消費税減税をめぐる議論(2)

1)インフレの課題

 

消費税減税をめぐる議論は、インフレ対策であると考える人もいます。

 

野口悠紀雄氏は、次のように言います。(筆者要約)

 

消費者物価の上昇率が、日銀の想定である2%を超えて、3%台になっていることは事実である。しかし、物価対策に、消費税減税というのは、あまりに短絡的だ。

 

現下の物価高騰の大きな原因は、第1にはコメ価格のコントロールに失敗していることであり、第2には賃上げが企業の売上げ価格に転嫁されていることだ。そのために、輸入物価が下落しているにもかかわらず、消費者物価が高騰しているのである。したがって、これに対応しない限り、物価高騰は続くだろう。

 

仮にコメ価格の上昇率を0にできれば、消費者物価は2.5%程度に低下するだろう

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じつは物価高には《消費税減税よりも効果大》…!政府がいますぐ《コメ暴騰対策》をすべき理由 2025/-5/9 現代ビジネス 野口悠紀雄

https://gendai.media/articles/-/151877?imp=0

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TBSは次のように報道しています。

 

物価高対策などとして、与野党から声があがる消費税の減税について、石破総理は実施しない意向を固めたことが分かりました。

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石破総理「消費税の減税しない」方針固める 野党からは「物価高に無策だ」と批判 夏の参院選で公約に減税掲げる公明党と歩調合うか 2025/05/09 TBS

https://news.yahoo.co.jp/articles/b6b738826ec86c20991613cd7980196ad13810f9

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つまり、消費税は、物価高対策として考えられているようです。

 

野口悠紀雄氏は、物価上昇の原因は、「第1にコメ価格のコントロールの失敗、第2に賃上げ分の企業の売上げ価格へ転嫁」であると考えています。

 

この仮説が正しければ、消費税減税によって、物価がさがることはありません。

 

2)政府の姿勢

 

野口悠紀雄氏が指摘するように、消費税の問題は、コメの問題とセットで検討されています。

 

1993年12月、日本はウルグアイラウンドで、コメの部分的な輸入解禁を決めました。

 

コメの部分輸入が決定するまでは、無謬主義で、コメを輸入した場合の想定問答は封印されていました。

 

2025年2月8日に、石破首相が、トランプ大統領と会談した時にも、石破首相は、国会では、もしもの議論はしないというルール(無謬主義)になっているといいました。

 

しかし、5月に入って、石破首相は、もしもの議論を始めています。

 

 石破茂首相は、2025年5月11日、フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」に生出演して次のように発言しました。

 

 「ここ50年くらい、世界中が米の生産を増やしてきた。中国だってアメリカだってインドだって、世界全体で3・5倍になってる」と指摘し「日本だけ米生産を減らしてきた。本当に正しかったですか?ということです」と述べた。

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石破首相 コメ問題「史上最低の農林水産大臣とめちゃくちゃ言われた」 TVで訴え「本当に正しかったですか?」2025/05/11 デイリー

https://news.yahoo.co.jp/articles/6d020a05567cb384b5b25fb9d0f202c075cbbe47

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同じ番組で、石破茂首相は、日米の関税交渉に関して米国からのコメの輸入拡大も選択肢の一つだとの認識を示しました。一方、日本のコメに関する政策を検証して国際競争力を高める必要性にも言及し、自動車産業など工業分野で成果を得るために農業を犠牲にすることはないとも強調しました。

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石破首相、コメ価格巡り「輸入拡大も選択肢の一つ」 フジ番組で 2025/05/11 毎日新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/c326a799b3f2b1ffc54a4742559ca818c8644f3d

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2025年5月12日の衆院予算委員会で、国民民主党村岡敏英議員は米価高騰について、農家の所得を直接補償するとともに、コメ価格を消費者が安心して買える値段に下げる農業改革が必要だと指摘し、石破首相の見解を尋ねました。

 

