(26)2つのドライビングフォース
(Q:日本が変わるとしたら、何がドライビングフォースになると考えられますか)
1)既得利権の構造
政府(自民党)は、票を政治団体に頼っています。政治団体の業界に補助金を還元することで、次の選挙で票を獲得するシステムです。官僚は本来は、政治団体とは独立なはずですが、天下りを通じて、リンクし、鉄の三角形(トライアング)のエコシステムを構成します。
鉄の三角形とは、政策形成過程における政官財(政官業。政界、官界、財界の3業界)の癒着構造を示す単語で、鉄の三角形、鉄の三角同盟とも呼ばれます。
2)レジームシフト
エコシステムが一旦できると、生態系にはレジリエンスが出来上がり、変化に対して復元する力が働きます。
現在の日本の鉄の三角形は、工業社会のエコシステムを形成しています。
それに対して、アメリカや中国では、デジタル社会のエコシステムが形成されています。
生態学のモデルが正しければ、工業社会のエコシステムに変化を加えて、デジタル社会のエコシステムに変貌させることはできません。
変化は、工業社会に適応した企業が淘汰されて、デジタル社会の適応した企業に入れ替わります。この2つのカテゴリーの企業の間の生産性の差は、農業と工業の生産性の差に匹敵ひます。
1950年頃から、工業生産が拡大して、農業から工業への産業転換(労働移動)に成功した国は、工業社会の先進国になりました。
2000年から始まった工業社会から、デジタル社会への産業転換(労働移動)に成功した国は、デジタル社会の先進国になります。
2023年には、デジタル社会への産業転換のトップを走っているのは、アメリカと中国です。工業社会の先進国の中では、台湾、韓国、イギリス、イスラエルが追い上げています。工業社会の発展途上国の中では、インド、ベトナムなどにもチャンスがあります。
3)レジームシフトが引き起こすもの
日本の鉄の三角形について、竹中 平蔵氏は、次のように言っています。(筆者要約)
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業界団体が鉄の三角形でものすごい政治力を持っていて、それに動かされる政治家と官僚がいます。
日本で鉄の三角形が特に強固な理由は、情報を基盤にした力を持ってい官僚にあるります。
第1の問題点は、官僚が終身雇用・年功序列でやっているということです、
第2の問題点は、官僚主導だと大きな制度改革が絶対にできません、
鉄の三角形の構造は残念ながらずっと変わっていないけれど、それは甘受しながら、変えられるところを少しずつ変えていくしかありません。
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竹中氏は、「変えられるところを少しずつ変えていく」といいますが、これは、レジームシフトモデルを前提としない発想です。
鉄の三角形は、新しいエコシステムと衝突します。「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」のように、鎖国を維持できれば別ですが、日本は資源のない国ので、貿易をせざるを得ません。
日本は、中国のように、外国の生成AIを禁止にはできないと思われます。
日本で、生成AIが使えれば、鉄の三角形が防護壁にならない業界団体も出てきます。
つまり、レジームシフトは必ず起こります。それは、鉄の三角形が崩れるときになります。
もちろん、デジタル企業を中心とした新しい三角形ができるとは思いますが、入れ替えが起こります。
日本でレジームシフトが起こるときに、日本は、デジタル社会の先進国になれるか、デジタル社会の発展途上国になれるか、のどちらかに分岐します。
恐らく、クラウドサービス、生成AI、IC生産は、デジタル社会のエコシステムを形成する要素です。
こうした要素には相互依存性があります。要素間の相互依存性があるのは、エコシステムの特徴です。
生成AIのデータはクラウド上でしか保存できません。スペースXのように、ロケットもクラウドサービスの要素になっています。
航空機の設計には、昔は、風洞実験が必須でした。現在は、計算科学が、風洞実験の代わりをしています。
ロケットの開発においても、こうした設計ソフトウェアの性能が、成否を決めます。
部品のエラー率も、ソフトウェアと組合せたシミュレーションが効いているはずです。
日本のロケット開発では、今まで、人手で点検した部分をソフトウェアに置き換えることで、コストダウンを図るという説明がなされています。
しかし、オーダーメードの特注部品のエラー率は非常に高く、数%に達します。
これを下げるには、シミュレーションで、数万回の打ち上げを行って、そこに部品を組む込むことで、特注部品に、エラーを発生させて、取り除くことが可能です。
つまり、ロケットの性能向上は、ソフトウェアの性能向上なしにはあり得ないはずです。
