ミームの研究(23)バカの壁からミーム・モデルへ

ミーム・モデルの特徴を説明します)

 

1)バカの壁

 

バカの壁」(2003)は、養老孟司氏のベストセラーです。

 

キャッチコピーで、帯紙は「『話せば分かる』なんて大ウソ!」でした。養老氏は「バカの壁」とは「人が知りたくないことに耳を貸さず情報を遮断すること」であるとインタビューで述べています。

 

後者は、レオン・フェスティンガー氏の認知的不協和(cognitive dissonance)の理論に対応しています。

 

バカの壁」は、人間の相互理解には限界があるという指摘です。

 

バカの壁」の相互理解の限界を示しています。

 

相互理解の限界は、認知的不協和がなくとも生じます。

 

永久機関が不可能であることは、エネルギー保存則が理解できていれば、自明ですが、そうでない場合には、納得することは困難です。



2)ミーム・モデル

 

ミーム・モデルとは人間の認知は、ミームによって支配されるというモデルです。

 

自然崇拝のミームに支配されている人にとって、病気とは、悪い精霊にとりつかれている状態になります。

 

このモデルで、病気という現象は説明可能です。

 

クリテイカルシンキングを行なって、科学的な検証が必要であると考えなければ、病気の原因は、悪い精霊であるという因果モデルに不便を感じることはありません。

 

高度経済成長は、日本人がよく働いた結果生じたという理解も、科学的に検証されていない点では、病気の原因は、悪い精霊であるという因果モデルと変わりません。

 

病気とは、悪い精霊にとりつかれている状態という理解は、リベラルアーツによる理解です。

 

リベラルアーツが役に立つという主張は、検証されていない因果モデルが役に立つという主張であり、病気が悪い精霊によって引き起こされるという因果モデルと同じ水準のモデルです。

 

少なくとも、データサイエンスの基準でみれば、そうなります。

病気が悪い精霊によって引き起こされるという因果モデルも、高度経済成長は、日本人がよく働いた結果生じたという因果モデルも、帰納法を使った推論です。

 

この2つのモデルの共通点は、「悪い精霊」と「よく働いた」といった計測不可能な因子を原因にあてている点にあります。

 

「よく働いた」という因子は計測不可能ですが、「労働時間が長い」は計測可能です。

 

しかし、因果モデルでは、生産性は、時間当たりの生産性と労働時間の積で表わされます。

 

つまり、アブダクションによる推論をすれば、「労働時間が長い」は退けられます。



3)ミーム・モデルで何がわかるか

 

ミーム・モデルは、幾つかの現象を説明できます。

 

政治家が、経済対策を検討しています。

 

経済学のミームで考えれば、税金を徴収して、キャッシュバックをする政策は、最悪の政策であり、検討に値しません。

 

経済学者は、政府の政策には、経済学の合理性を欠いていると指摘します。

 

しかし、その指摘が受け入れられて、政策が修正されたことはありません。

 

なぜ、経済学の合理性を欠いている政策が修正されないのでしょうか。



政治家は、利権のミームで動いています。

 

政治とは、利権の調整、つまり、中抜き経済の調整であると考えています。

 

物理学者は、世界は、物質とエネルギーに満ちていると考えます。

 

利権を中心にものを考える政治家にとって、世界は、利権(中抜き経済)と利権の調整でできています。

 

全ての問題は、利権と利権の調整空間の写像として判断されます。

 

こう考えると、政府の政策は、予測可能になります。

 

利権のミームにとって、問題解決とは、利権の調整を意味することになります。

 

そこには、生産性が入る余地はありません。

 

政治家を説得するには、問題を利権の配分構造の写像に転換して説明する必要があります。