石破首相は「仮に米価が下がることがあっても、農家の生活が困らないためにはどうすればよいのか。米の値段を下げることは一切許さんという議論はもう1回見直してみるべきだと思う。所得補償はのべつまくなしに行うということではない。価格は市場によって決まる。しかし所得は政策によって確保していくことをどうやって両立させていくか」が重要だと指摘し、海外への販路拡大とマーケティングの推進を含め、「日本の米を守る、農業を守るために、新たな施策を展開をするための議論を賜りたい」と呼びかけました。

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石破首相 コメ高騰受け増産による米価低下策に言及 農家への補償に前向き「米価下げは一切許さない議論は見直すべき」

https://news.yahoo.co.jp/articles/73db9edf883e1e67d035882338e6f0f50ea0c2a4

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これは、驚くべき変化です。

 

直接支払いは、農家に対して行われます。この方法では、天下りのポストがなくなります。なので、補助金は業界に支払われる必要があります。

 

補助金の削減が実現するかは不明ですが、少なくとも、議論の対象にせざるえないところまで、万策は尽きています。

 

コメの輸入は、物価対策に確実な効果が期待できます。

 

3)減税の財源

 

森永卓郎氏は、次のようにいいます。

財務省が減税を嫌がる理由とは

 

まず、財務省は恒久策をとても嫌がる。単年度の財政支出ならともかく、ずっと減税を続けるのは、増税路線と矛盾してしまうからだ。

 

もう一つ財務省が嫌がる理由は、天下りだ。半導体や宇宙開発の支援で財政出動すれば、そこに天下りポストが生まれるが、減税は利権につながらないのだ。これまでの財務省の行動は、100億円の財政出動につき、天下り一人を押し付けるというのが相場になってきた。だから7兆円の減税財源があるのなら、本来700人の天下りを実現できる。それが減税では、一人の天下りポストも握れない。それだけは、どうしても嫌なのだ。

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天下りポスト確保」のために玉木代表の「不倫スキャンダルを暴露」!?…森永卓郎さんが明らかにしていた「財務省の“国民民主党潰し”」の真実 2025/03/03 現代ビジネス 森永卓郎

https://gendai.media/articles/-/146215?imp=0

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700人を年収3000万円で雇用するために必要な金額は、210億円です。

 

年功型雇用をやめて、ジョブ型雇用にすれば、210億円あればたります。

 

3000万円で安過ぎるのであれば、仮に、年収1億円にしても、700億円あればたります。

 

官僚の定年制(年功型雇用)をやめて、ジョブ型で給与を支払うのであれば、700億円を準備すれば、6兆9300億円の財源が浮きます。

 

補助金をばらまけば、補助金獲得に秀でた人が、会社のCEOになります。しかし、そのCEOのもとでは、技術開発が停滞して、生産性が上がらず、国際競争力が失われます。

 

補助金が競争力を奪う典型的な例が、コメです。

 

加谷 珪一氏は、次のようにいいます。

賃金を上げるためには、売上総利益を増やすか、他のコストを削減するかのどちらかを選ぶ必要がある。

 

1997年における各国企業の売上高を100とした場合、過去20年でドイツ企業は売上高を2.7倍に、米国企業は3倍に拡大させた。一方、日本企業は売上高がほとんど伸びておらず、ほぼ横ばいの状態が続いている。

 

同じ期間、世界経済は順調に拡大を続けてきた現実を考えると、日本企業の売上高が横ばいというよりも、諸外国の3分の1に減少したと考えた方が実態に即している。

 

日本企業全体の売上高は、過去20年以上にわたって1400兆円から1500兆円の間を行き来している。日本企業は売上高が横ばいであるにもかかわらず、利益だけを継続して増やしてきた。これはとりもなおさず、コスト削減ばかり実施してきたことになる。コスト削減の対象は人件費にも及んで、企業は人件費総額の抑制策を続け、結果として労働者の賃金は下がる一方だった。

 

企業というのは明確な意思を持った組織であり、株式会社であれば取締役会、つまり経営陣が、その意思を体現する。過去30年間、日本企業の取締役会は、明確に売上高が横ばいの現状維持を選択した。

