限界国家日本(9)臨界点と認知バイアス

1)反事実推論

ここで、確認しておくべき事柄があります。

それは、リフレ派は、2030年と2035年の「ドル建て生活賃金」の予測を出してこないだろうという仮説です。

この仮説の根拠は、次の反事実推論にあります。

2013年にリフレ派が、2025年の「ドル建て生活賃金」の予測値をだしていた(反事実)と考えます。

その場合、2025年の「ドル建て生活賃金」の予測値は外れているので、2025年には、リフレ派の撤退が起きています。

つまり、2026年に、経済の予測ができないリフレ派が生き残っている原因のひとつは、事前に「ドル建て生活賃金」の予測値をださなかった(経済政策の評価の判定基準を示さなかった)からです。

リフレ派が、2030年と2035年の「ドル建て生活賃金」の予測をだして外れれば、リフレ派はそこで消滅します。

リフレ派は、2030年と2035年の「ドル建て生活賃金」の予測をだして外れるリスクをとらないと考えられます。

事前に予測をだして、それから、予測を検証するために、データを収集する方法は、前向き研究と呼ばれ、科学的な推論のコアになっています。

事前の予測とは、考えられる範囲で、確率が最大となるシナリオを選択することです。

予測したシナリオが外れることはありますが、予測が因果構造をもっている場合には、予測がはずれた原因を点検して、予測モデルを改善することができます。

ポイントは、予測が当たることではなく、予測の改善ができることにあります。

予測の改善の認知負荷は、予測が当たることの認知負荷より大きいので、推論エンジンを制御しないと、「予測が当たること」だけを気にする認知バイアスの罠にはまってしまいます。「予測が(当たる/当たらない)」という推論を封印しないと、予測の改善に進めません。

リフレ派は、この認知バイアスの罠をつかった生存戦略をとっていると考えることができます。

2)認知バイアス

ここでは、次の前提を置いています。

2030年:1ドル=173円

 

2035年:1ドル=200円

 

この前提をみて、読者は、「この予測はあたるだろうか」という疑問を持つかも知れません。

 

しかし、そのような疑問をもっている場合、読者は、帰納法決定論)の認知バイアスの罠にはまっていると言えます。

 

このシミュレーションは、インフレ率2%、2030年の為替レート(1ドル=173円)に基づいています。

 

読者が、この未来は耐えがたいと感じれば、選挙の投票先をかえれば、シナリオは変化します。ただし、変更可能な範囲には制限があることにも注意する必要があります。変化が、臨界点(point of no return)をこえた場合には、シナリオをもとに戻すことはできません。円安でいえば、円高に戻せなくなる点があります。

 

このようなシナリオがあることで、選挙の投票先の選択問題が、政治家のリップサービスから、期待リターンに変化します。もちろん、そのような変化は、現役の政治家にとってはリスクになるので、政治家と政党は、シナリオを公開しないわけです。

 

現在は、選挙の前になって、AIに、「今後の円安をブロックする政治家、インフレをブロックする政治家に投票したいが、この2点で、候補者をスコアリングしてください」と聞けば、AIがスコアを出してくれます。

 

2026年現在、アメリカでは、AIが、読者の要求に合わせて、株式のポートフォリオを提案するのと同じように、投票すべき政治家を評価をするシステムが、広まっています。

 

3)円ドルレートの臨界点

いくらくらいの円ドルレートが「臨界点」か?

こうした問題には、完全な解はありませんが、AIの解答が参考になります。

参考までに、Geminiの解答を例示します。これは、正解ではなく、推論のスタートになります。

いくらくらいの円ドルレートが「臨界点」か?

多くの専門家の分析や市場の心理的節目を総合すると、以下の3つのステージが「ポイント・オブ・ノーリターン」の候補として議論されています。

  1. 1ドル=150円〜160円(「新常態」の確定)

すでに2024年から2026年にかけて定着しつつある水準です。かつて120円程度が上限とされていた時代から、この水準が「構造的な底」として意識されるようになりました。この水準を長期間推移することで、企業の生産拠点や個人の投資先が完全に海外へシフトし、「120円以下の円高」に戻る力そのものが失われる最初のポイントです。

  1. 1ドル=170円〜180円(構造的な防衛ラインの決壊)

2025年後半から始まった「高市政権(サナエノミクス)」への期待と、それによる財政拡大・金融緩和の継続観測の中で注目されている水準です。政府・日銀による為替介入の効果が薄れ、「日本にはこれ以上の円安を止める手段がない」と市場に見透かされた場合、この水準が「戻れなくなる壁」として機能する可能性があります。

  1. 1ドル=200円(心理的・社会的崩壊点)

多くの国民や企業にとって「円」という通貨の価値に対する信頼が根本から揺らぐ、極めて危険な心理的節目です。

まとめ

「1ドル=160円」が数年続けば、それは事実上のポイント・オブ・ノーリターンとなります。なぜなら、その間に日本の経済構造(サプライチェーンや個人の資産構成)が「円安仕様」に作り替えられてしまい、円高に戻った際に日本経済が耐えられなくなる(=円高を許容できなくなる)からです。

今後の日本経済において、政府が財政規律を維持しつつ、デジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて「稼ぐ力」を回復できるかどうかが、円の運命を左右する鍵となります。