、論じたいとおもいます。

コロナ対策の科学技術レベル

コロナ対策の科学技術レベル(医療現場のレベルではありません)を判断できる指標がいくつか考えられます。

1.情報発信と物資・技術援助

世界のコロナの感染がどうなっているのかなど、自国以外の情報を整理して発信することが、先進国である証と思いますが、これは全くできていません。自国で手一杯という状態です。例によって、途上国のコロナ対策に対する資金提供はしていますが、お金しか見えない様態です。お金でのみ援助する方法は日本が経済大国であった昔には効果があったと思われますが、現在は経済大国ではないですから、お金以外に、国際的にアピールできる手段を持つべきです。台湾は、マスクを援助物資で輸出したようですが、物資や、技術で援助ができているとはいえません。

2.ワクチン開発

ワクチン開発については、完全にレースに参加できていないことが明確になっています。コロナウイルスを封じ込める可能性のある唯一の方法なので、このレースに日本企業が全く参加できていないことは、ワクチン開発のレベルが国際水準に達していないことを示しています。

3.感染予測と対策

感染予測と感染対策は表裏一体です。対策を講じた場合に、どの程度の効果が期待できるか予測できなければ、効果的な対策を選択することができません。Go To事業を行ったあとで、Go To事業で感染が拡大したというエビデンスはないというとんでもない答弁がありました。事業効果の経済効果は一般均衡モデルで、事業が原因の感染拡大は感染拡大モデルで予測可能なはずです。そして、政策を実施した後で、予測と、実績のギャップについて評価する必要があります。感染拡大モデルを使わない理由には次が考えられます。

  • 実用的な精度の予測可能な感染拡大モデルを作る技術がない。これには、モデル作成だけでなく、ビッグデータを収集する技術も含みます。

  • 予測モデルを使うと、Go To事業により、感染拡大が推定されるので、モデルを使うことを政治的に禁止している。これは、科学技術を無視した政治になります。Go To事業の影響がゼロというモデルは、作れないと思います。

現時点で公開されている実用的な感染拡大モデルは、Google予測モデルです。これに、代わるモデルは国内ではでていません。

Go To事業などの感染拡大については、マスコミは、12月8日の東京大学の発表を紹介していますが、東京大学の発表は、論文の査読を受けていない投稿前の情報です。

一方、スタンフォード大学のチームは、ネットワークモデルで経路別の感染拡大の寄与(リスク)を評価していて、その結果は、11月10日のネーチャーに掲載されています。

スタンフォード大学の論文は、審査が終了して掲載されていること、モデルチューニングなので、RCT(ランダム化試験)を行わなくとも、ある程度は交絡条件を排除できること、モデルのソースコードはGit HUBで公開されていて、このコードを使えば、高校生でも、コロナの感染予測ができるようになっています。

一方の東京大学は、RCTになっていない単純比較の上、論文審査も終了していませんし、スタンフォード大学に1か月も遅れています。その原因には、データの入手が難しい点もあると思いますが、それを差し引いても、上記の1番目の感染予測作成モデルにおいて、日本が決定的に遅れているといえます。

しかも、この話にはおまけがついていて、官房長官が、Go To事業とコロナに関連があるとは言えないとのコメントをだしています。以下に引用を掲載します。これは、上記の2番目の政治介入になります。政治介入が悲劇を起こした事例は、中国の大躍進の政策で、エビデンスに基づかず、思想的精神論で産業振興を強制した結果、推定により幅がありますが、3000万人が餓死しています。餓死数が推定できたのは、大躍進から20年以上たってからでした。毛沢東は大躍進の失敗によって、いったん失脚します。そして、大躍進政策は中止になります。最近では、アメリカのトランプ大統領がコロナ対策に失敗して、再選されなかったことが知られています。コロナウィルスがなければ、トランプ大統領は再選されたと思われます。歴史から学べば、Go To事業は最悪の場合には、死亡者が多数出て、内閣が総辞職することよって、中止になるというシナリオもありえるわけです。少なくと、現時点では、データサイエンスはストッパーにはなっていません。

まとめ

コロナ対策の科学技術レベルを3つの面で見ましたが、とても科学技術立国とは言えない状態になっていると冷静に判断すべきでしょう。

 

GoTo高リスク論に懐疑的 官房長官「著者も断定できず」から引用。


 加藤勝信官房長官は8日の記者会見で、観光支援事業「Go To トラベル」利用者ほど新型コロナウイルスの感染リスクが高いとした東大などの研究チームの調査結果に懐疑的な見方を示した。「著者自らも、研究方法の限界として利用が直接的に症状につながったと断定できない点を挙げている」と指摘した。


 

  • Mobility network model of COVID-19 explain inequities and inform reopening Nature 11月10日

https://www.nature.com/articles/s41586-020-2923-3

https://github.com/snap-stanford/covid-mobility