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日本企業が「賃上げ」をできない「根本的な理由」…経営者たちが「仕事をサボっている」驚きの現実 2024/05/24 現代ビジネス 加谷 珪一

https://gendai.media/articles/-/136289

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これは、日本企業の取締役会は、補助金天下りを受け入れる現状維持を選択してきたと読み替えることができます。

 

財界は円安が輸出を拡大すると主張してきましたが、加谷 珪一氏は、円安には、数量(あるいはドル換算)での輸出拡大効果はないといいます。

リーマンショック後からの日本の輸出金額と輸出数量を調べると、輸出金額はほぼ為替に連動して上下している。一方で輸出数量は為替の変動に対してほとんど変化がなく、毎年、少しずつ減少を続けている。

 

日本の輸出は過去15年にわたって、数量ベースでは減り続けている。為替が円安になれば見かけ上の輸出金額は増えるが、その分だけ仕入れ金額も増加するので、企業の業績には寄与しない。肝心の数量が増えないので、日本全体に対する経済効果も乏しい。

 

為替が円安になったにもかかわらず輸出数量が増えないのは、すでに製造業の多くが現地生産に切り替わっており、輸出比率が減っているからである。

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「円安で日本の輸出企業は業績を伸ばす」は本当なのか…? 数字が示す「残酷な真実」2024/07/24 現代ビジネス 加谷 珪一

https://gendai.media/articles/-/134289

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国際収支統計(速報)は次のようになっています。

 

財務省が2025年5月12日に発表した2024年度の国際収支統計(速報)で、海外とのモノやサービスの取引などの状況を示す「経常収支」の黒字額が前年度比16.1%増の30兆3771億円となり、2年連続で過去最大を更新した。

 

 海外投資で生じる利子や配当金などの「第1次所得収支」の黒字幅は、11.7%増の41兆7114億円だった。海外の金利上昇や円安の進展が影響し、直接投資収益、証券投資収益ともに黒字額が前年度から1割以上増加した。

 

 モノ以外の取引を示す「サービス収支」は、2兆5767億円の赤字で、赤字幅は20.2%縮小した。

 

 モノの輸出額から輸入額を差し引いた「貿易収支」は、4兆480億円の赤字だった。前年度から赤字幅は9.8%拡大し、4年連続で貿易赤字となった。

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円安が寄与、24年度の国際収支・経常黒字は過去最大…前年度比16%増の30兆3771億円 2025/05/12 読売新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/2eed69628e786f651411ea205ecf3549b9ea8ee8

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つまり、黒字は、海外投資で生じる利子や配当金などの「第1次所得収支」だけです。

 

「すでに製造業の多くが現地生産に切り替わっており、輸出比率が減っている」ことがわかります。

 

石野シャハラン氏は、最近の犯罪の増加について述べています。

 

警察庁によると刑法犯の認知件数は2022年に20年ぶりに前年比で増加に転じ、24年には3年連続増となる73万7679件に達した。

 

真面目に働いて生活していても良いことがないどころか損をする、という思考で強盗や詐欺に手を染める人は多いだろう。暮らしに希望を持ち、勤勉に働くほうが得をすると皆が思える社会ならば、犯罪は増えないはずだ。政治家には国民にとって希望が持てる日本をつくるべく身を粉にして働いてほしいが、その政治をつかさどる人たちが多くの国民のストレスの一端でもあるとなると......。皆さん、次回の国政選挙まで諦めずに、生き甲斐を見つけて頑張りましょう。

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日本の「治安神話」崩壊...犯罪増加と「生き甲斐」ブームの関係 2025/05/07 Newsweek 石野シャハラン

https://www.newsweekjapan.jp/tokyoeye/2025/05/post-235.php

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「勤勉に働くほうが得をすると皆が思える社会ならば、犯罪は増えないはず」です。しかし、国際収支統計の黒字の「第1次所得収支」は、日本国内の労働者とは関係がありません。

 

加谷 珪一氏が指摘するように、日本企業の取締役会は、明確に売上高が横ばいの現状維持を選択しています。つまり、勤勉に働いて技術開発をして、輸出を拡大する道は閉ざされています。その結果、石野シャハラン氏が心配するような事態になっています。