Go Toトラベルは、観光業を破壊したか

Go Toトラベルが一時中断するようです。マスコミの論点があまりに偏っているので、問題を整理しておきます。原則、ある政策の評価は、次の方法で行います。これは、経済学では、with-without比較、経営学では、ABテストと呼ばれる方法です。この方法は、モデル上で演繹的に試算するのであれば、同じ対象に対して、複数のシナリオが設定できるので計算処理上の問題は少いです。実測データから帰納する場合には、統計処理上の問題が多数発生します。ここでは、簡単なモデル比較の場合を考えます。

評価法

 政策評価をするには、対象業種(店舗)と評価指標(J)をまず、決めます。これは、売上、粗収益などが考えられます。次に、この評価指標を積分する時間と空間を設定します。

これが決まると、たとえば、「12月の新宿区の全てのホテルの粗収益」のような評価対象が決定できます。

J(12月の新宿区の全てのホテル)と評価指標を書くことができます。

次に、Go Toトラベルがあった場合と、なかった場合について試算します。

Go To トラベルがあった場合;J(12月の新宿区の全てのホテル, with Go To トラベル)

Go To トラベルがなかった場合;J(12月の新宿区の全てのホテル, without Go To トラベル)

Go To トラベル事業の効果は、次になります。

Go To トラベル事業の効果=J(12月の新宿区の全てのホテル, with Go To トラベル)

ー J(12月の新宿区の全てのホテル, without Go To トラベル)

Go Toトラベル事業の費用対便益比は以下になります。

Go Toトラベル事業の費用対便益比=Go To トラベル事業の効果/Go Toトラベル事業費

問題点

考えられる問題点は以下です。

Go Toトラベル事業の費用対便益比が1以下の場合には、Go Toトラベル事業を行うよりは、直接粗収益を補償した方が税金の使い方として効率的です。中間経費が大きいので、これは計算するまでもなく、1より小さいと思われます。一般の政策では、Go Toトラベルの紹介サイトに入る手数料も経済波及効果があると考えますが、今回は、紹介サイトの収益増は事業の趣旨ではないので、評価対象から外すべきです。

Go Toトラベルが需要を先食いしている可能性があります。休暇をとれる日数に制限がある場合には、Go To トラベルで予定していた休暇を前倒しに取っている可能性があります。この場合には、半年から1年程度に積分期間を広く取って比較する必要があります。12月だけの効果では、需要の先食いで、その先に反動で需要が減るからです。

この計算式には、Go Toトラベルがコロナウィルスの感染を拡大させる効果が入っていません。コロナウィルスの感染が拡大すると医療支出が増大します。この部分は、GDPを増大させるので、一般の経済評価では、プラスにカウントしますが、今回は、感染拡大を防ぎたいので、マイナスにカウントして入れるべきです。さらに、感染が拡大すれば、宿泊のキャンセルが出ますので、その部分は、需要を圧迫します。これも考慮すべきです。ここまでは、評価モデルに入れる必要があります。

最後におそらく今回の論点であるGo Toトラベル事業の一時中断の評価です。ここまでの検討では、Go Toトラベル事業は、宿泊費補助がなされる制度として、評価を考えていましたが、実際のGo Toトラベル事業は宿泊補助をだして、いったん中断して、それから再開する事業です。複雑ですが、実際にそのように事業がなされるので、その形でモデル化する必要があります。その場合には、恐らく、次のGo To トラベル事業の効果はマイナスになると思います。

Go To トラベル事業の効果=J(12月の新宿区の全てのホテル, with Go To トラベル)

ー J(12月の新宿区の全てのホテル, without Go To トラベル)

これは、何を言いたいかというと、Go Toトラベル事業がなければ、感染リスクを見ながら、粛々と旅行していた顧客が、Go Toトラベル事業によって、感染リスクが制御できないと考えて、旅行をやめてしまう場合があるということです。特に、Go Toトラベルの中断は、非常に大きなアンカー効果を生じますので、強烈な需要抑制を生じます。この場合には、Go Toトラベルは、税金を投入して観光業を破壊したことになります。

以上のように、Go Toトラベルで、ある日のあるスポットで、観光客が増えたというマスコミ報道(よくあるインタビュー)には、客観性が全くありません。結局は、視聴者の感情に訴えて、視聴率を稼ぎたいだけという番組制作者の意図が丸見えです。