認知の壁~経験科学の終わり

(データサイエンスのメガネを持っていると経営判断が変わります)

 

1)情報のインプット

 

前章では、同じ本を読んでも、データサイエンスのメガネの有無によって、本の内容の読み方が変化することを指摘しました。

 

情報のインプットは、データサイエンスのメガネの有無によって変化します。その情報は、本に限らず、全ての情報に及びます。

 

つまり、ここには、認知バイアスが生じます。

 

2)情報のアウトプット

 

まず、 インプットした情報は、他の情報と併せて、アウトプットして活用します。

 

どのような形で、情報をアウトプットするかは人によって違いますが、企業の経営者の場合を考えています。

 

企業経営の基本は、資金、人材などのリソースの配分です。あるいは、プランAとプランBなど複数ある経営上の問題に、優先順位をつけることかもしれません。

 

どのような配分が望ましいか判断する場合にも、データサイエンスのメガネの有無によって答えが変わります。

 

過去の成功例を引用する前例主義をとるのか、データサイエンスの評価指標をつかうかで、選択されるプランは変わります。

 

この本の冒頭で述べましたように、DXのために、何をすべきかという企業戦略も、データサイエンスのメガネの有無によって変化します。

 

3)増幅効果とレジームシフト

 

前章では、翻訳者や出版社が、経験科学のメガネで、読者に受け入れられる書籍を選択して出版していると申し上げました。

 

次に、読者の立場に立ってみると、多くの読者は、経験科学のメガネで書籍を読みます。ベストセラーになる書籍は、経験科学のメガネで評価されます。

 

ベストセラーになる本には、優れた点があるだろうと考える人が増えれば、経験科学のメガネが増幅されていきます。

 

この現象は、生態学で言えばレジームシフトの問題に相当します。

 

今まで、経験科学というレジームの中で、人々は生活してきました。レジームは、外乱に対して、復元力があります。これは、レジリエンスと呼ばれます。

 

図1は、レジームシフトの概念図です。

 

経験科学のレジームから、データサイエンスのレジームにシフトするためには、越えなければならないエネルギーの山があり、それを乗り越えなければ、レジームシフトは起こりません。一旦、レジームシフトが起こると、元のレジームに戻ることは非常に困難になります。

 

先進国の中で、日本だけが、ITスキルが異常に低くなっています。

これが、スキルの問題だけであれば、追いつくことはさほど難しくありませんが、レジームシフトの問題であれば、追いつくことは非常に困難です。

 

図1では、「経験科学のレジーム=工業社会のレジーム」、「データサイエンスのレジーム=デジタル社会のレジーム」と読み替えれば、問題の深刻さが理解できます。

 

デジタル社会へのレジームシフトは、社会システムの再構築なので、補助金を投入する、ITエンジニアの数を増やすという工業社会のレジームでは解決できません。

 

 

 

図1 レジームシフトの概念