1)予言(設計図)は実現する
カッツ氏の主張は、次のように要約できます。
「消費税増歳+法人税減税」=>「実質所得の減少」=>「経済成長の停滞(結果)」
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「消費税で家計が疲弊し、企業は利益を貯め込む」知日派ジャーナリストが嘆く日本の残念な状況 2025/05/20 東洋経済 リチャード・カッツ
https://toyokeizai.net/articles/-/877659
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この方針は、「新時代の日本的経営」に基づいて、骨太の方針(設計図)を通じて実現しています。
「新時代の日本的経営」=>骨太の方針=>「消費税増歳+法人税減税」
つまり、骨太の方針は、「消費税増歳+法人税減税」を担っていました。
筆者は、骨太の方針に、反対も、賛成もしません。
ある政策を行う場合には、目的(問い)を設定して、政策の効果を計測して、政策の効果がない観測されない場合には、政策を修正改善するプロセスがあれば、賛同しますし、このプロセスがない場合には、反対します。
カッツ氏の主張によれば、骨太の方針の目的は、家計から大企業への所得移転になります。
これが目的であれば、DXと生産性の向上は実現せず、国民は、ひたすら貧しくなって行きます。
注意が必要な点は、骨太の方針には、「国民をひたすら貧しくするという目的」が,伏せられていることです。
国民が、「国民をひたすら貧しくするという目的」に納得して、選挙で与党を選んでいるのであれば、筆者は、骨太の方針には反対しません。
しかし、「国民をひたすら貧しくするという目的」が書かれえていないので、国民が、選挙で与党を選んでいるのであれば、問題があります。
パラグラフの論理の世界では、目的が明示されなければ、相手にされません。
アベノミクスでは、2%のインフレ目標が設定されましたが、インフレになっても、名目所得がインフレ率以上に増えなければ、実質所得が減ってしまいます。これが、現在の日本です。
したがって、パラグラフの論理の世界では、2%のインフレは政策目標とは言えないと判断して却下されます。
なぜなら、2%のインフレ目標を達成して、なおかつ、真の目標である「国民をひたすら貧しくするという目的」を達成することが可能だからです。
労働生産性があがらなければ、所得を増やすには、所得移転(中抜き経済)しかありません。これは、ゼロサムゲームなので、分断の拡大になります。これが、骨太の方針です。
ブルームバーグは、次のように伝えています。
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(ブルームバーグ): 政府が経済財政諮問会議で示す「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」原案の全容が6日、判明した。米国による関税措置に伴う日本経済の下振れリスクに触れつつ、減税ではなく賃上げを通じて経済の底上げを図る考えを表明する。
6日の諮問会議で示す原案をブルームバーグが入手した。原案の冒頭では、国際秩序の変化や日本の人口減少を踏まえた経済構造を作る必要性について言及。米関税措置は輸出の減少や消費・投資を下押しする恐れがあり、経済全体を下振れさせるリスクとなっていると指摘した。一部の野党が主張する減税政策ではなく、「賃上げによって手取りが増えるようにする」とも明記した。
骨太の方針は毎年この時期に取りまとめる経済財政政策を巡る政府の指針だ。あらゆる分野が網羅的に記述されており、時の政権がどの政策に力点を置いているかが分かることから、業界を問わずさまざまな関係者が注目する政府文書の一つでもある。原案は今後の政府・与党内の調整で一部修正される可能性がある。
経済再生と財政健全化の両立については「経済あっての財政」との考えを堅持する。足元で超長期金利が上昇傾向にあることを念頭に、「国債需給の悪化などによる長期金利の急上昇を招くことのないよう、国内での国債保有を一層促進するための努力を引き続き行う必要がある」と記した。
政府が財政健全化の指標としている基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化目標は、これまで2025年度を達成時期としていたが、今回の骨太の方針では25-26年度を通じて実現を目指すとして達成時期に幅を持たせた。
政府は日本銀行と密接に連携するとともに、日銀には「2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する」とも盛り込んだ。
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「減税より賃上げ」、骨太方針原案の全容判明-国債需給にも言及 2025/06/05 Bloomberg
https://news.yahoo.co.jp/articles/718790f4c7fb512ba46dc21dc54175f0eaa2c88e
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よく読めば、骨太の方針には、「国民をひたすら貧しくするという目的」が隠れています。
2024年3月に、The Diplomat 誌に、 Zhihai XIE氏が投稿した記事の一部を引用します。
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⽇本経済のパラドックスを理解する
⽇本は他の先進国に⽐べて地位を落としているものの、株価は急騰している。
IMFのデータによると、2000年から2022年までの⽇本の実質成長率は年平均わずか0.7%であるのに対し、ドイツは1.2%でした。その結果、過去20年間で⽇本のGDPはわずか10%程度しか伸びなかったのに対し、ドイツのGDPはほぼ倍増しました。
⼀⽅、⽇本の労働⽣産性(労働者1⼈当たり1時間あたりに⽣産できる財・サービスの価値で測る)は、2022年時点でOECD加盟38カ国中30位、先進7カ国中最下位にとどまっています。⽇本の労働⽣産性は、⽶国に次ぐ2位のドイツのわずか60%に過ぎません。だからこそ、⼈⼝が⽇本の3分の2しかないドイツが、GDPで⽇本に追いつくことができるのです。
⽇本経済を巡る懸念材料は他にもある。2022年の⽇本の⼀⼈当たり名⽬GDPは3万4064ドルで、OECD加盟38カ国中21位と、過去最低を記録しました。さらに、2022年時点で⽇本のGDPが世界経済に占める割合はわずか4.2%で、これも1980年代以降で最低⽔準となっている。2023年第4四半期には、⺠間消費と設備投資がそれぞれ前四半期⽐0.4%と0.1%減少しました。
こんなに厳しい経済状況なのに、なぜ株価は急騰しているのでしょうか?
