4)小野寺政調会長の発言
自民党の小野寺政調会長の発言がマスコミに出ていますが、ファクトチェックができない問題の多いものです
テレ朝:
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「消費税をやめるとか、いっぱいお金を配るとか、この原資を国の借金にした場合、円の評価が下がって円安、円安になるとまた買ってくるモノの値段が上がりますから物価高になります」
小野寺氏は物価高について「最大の要因は行き過ぎた円安だ」と指摘し、「円安を是正するには財政規律がまず大事」と強調しました。
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自民・小野寺政調会長“消費減税すれば物価高に” 2025/05/17 テレ朝
https://news.yahoo.co.jp/articles/cc0341ce9b6f5fbb0d99d0c09224f231a6693f51
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朝日新聞:
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小野寺氏は、富山市内での講演で次のように発言した。
伸びる企業、世界で稼ぐ企業に、国はえこひいきして応援する。その表れが、(半導体メーカーの)熊本のTSMC(台湾積体電路製造)、北海道千歳のラピダス。お金を兆円規模で入れていく。そして、世界のシェアを取り、技術を取り、私たちの次の世代、その次の世代の強い日本の稼ぎ頭、勝ち組にしていこう。
物価高の最大の原因は行き過ぎた円安だ。企業の税収は上がってきたが、まだ借金をして国を回している。円の信用を落とさないためにも、財政規律が大切だ。
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自民・小野寺政調会長「伸びる企業に国はえこひいきして応援する」2025/05/17 朝日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/c6549c8829a472b1c2f034353473e270cffa260a
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スポニチ:
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自民党の小野寺五典政調会長が18日、フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」(日曜前7・30)に出演。消費税減税の議論について言及した。
小野寺氏もこの日、富山市の講演で「物価高対策はやるが、財政規律も守らないといけない」と理解を求めていた。
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自民・小野寺政調会長 消費減税に言及「仮に減税した場合に代わりの財源を見つけていかないといけない」 2025/05/18 スポニチ
https://news.goo.ne.jp/article/sponichi/entertainment/sponichi-spngoo-20250518-0193.html
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NHK:
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自民党の小野寺政務調査会長は、富山市で講演し「物価高の根っこの理由は行き過ぎた円安だ。消費税をやめるとか、カネを配るという話が出ているが、国の借金を原資とした場合に『日本はまた借金をしたのか』と思われ、円の評価が下がって、また円安になる。この循環を続けたら最後は破綻国家になるので、財政規律を守らなければならない」と述べました。
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自民 森山幹事長 消費税の扱い“政治生命をかけて対応” 2025/05/17 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250517/k10014808611000.html
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どのマスコミも、5月17日の講演会の時間・場所・講演会場のタイトルを明らかにしていません。
スポニチは、「この日」と書いていますが、18日のフジテレビ「日曜報道」の話が出ているので、「この日」は、18日とも読めます。正確な記載ではありません。
この4本の記事の5月17日の講演会が、同じ講演会なのか、異なる講演会も含まれているのかは、判断できませんが、以下では、同一の講演会であると仮定します。
小野寺政調会長の発言の趣旨は、次の2点です。
1:「消費税をやめると、円安になって、物価高になります」
2:「熊本のTSMC、北海道千歳のラピダスに。国はえこひいきして、お金を兆円規模で入れていく。これらの企業は、世界のシェアを取り、技術を取り、私たちの次の世代、その次の世代の強い日本の稼ぎ頭、勝ち組になるだろう」
4-1)円安の課題
第1点の「消費税をやめると、円安になって、物価高になります」は、暴論です。
