成長と分配の経済学(29)~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

2)レジームシフトの表現



ジームは、農業時代の先進国、農業時代の発展途上国、工業時代の先進国、工業時代の発展途上国、デジタル時代の先進国、デジタル時代の発展途上国に分けて整理しました。

 

2-1)工業化のレジームシフト

 

最初のレジームシフトは、農業社会(農業時代)から工業社会(工業時代)へのレジームシフトです。

 

単純なレジームシフト論は、トフラーなど、既に、多数あります。

 

ここでは、エコシステムのレジームを持ち込みます。

 

農業時代には、2つのレジームがあると考えます。

 

(A1)農業時代の先進国

 

(A2)農業時代の発展途上国

 

数が2つであるのは、単純化のためですが、数が増えても以下の論理展開には影響はありません。

 

工業時代にも、2つのレジームがあると考えます。

 

(B1)工業時代の先進国

 

(B2)工業時代の発展途上国

 

こう考えると、次のレジームシフトがありえます。

 

(A1)ー>(B1)

 

(A1)ー>(B2)

 

(A2)ー>(B1)

 

(A2)ー>(B2)

 

工業社会の時代には、南北問題がありました。

 

国連は、「(B2)ー>(B1)」を促進しました。開発経済学です。

 

しかし、南(開発途上国)は、いつまでたっても、北(先進国)には、なれないのです。

 

エコシステムには、ホメオスタシスがあります。(B1)、(B2)というレジームが、一旦安定化すると、レジリエンスが働いて、変化を帳消しにします。

 

つまり、「(B1)工業時代の先進国」になる方法には、農業社会から工業社会へ変革の時に、「(A1)ー>(B1)」または、「(A2)ー>(B1)」のレジームシフトをするのは、あまり、難しくありませんが、この時に、一旦、「(B2)工業時代の発展途上国」になってしまった後で、「(B1)工業時代の先進国」を目指すのは、とてもハードルが高いのです。これが、最近のエコシステムの研究から得られる特性です。この特性は、南北問題とよく対応しています。

 

1990年頃になって、ソ連が崩壊しました。「(B2)工業時代の発展途上国」よりは良いが、「(B1)工業時代の先進国」としては、見劣りする東欧諸国は、ソ連の崩壊を契機に、(B2)を目指しましたが、あまり成功していません。

 

2000年頃に、ブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)、南アフリカ(South Africa)が経済成長すると予測されましたが、実態は、ほぼ中国の一人勝ちです。中国は、(B1)に、レジームシフトしたように見えます。他の国は失敗しています。開発を阻害するレジリエンスは強いように見えます。

 

ここで、エコシステムのレジームシフトの概念を使えば、BRICSのレジームシフトは、「(A2)ー>(B1)」なのか、「(B2)ー>(B1)」なのかは、区別して考える必要があります。

 

中国のパターンは、「(A2)ー>(B1)」のように見えます。

 

2-2)デジタル時代のレジームシフト

 

ジームの定義は、前を踏襲すれば、次になります。

 

(C1)デジタル時代の先進国

 

(C2)デジタル時代の開発途上国

 

ジームシフトのパターンは、工業化と同じで、4つになりますが、省略します。

 

2-3)先進国とは何か

 

ジームシフトの議論をする前に、先進国とは何かを明確にしておく必要があります。

 

「(B1)工業時代の先進国」は、現存しますが、「(C1)デジタル時代の先進国」は、部分的にしか見えていないからです。

 

そこで、「工業時代の先進国」とは何かに、戻って考えます。

 

「工業時代の先進国」とは、工業で国際貿易で稼げる国です。

 

工業化時代の最初の頃には、農業で国際貿易で稼げる国のプレゼンスもあったと思いますが、労働生産性が大きく違いますので、「農業時代の先進国」(農業で稼げる国)は、工業時代には、先進国ではなくなりました。小麦と自動車の価格差を考えればわかる話です。

 

同様に考えれば、「デジタル時代の先進国」とは、IT産業で国際貿易で稼げる国です。「工業時代の先進国」(モノづくり先進国)では、労働生産性が低すぎて、先進国にはなれません。

 

2022年現在の状況を見れば、スマホ、コロナワクチンなどで、膨大なお金を海外のIT産業に払っていますので、途中経過ではありますが、日本は、「(C2)デジタル時代の開発途上国」にいることがわかります。

 

スマホをつかっても、使用量を海外送金しているのであれば、開発途上国です。

モノづくりに精をだすことは、開発途上国への道です。

 

2-4)中国の立ち位置

 

「デジタル時代の発展途上国」は、海外のIT産業にお金を払っている、「デジタル時代の発展途上国」は、海外から利益をえるIT産業を持っている、ことが、先進国の判定基準です。

 

「中国のパターンは、「(A2)ー>(B1)」のように見えます」と書きましたが、中国は、巨大なIT産業を有しています。つまり、中国では、つぎのレジームシフトパターンが考えられます。

 

(A2)ー>(B1)

(B1)->(C1)

(A2)ー>(C1)

 

ここで、「デジタル時代のレジームシフト」が一部起こっていると考えると、レジリエンスの制約を受けないことになります。

 

1991年に香港科技大学(HKUST)が設置されています。教授の大半は欧米の著名大学出身者で、米国流のケースメソッドを中心としたスタイルを採っています。香港情勢は流動的で、今後は不明ですが、今までは、世界的なレベルの技術者(MBAを含む)の養成に成功しています。大学のランキング自体には、過大な価値を見るべきではありませんが、養成している技術者の数と質の指標になります。特に、DXに対応できる人材は、レジームシフトの成功を左右する大きな要因です。

 

この点を考えると、中国は、今のところ、デジタル時代のレジームシフトにおいて、「(C1)デジタル時代の先進国」に近い位置に付けています。

 

中国も最近は、アンシャンレジーム的な動きがあったり、不動産バブルの影響があったりしていますが、人材の面で考えれば、10年位は前に進めると思います。

 

2-5)日本の課題

 

日本の場合、「デジタル時代のレジームシフト」では、次のいずれかのレジームシフトがおこります。そして、どちらになるかは、社会レジームによって決まってしまいます。

 

ジームシフトパターン   社会レジー

 

(A1)ー>(C1)     <=モダンレジー

 

(A1)ー>(C2)      <=アンシャンレジー

 

エコシステム・エコロジーの知見によれば、「デジタル時代のレジームシフト」が終了して、一旦、(C1)または、(C2) になってしまうと、レジリエンスが働いて、(C1)または、(C2) から変化することは非常に困難になります。一旦入ると抜けられなくなる発展途上国の罠があると考えてもよいと思います。

 

「デジタル時代のレジームシフト」の分岐点(point of no return)を越えれば、非可逆反応が起こり、元には戻れません。その時点で、(C1)か、(C2)かは、決まってしまいます。

 

「デジタル時代の発展途上国」になっていることに気が付いた時には、手遅れになっている訳です。