主な理由は、円安のおかげで多くの⽇本の⼤企業が好調に推移していることです。トヨタをはじめとする企業は円安の恩恵を⼤いに受けており、利益と時価総額において記録的な⽔準に達しています。
株価上昇は今の⽇本の経済が好調であることを意味するのでしょうか?答えは断然「ノー」です。
円安は諸刃の剣です。輸出志向の企業には巨額の利益をもたらす⼀⽅で、エネルギー、⾷料、原材料などを海外に⼤きく依存する輸⼊志向の企業には⼤きな打撃を与えます。⼤企業は勝利を収めているかもしれませんが、中⼩企業の多くはそうではありません。
現在、⽇本経済が直⾯している最⼤の難題は消費の低迷です。その主な原因は、⼀般労働者の賃⾦が過去30年間ほぼ横ばいとなっていることです。これは先進国としては異常な状況です。⼤企業は政府の要請に応じて従業員の賃⾦を引き上げていますが、中⼩企業の多くはそれに消極的です。
⽇本銀⾏による継続的な⾦融緩和により、近年、⽇本経済はデフレからインフレへと徐々に転換しつつあります。物価は高騰していますが、⼀般国⺠の給与はそれに追いついていません。
2024年のインフレ率は3%程度と予想されていますが、新たに発表されたデータによると、2024年1⽉の実質賃⾦は前年⽐0.6%減少しました。この傾向は個⼈消費を抑制し、⼈材流出にもつながります。多くの熟練した⽇本⼈労働者が、同等の仕事をしながらはるかに⾼い賃⾦を得られる⽶国や欧州に移住しているとの報道もあります。
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Understanding the Paradox of Japan’s Economy 2024/03/13 The Diplomat Zhihai XIE
https://thediplomat.com/2024/03/understanding-the-paradox-of-japans-economy/
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XIE氏も、カッツ氏と同じように、「⽇本経済が直⾯している最⼤の難題は消費の低迷です。その主な原因は、⼀般労働者の賃⾦が過去30年間ほぼ横ばいとなっていることです」といいます。つまり、消費税を減税して、法人税を増税すれば、消費が伸びて経済が動きます。この資金は、現在は、企業の内部留保になって停滞しているので、経済が回らなくなっています。
XIE氏は、「⽇本の労働⽣産性は、ドイツのわずか60%」であると指摘しています。糊しろは、40%あります。ドイツ並みの生産性になれば、賃金は、1.7倍になります。
XIE氏は、「⼤企業は政府の要請に応じて従業員の賃⾦を引き上げていますが、中⼩企業の多くはそれに消極的です」と企業格差にも触れています。
野口悠紀雄氏は、「もともと、大企業の賃金水準と小企業の水準の間には大きな差があった。それが、拡大し、賃金水準には大きな差ができている 。賃上げ率は、大企業5.1%なのに小企業わずか1.7%で、小企業では、実質マイナスになっている」といいます。
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「春闘で好調」なのは大企業だけ…!置き去りにされる「中小企業の苦境」と、ますます拡大する「貧富の格差」2025/03/20 現代ビジネス 野口悠紀雄
https://gendai.media/articles/-/149202
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コメの価格上昇が問題になっていますが、コメ以外の食料品も大きく値上がりしています。
日本は、既に、スタグフレーションに突入しています。
「ドイツの60%の日本の生産性」に手をつけずに、賃上げすれば、スタグフレーションがとまらなくなります。
中小企業が、賃上げできない理由は、中間財の市場がないためです。
読売新聞はつぎのように伝えています。
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政府の成長戦略「新しい資本主義実行計画」案の全容が6月5日、判明した。実質賃金の年1%程度の上昇定着を目指し、国や自治体による企業などへの発注で物価に合わせた価格の引き上げを徹底するほか、医療や介護など公定価格の引き上げを進め、賃上げに取り組む姿勢を示した。官民による国内投資を2040年度に200兆円とする目標も明記し、民間企業の「稼ぐ力」の向上を後押しする。
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年1%の賃金上昇へ国が「先導役」に、「新しい資本主義」全容判明…医療・介護の公定価格引き上げも 2025/06/05 読売新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/d97feafa62326cd6d0ec2bc05ce8f17d9d003f40
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「新しい資本主義実行計画」は、「国民をひたすら貧しくするという目的」を進めて、日本をアルゼンチン化する設計図です。このままでは、予言は実現します。
労働生産性を改善せずに、民間企業の「稼ぐ力」は生じません。
カッツ氏とXIE氏の見解は、多くの部分で一致しています。
これが、パラグラフの論理のある世界の共通理解です。
パラグラフの論理で書かれた英語の文献をみれば、ほぼ同じような見解になっています。
労働⽣産性のトップは、アメリカです。
AIによって、このアメリカの労働生産性に劇的な変化が起こっています。
この問題は、後で論じますが、恐らく、2030年には、日本の労働生産性は、アメリカの10分の1になっている可能性があります。
賃上げは問題になりません。
これが、2030年問題のタイトルの趣旨です。
アメリカの労働生産性向上の最大の障害は、トランプ大統領の関税政策ですが、今のままで行くと、トランプ大統領が撤退して、合理化がぶり返して、更に加速する可能性が高いと考えます。
一方、「新しい資本主義実行計画」は、日本のトランプ化政策になっています。