なぜなら、円安にして、インフレを起こすことが、過去30年の政府(自民党)の政策であったからです。政府は、円安にして、インフレを起こせば、経済成長すると言い続けてきました。円安を誘導して、インフレにしても、生産性が上がらないので経済成長はしません。円安になれば、見かけの数字は大きくなりますが、実体経済には変化は起きません。
円安にして、インフレを起こして。実質賃金を下げ続けたのは、政府の政策です。
2015年に、野口悠紀雄氏は、次のようにいっています。
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アベノミクスのメカニズムは、「金融緩和を行なう」という宣言によって、円安への投機を煽ることだ。円安によって輸出産業は潤うが、実体経済は改善していない。実際は、円安が経済成長率を抑えている。これは、アベノミクスの基本が間違っていることを示している。
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野口悠紀雄 緊急連載・アベノミクス最後の博打 2015 Diamond 野口悠紀雄
https://diamond.jp/category/s-noguchi_abe
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「実際は、円安が経済成長率を抑えている」とは、政府は、経済成長を止めているという説明です。政府は、賃金の上昇を止めています。
産業構造が変化して、生産性があがり、賃金が上昇することは、既得利権が侵害され、政治家が、利権のトライアングルで、選挙に当選できなくなるため、政府は、これを阻止してきました。
野口悠紀雄氏は、2022年にも、次のように言っています。
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問題の本質は、「アベノミクスの7年間で日本経済が悪化する」事態に至るまで30年続いた日本政府の円安政策そのものにあります。
中国は、1980年代に工業化に成功し、低賃金による安い輸出品の大量生産が始まりました。これによって、世界の先進国の製造業、特に日本は、多大な影響を受けます。これは、1990年代後半に、製鉄や造船など、日本の高度成長を支えてきた基幹産業が立ち行かなくなるというはっきりとした形で表れます。
そこで政府がとった対応が、円安政策でした。そもそも円安とは「日本国内の賃金をドルで見て安くする」ということです。これは低賃金での生産を意味します。つまり、日本政府は価格面で競争する道を選びました。
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野口悠紀雄「日本を『円安』で蝕んだ無能政権とマスコミ」2022/04 ZAITEN 野口悠紀雄
https://www.zaiten.co.jp/article/2022/03/post-383.html
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野口悠紀雄氏の推論は、帰納法です。帰納法は、相関をつかい、因果推論ではないので、交絡因子の影響によるバイアスの可能性があります。
とはいえ、野口悠紀雄氏の推論に、明らかな交絡因子の影響は観察されていませんので、推論はおおむね正しいと思われます。
野口悠紀雄氏は、2015年以前から、円安政策の間違いを指摘していますが、このアドバイスは、政策には、反映されませんでした。
筆者は、その理由は、次の2点にあると考えます。
第1に、小野寺政調会長の発言は、段落の論理でできています。
政調会長という偉い人の発言であるから、この発言は正しいという論理です。
野口悠紀雄氏は、パラグラフの論理をつかっています。
段落の論理は、法度体制の日本にしかありません。
段落の論理が通れば、科学は否定されます。
議論のスタートは、段落の論理を拒否するところから始める必要があります。
欧米では、段落の論理は全く無視されます。
第2に、帰納法では、被害が発生するまで、対策ができません。
病院で手術をうける場合には、医師は、手術の計画書を患者に提示します。
患者は、手術の計画書を理解して、納得できれば、計画書に合意の署名をします。
患者が、計画書が理解できない場合には、手術は始まりません。
帰納法では、手術が失敗して、そのデータが集まった時点で、検討が始まります。
帰納法では、運が悪ければ、患者は死亡してしまいます。
したがって、計画書(設計図)がある場合には、計画を検討すべきで、帰納法を用いるべきではありません。
野口悠紀雄氏は、2022年に、「問題の本質は、30年続いた日本政府の円安政策そのものにあります」といいます。
2022年の30年前は、1992年です。つまり、1992年頃には、計画書(設計図)が既にあったと推測できます。
日本経営者団体連盟(以下、日経連)は、1993年に「新・日本的経営等研究プロジェクト」を立ち上げ、委員会での議論の末に1995年に<新時代の「日本的経営」-挑戦すべき方向とその具体策>を刊行しています。
<新時代の「日本的経営」>は、その後の政府の政策に大きな影響を与えています。
筆者は、「30年続いた日本政府の円安政策」の設計図は、<新時代の「日本的経営」>であったと考えます。
<新時代の「日本的経営」>には、円安政策だけでなく、非正規雇用の拡大、年功型雇用の強化(ジョブ型雇用のブロック)が含まれています。