委員会の功罪~コロナウィルスのデータサイエンス(103)

東京都は2日続けて新規感染者数が200人を越えました。本来であれば、事前に第2波を想定して、複数のシナリオと対策を準備しているはずです。しかし、現在の政府や東京都の反応をみていると、実は、準備は何もしていなかったのではないかという疑問が湧いてしまいます。

コロナウィルスの専門家会議は別の委員会に組み替えられましたが、筆者は一般的には、委員会がある場合と、委員会がない場合では、後者の方が問題解決が早いと考えています。委員会システムには、場合によっては功以上に罪があるという意見です。

今回はどうしてそうなるかを説明します。

政府や都道府県が委員会を作る場合には、予算をだす発注者側の組織(事務局)があります。この組織が、委員会を作る場合に、行いたい施策が決まっている場合と、行いたい施策が決まっていない場合があります。

行いたい施策が決まっている場合の委員会

この場合には、事務局が、委員会のシナリオ(施策リスト)を作成し、事前に委員会のメンバーに根回しをして、シナリオ通りの結論に導きます。つまり、委員会は議題を検討することを期待されている訳ではなく、お墨付きを得ることを目的としています。この場合には、委員会の有無で施策が変わることはありません。施策実施までに、委員会を経るので、若干、施策の実施が遅れますが、議論噴出で、討議が持ち越されることはなく、通常は1回の会議で済みます。それでも、時間がかかりすぎる場合には、持ちまわり審議をします。これは、資料を回覧して、疑問点や意見を書いて、事務局に返す方式です。最近では、この持ち回りをEメールで行っていると思います。コロナ以降では、Zoomなどの会議も広がっているかもしれません。

もちろん、建前上は、各委員は、専門家として反対意見を述べる自由がありますが、事務局は事前に、そのようなトラブルメーカーを委員会には入れないようにします。また、多くの委員会では、施策を中止しても、社会的にメリットがないので、委員の発言は、細部に関する確認質問と、よりよい改善案が思いつく場合は、改善案も比較検討するようにアドバイスするだけです(注1)。さらに、場合によっては、便宜許容が行われます。旧専門家会議の委員を出していた組織には、研究助成金が支払われています。

行いたい施策が決まっていない場合の委員会

行いたい施策が決まっていない場合に委員会をつくるというのは、前の条件と反するので、一見ありえないようにおもわれるかもしれませんが、最大の設立目的は、時間稼ぎと、責任回避です。

委員会がない場合には、発注者側の組織は施策に対する全責任を負います。その施策が、その組織の公共予算で実施されている場合には、責任の所在は明確だからです。ですから、委員会がない場合には、施策の進行に伴って、想定される問題と対策のシナリオを事前に準備する必要があります。このように直営で、施策実施に伴う問題点を解決する方法は、効率的なのですが、その分の負担が、全て、事務局相当の行政官の肩にかかります。問題が、自分の専門分野でない場合には、にわか勉強しなければなりませんし、資料を集めて、解決策を考えなければなりません。以前に申し上げましたが、行政官の情報処理作業というものは、自分たちの施策に都合のよいデータだけを集めてくる方式です(注2)。こうした自明の方針なしに、方針自体も考えながら、情報処理作業をすることは、大きな負荷になります。こうした場合に、委員会は、魔法のツールなのです。解決策は何ですか聞かれたときに、問題を委員会に預けていますといえば、質問者の追求はそこでいったん止まります。つまり、委員会を作るとポーズ(一時停止)がかけられます。

ポーズは次のステップとして、解決に先送りに変化します。なぜなら、委員会のメンバーは、頼まれただけですから、期限を設けて、無理にその間に結論を出す気は毛頭ありません。あくまでアルバイトで時間雇用です。一方、常勤の事務局のメンバーは2年から3年すると、転勤してしまいますので、個人的には、委員会の問題に対しては責任がなくなります。2,3年我慢すれば、責任問題は生じないので、無理をして早急に答えを出して、対策に問題が生じて、責任を取らされるリスクをとることは馬鹿げています。つまり、難しい問題であれば、先送りが、最善に身の処し方になります。仮に、変な委員がいて、早急に解答を出そうとした場合には、これは、リスクが高いので、あきらめてもらうように説得すべきです。

このようにして委員会システムが介在すると、問題が難しければ、難しい程、解決される可能性が減って、先送りされる確率が高くなります。

おそらく、ポイントの所在がわかっていて、なおかつ、重要性が認識されながら、未だに解決の糸口すら、提示されていない問題では、委員会システムが介在して、先送りが続けられてきたのだろうと推測しています。

少子化問題年金問題財政問題、大学改革など、委員会システムが、問題の先送りをしてきたと思われる重要課題は非常に多くあります。

まとめ

第2波の感染対策が、急がれます。ただし、第1回の非常事態宣言では、「行いたい施策が決まっている場合の委員会」が用いられたと思われますが、今回は、「行いたい施策が決まっていない場合の委員会」になっているのではないかと心配しています。もちろん、今回は先送りできる範囲は限られているので、どこがで、答えを出さねばならないのですが、事務局が「シナリオ」を出さない限り、委員会独自では、判断ができないのではないかと思っています。

 

注1:この枠組みに当てはまらないケースに「工事の差し止め等の施策の中止に関する委員会」があります。現在問題になっている例は、リニア新幹線のトンネル工事の差し止めです。通常の委員会が、「行いたい施策が決まっている場合の委員会」(ある種の大政翼賛会)でなく、議論が機能していれば、「工事の差し止め等の施策の中止に関する委員会」の数ある委員会の一つにすぎないとみなせます。しかし、現実には、委員会では、裁判のように、是非が問われることはありません。このため、「工事の差し止め等の施策の中止に関する委員会」は非常に特殊な委員会になり、事務局では、安定した運営ができなくなります。最悪の場合には、委員会のあとで、裁判に持ち込まれます。筆者は裁判が悪いとは思いませんが、委員会がうまく機能して、皆が納得できる検討が行われれば、裁判は回避できるはずです。したがって、委員会に関連した裁判が多発するような場合には、委員会の運営に問題があるか、委員会システムで処理することが不適切であったと思われます。少なくとも、事務局や委員会予算を実務部門と独立させるべきです。とは言っても、委員の選抜に、施策実施部門のノウハウが入るとは思われますが。

注2:具体例は白書をみればわかります。バックデータは施策に都合の良いもので占められています。