限界国家日本(4)推論エンジン(2)

3)認知負荷

推論エンジンの理論(認知科学行動経済学)は、カーネマンの啓蒙書などで、容易に理解できます。

推論エンジン仮説は、大変強力な仮説ですが、実際には、ほとんど使われていません。

 

推論エンジン仮説が使われない理由は、推論エンジン仮説の認知負荷の大きさにあります。

 

第1回で、<2035年「日本居住サブスク」請求書>を提示しました。

政府は、<2035年「日本居住サブスク」請求書>のような資料を公開していません。

その理由の一つは、<2035年「日本居住サブスク」請求書>を作成する認知負荷がとても大きい点にあります。

2035年「日本居住サブスク」請求書>は、推論エンジン仮説を使っています。推論エンジン仮説には、確率が含まれています。確率を扱うことは、脳に大きな認知負荷をかけます。これは、大変疲れる作業なので、認知的負荷を理解した上で、推論エンジン仮説を使わない限り、<2035年「日本居住サブスク」請求書>は作れません。また、<2035年「日本居住サブスク」請求書>では、認知負荷をさげるために、AIを使っています。つまり、AIなしで、<2035年「日本居住サブスク」請求書>をつくることは困難でした。

4)推論エンジン制御仮説

AI時代には、推論エンジンの制御ができる個人、企業、国家だけが生き残ることができます(推論エンジン制御仮説)。

推論エンジン制御仮説は、仮説であって、これから、検証が進むと考えられます。

推論エンジン制御仮説は、トレンド予測とは対立します。

推論エンジン制御仮説がなりたつと考える理由は、認知負荷の小さな推論分野では、AIの性能が人間の脳の性能を越えているからです。

この説明は抽象的です。脳は、こうした抽象的な表現を理解できません。

その場合には、比喩を使うと脳を納得させることができます。

あなたは、馬車を使った運送会社を経営しています。トレンド予測では、これからも、馬車を使った運送会社は、経営可能です。しかし、ここに、自動車という馬車の競争相手が現われました。あなたは、経営戦略を変えるべきでしょうか。

今年も去年と同じ経営戦略を使う(去年の経営戦略をコピーする、過去のデータに基づくトレンド予測を使う)場合には、認知負荷は小さいです。

この経営戦略でよければ、AIに経営をまかせることが可能です。

「自動車という馬車の競争相手にあわせて、経営戦略を変える推論」の認知負荷はとても大きいです。

つまり、今年も去年と同じ経営戦略を使うという推論を封印しない限り、「自動車という馬車の競争相手にあわせて、経営戦略を変える推論」をすることができません。

これは、過去のデータと過去の経験を否定することになります。

この条件では、AIの学習は、上手く機能しません。

「過去のデータと過去の経験を否定すること」は、推論エンジンの制御のひとつです。

「過去のデータと過去の経験を否定」して、馬車と自動車の経営戦略を考えることは、認知負荷に耐えられる脳のトレーニングとして有効です。この方法は、アメリカのビジネススクールでは、ケースメソッドとして多用されています。日本で多く使われるケーススタディは、成功した経営戦略をコピーする推論(照合、パターンマッチング)か、単純にトレンドを外挿する推論(帰納)で、認知負荷の小さい方法です。ケースメソッドとケーススタディは、名前が似ていますが、推論エンジンは、まったくことなります。

「過去のデータと過去の経験を否定すること」は、ケーススタディを封印して、ケースメソッドを使うことになります。

2026年の日本社会は、構造変化の最中にあります。

構造変化の最中では、過去のデータと過去の経験は使えません。

したがって、政府の有識者会議が、ケーススタディを使っているか、ケースメソッドを使っているかをみれば、提言が(使える/使えない)を簡単に判断できます。

ここまで読んでいただいた読者には、かなり大きな認知負荷をかけているので、今回の説明はここまでです。

資料:

事例をケーススタディとして読むか、ケースメソッドとして読むかの違いは以下です。

  • ケーススタディ(Case Study)としての読まれ方: 客観的な「事例研究」として消費することです。
    • 論理構造: 帰納的。過去のデータとして「こう間違えた」という知識を蓄積します。
    • 位置付け: 読者は「観察者(安全圏)」に留まります。自分の現在の前提を壊す必要がないため、シングルループ学習に収まり、「知識が増えた」という満足感で終わります。
  • ケースメソッド(Case Method)としての読まれ方: 「もし自分がその場にいたらどう決断するか」という主体的なシミュレーションです。
    • 論理構造: アブダクション的。既存のセオリーが通じない極限状態で、新しい「解」をひねり出す訓練です。
    • 位置付け: 読者は「当事者」となります。自分のバイアスや判断の癖が突きつけられるため、ダブルループ学習(アンラーニング)を強制されます。
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