デジタル社会のエコシステムは、汎用性のあるソフトウェア技術によっています。
そして、このコアな部分を開発できる企業が育たないことが、致命的な欠陥になります。
4)A:日本の変化のドライビングフォース
筆者は、日本にエコシステムの変化を起こすドライビングフォースには次の2種類があると考えています。
これは、予測があたるという意味ではなく、変わらない日本の大きな原因である鉄の三角形が崩れるとした場合に、どのようなシナリオが考えられるかという思考のトレーニングです。
4-1)IMFシナリオ
韓国と同じように、日本政府が、破綻してIMFの管理下に置かれれば、変化するというシナリオです。
4-2)労働市場シナリオ
アメリカでは、2023年に入っても、失業率は低いままです。これは、労働者が、仕事を選んでいるためと言われています。
日本では、今まで、労働市場が機能していませんでした。
例えば、農作業をする人、中小企業で働く人がいないことが問題であると言われていました。
同様の問題は、トラックの運転手、ホテルの従業員などでも言われてきました。
しかし、一方では、賃金の安い非正規雇用のポストが増え続けました。
これは、市場経済ではあり得ません。
日手不足になれば、賃金の単価が上昇します。
高い賃金のオファーができない仕事はなくなります。
農業労働者は、継続的に減少してきました。
これは、労働生産性の低い農業から、労働生産性の高い工業に労働移動があったからです。
農村は過疎になりました。
しかし、労働生産性の低い農業から、労働生産性の高い工業に労働移動がなければ、日本は、先進国にはなれず、より大きな問題を抱えることになったと思われます。
したがって、過疎問題は存在しません。
今世紀の入って、製造業から、飲食業、介護など、より労働生産性の低い部門への労働移動が起こりました。
労働生産性だけに着目すれば、これは、工業から農業に逆戻りするような労働移動です。
つまり、労働移動によって、所得が減少しています。
こうした市場経済では、考えられないような労働移動が発生した原因は、半ば、身分制度のような正規雇用と非正規雇用の区分です。この区分を可能にするシステムが、年功型雇用であり、ジョブ評価をしない給与体系です。
給与は、成果にではなく、ポストについています。
結局、業績をあげても、給与は増えません。
東芝は、赤字部門の損失を黒字部門で埋めてきました。
ジョブ型雇用であれば、黒字部門の稼ぎ頭が、数倍の給与をもらって当然だたっと思われます。
スペースジェットでは、1兆円近くが、損失になりました。ここでも、数倍の給与をもらって当然だたっと思われる人がいるはずです。
年功型雇用で、誰も首にんしないと、稼ぎ頭の人は、赤字部門に貢ぐことになります。
それなると、馬鹿馬鹿しくて、誰も、リスキリングしません。
それを見た若い高度人材は、外資系か、海外企業に流出しています。
イオンでは、パート従業員は、これまで主に正社員しかなることができなかったリーダーやマネジャーといった売り場の責任者、さらには課長にも昇格や昇給ができるようになります。基本給やボーナス、退職金も、同じ業務を行う正社員と同水準で受け取れるといいます。
これは、スタートだと思います。
農業と同じように、労働生産性の低い(賃金の安い)仕事は、労働者の確保ができなくなり、廃業が出て来ると思われます。
リスキリングの意味することは、スキルの有効期限は、10年程度であるといことです。
大学の入学学試験の難易度も、基礎的な学力のチェックになりますが。年功型雇用のように、40年あとにまで影響するものではありません。
宿泊業界では人手不足が深刻で、増える訪日外国人に対応できず予約を打ち切りにしている場合も出てきています。
農業社会から工業社会へのレジームシフトは、労働生産性の高い(賃金の高い)部門への労働移動によって達成されました。
工業社会からデジタル社会へのレジームシフトも、労働生産性の高い(賃金の高い)部門への労働移動によって達成されると思われます。
それは、賃金の安い(労働制生産性の低い)部門は。労働者を集まられず廃業する形でおこると考えられます。
これは、正常な労働市場が形成される過程でもあります。
引用文献
ひろゆきと竹中平蔵が問う日本の官僚組織の問題 抜本的に改革できない根本的理由はどこにあるか 2022/07/23 東洋経済 ひろゆき : 元2ちゃんねる管理人 / 竹中 平蔵 : 慶應義塾大学名誉教授
https://toyokeizai.net/articles/-/604886?page=3
イオンが「正社員」「パート」同じ給与水準に……40代女性「みんなが望んでいる」 専門家「他の企業に広がる可能性も」2023/03/16 テレ朝ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/779e0935a0aee5b75b23d7a166c5a9c4c6c32da0