今回の記事は、官公庁のDXの問題点を書くつもりです。そして、記事を書き始めて、そういえば、9月1日は、デジタル庁の日だったと思いだして、記事をみたところ、デジタル庁の事務方トップとなる「デジタル監」(事務次官級の特別職)に、石倉洋子氏が決まったというニュースがありました。女性であることは評価できますが、お年は、 1949年3月19日生まれの72歳です。
そのまえに、8月18日までは、メディアラボをやめた伊藤穣一氏の起用を検討していたようです。
実務ができるというより、有名人がお好きなようです。
石倉洋子氏は、2010年6月 に、富士通の社外取締役になっています。
その富士通ですが、筆者は、次の記事でも、書いています。
2021/08/21
2021/08/16のダイヤモンドオンラインは、「デジタル庁幹部の『今、優秀な技術者はベンチャーにいます。有能な人でも10年大手ITベンダーで働くと無能になりますから』という言葉を紹介しています」大手ベンダーとは、官公庁の仕事の多い、富士通、NTTデータ、NEC、日立製作所のことです。大手ベンダーは、年功序列、天下りの受け入れをしていますので、優秀な人からやめていきます。
富士通の昨年の業績は、スパコンの富岳が大きなシェアを占めていて、今年は、スパコンの売り上げがなくなって、売り上げは前年比でマイナスになるようです。つまり、富士通は、官公庁の仕事で食べているわけで、民間の売り上げだけで、どこまで競争力があるかは、不透明です。
2021/08/25の日本経済新聞は次の様に伝えています。
9月に発足するデジタル庁の入札制限に関する有識者検討会が25日、入札参加のルール案をまとめた。同庁の職員が兼業で働く民間企業などは入札へ参加できない仕組みを検討すべきだと指摘した。社員を派遣した企業が受注しやすくするなどの便宜供与を防ぐ。
職員は事前に兼業する企業の情報や株式の保有情報、保有する特許権などを登録する。「利益相反行為に関与しない」との誓約も求める。政府は報告書をもとに近く具体的なルールを策定する。
デジタル庁は500人規模の組織として発足する。民間から100人超を起用する予定で、非常勤や兼業も認める。
性善説でみれば、頑張っているという解釈になりますが、性悪説でみれば、デジタル庁は、スタートする前から、ある程度の「利益相反」や、「利益相反」もどきが出ることは織り込み済みであるということになります。つまり、このルールを決めても、実際に、大手ベンダーとの「利益相反」を完全に排除できる可能性は低いです。というのは、民間から100人超を起用は大手ベンダー中心ですし、石倉洋子氏も、大手ベンダーの富士通の関係者だったことを見れば明らかです。
デジタル庁の話は、余談なので、本題に戻ります。
COCOAやVRSを見ていると、DXの問題は、情報公開をすればよいだけのように思われました。
オリンピックとパラリンピックの期間中は、首都高の料金は変更されています。
2021/08/23の乗り物ニュースに次の記事がありました。
国交省高速道路課担当者の話です。
「登録情報は車載器に書き込まれていますが、決済に必要のない情報は省かれます。つまりETCのシステムは技術的には(ロードプライシングに)活用できるのですが、料金収受に絞り込まれた現状のシステムは、制度改正後に対応したシステム改修を行うことでしか対応できません」
ETCが動き始めた20年前、これが普及すれば通行料金はもっと細分化できる、渋滞を緩和する料金施策にも対応できると関係者は説明してきました。が、ETC(=electronic toll collection)は、その名の通り料金の収受システムでしかなかったわけです。今後のロードプライシングのためには、新たなシステム改修の時間と費用が必要になります。そのコストは実質的に高速道路利用者が負担することになります。
噛み砕いていってみます。「料金収受に絞り込まれた現状のシステム」はおそらく、大手ベンダーが受注して、作った可能性が高いです。この時に、決済に必要のない情報も省かなくとも、システムの構築費用はかわりません。仮に、変わっても、誤差の範囲の変動です。しかし、ここで、汎用システムを作ってしまうと、「制度改正後に対応したシステム改修」という将来の仕事が消えてしまいます。したがって、難癖をつけて、できる仕事でも、やらないでおくことが正解になります。もちろん、本当に競争があれば、それでは、仕事を受注できません。しかし、官公庁は実績主義なので、実績のない大手ベンダー以外が仕事をとることはありません。また、実績主義の担保として、大手ベンダーは、天下りを受け入れる構造になっています。公共事業の大規模工事の場合には、一見、大手中心の実績主義が有効に見えます。中小の土木会社が、受注して、工事を完成できないリスクがあるというのが、その理由です。しかし、実績主義をとっていない国もあります。その場合には、入札の条件として、受注した場合には、保険に入ることを義務付けします。個別の土木会社がどの程度信頼できるかは、保険会社が評価し、保険料に反映されます。自動車保険で、ゴールド免許でなくなると、保険料があがるのと同じ仕組みです。(注1)
さて、「料金収受に絞り込まれた現状のシステム」の問題は、システムのスペックを不要に一般化できないように、制限している点です。これは、本来は、発注者側がチェックすべき内容ですが、チェックする能力がないのか、天下りポストの温存を図っているのか、わかりませんが、チェックされないことは事実です。
この問題の一番簡単な解決法は、システムをあるベンダーが、受注して、システムの開発仕様が決まった段階で、情報公開をして、パブリックコメントを求めればよいと思われます。ここでは、開発仕様をブラッシュアップしておけば、COCOAやVRSのようなシステムは作れなくなります。
COCOAやVRSのように、システム開発が終わった後で、情報公開しても、システムの修正や、改善、効率的なバグとりはできません。
この時に、チェックすべき点は、チェックリストを作れば、難しくありません。
TSMCはファンドリーで成功しました。日本には、TSMCと競争できる企業はありません。なぜ、日本企業がだめかという点は、逆にいえば、なぜ、TSMCは成功したのかということと同じです、
その原因を、莊 苑仙氏は次の様にまとめています。
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キャパシティーの共用による「規模の経済」の発揮
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IPの重複利用とライブラリによる「範囲の経済」の達成
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共通の設計ツールと試作サービスによる「速度の経済」の提供
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バーチャル組織による「集中化と外部化の経済」の享受
これは、見ての通り、DXの成功に必要な条件にほとんど重なっています。チェックすべき内容は、こんなものです。
注1:
デジタル庁がどれだけ本気かは、2021/08/25の日本経済新聞の内容でなく、入札企業に、制約を設けず、保険をかけさせるか否かを見ればわかります。
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デジタル庁、民間人材の兼業先は入札参加できず 2021/08/25 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2548H0V20C21A8000000/
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【独自】デジタル庁事務方トップに石倉洋子・一橋大名誉教授起用へ 2021/08/25 TBS NEWS
https://news.yahoo.co.jp/articles/e9af19bddf345f1eb0c2582ea20a0aaa202753a7
https://news.yahoo.co.jp/articles/24fde38d0a17b404b3b9fe5908bf8c6af445ffa8
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いつの間にか“人流抑制”になった首都高1000円増し再び 「ETCなら簡単にできる」の誤解 2021/08/23 乗り物ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/5d39a77417347f05debccb14b5f3cbd570442ba7
https://diamond.jp/articles/-/278751
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ファンドリー生産におけるビジネスモデルの解明 2010 東アジア研究 54号 莊 苑仙
http://210.168.184.3/research/asia/bulletin/pdf/asia_54.pdf
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