参議院選挙と経済対策~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(経済対策には、労働生産性の改善と価格競争力の確保の目的が欠けています)

1)政府の対策

2022/06/25の東京経済に、村井英樹首相補佐官が、「日本経済の最大の課題は、将来不安だ。日本においては、企業収益が増加しているにもかかわらず、その果実が成長分野への投資や賃金引き上げに十分に回らず、また、家計においても消費が低迷してきた。その根本には将来不安がある」といっています。

 

村井英樹氏は、「衆議院議員、国内経済その他特命事項担当の内閣総理大臣補佐官。1980年5月生まれ。埼玉県出身。東京大学卒業後、2003年財務省入省。2010年アメリカ・ハーバード大学大学院修了。2011年9月財務省退官、2012年12月の衆院選自民党公認で出馬し初当選。当選4回。内閣府大臣政務官などを歴任。」しています。

申し分のない経歴の持ち主で、岸田ブレーンと言われるのもわかります。

しかし、筆者は、あくまでデータサイエンスにこだわります。村井英樹氏の、最大の課題は「将来不安の軽減」という発言は、データサイエンスでは、失格です。以下、説明します。

 

1-1)因果モデルの課題

 

将来不安を減らすためには、年金の見えるかが必要であるとして、村井英樹氏は、2022年4月に「公的年金シミュレーター」を公開したそうです。

日本経済低迷の原因が「将来不安」という仮説が、データサイエンスでは、失格な理由は、この仮説は検証できないからです。

年金の不安は、見えるかの不足か、そもそも絶対金額の不足かもしれません。年金支給後の高齢者の雇用の難しさかもしれません。

実際、年金の所得代替率は、モデル世帯で、今後、25年で62%から51%へと減少するという予測を厚生労働省が出しています。

所得代替率5割をキープすると、「100年後も公的年金制度を持続できる」とされていますが、制度が持続できるだけであり、生活費を補償するための財源手当は放棄して、支給額を減額するルールです。予測計算は、経済成長0.9%を前提としていますが、過去に、日本経済は成長していません。今回は、原材料高で、円安なので、経済成長なきインフレになる可能性もあります。

この状態で、「公的年金シミュレーター」をつくっても、安心にはなりません。

岸田文雄首相は、5月5日、外遊先のロンドンで「資産所得倍増プラン」を提示していますから、これは、近い将来、年金額が不足するということになります。

問題は、モデル世帯や平均値ではありません。非正規のように現役時代の給与が低い世帯では、老後51%では、生活できません。貯蓄も難しいので、「資産所得倍増プラン」はできません。

お金がなくとも、働けば、収入が得られるのが、健全な社会です。ところが、年金生活者の働ける場は限られています。

6月26日のNHK番組で、自民党茂木敏充幹事長は、物価高対策として野党が主張する消費税減税・廃止を実施した場合、「年金財源を3割カットしなければならない。消費税は年金、介護、医療、子育て支援など社会保障の財源だ。」と述べています。しかし、前回の消費税の増税の一部は、法人税減税に流用され、内部留保が増えすぎて、今頃になって、法人税の税率を元に戻すか検討しているので、「消費税は年金、介護、医療、子育て支援など社会保障の財源だ。」という発言は、話半分に聞こえてしまいます。

ただし、与党も野党も、OECDが言っているように、年金が減額しないように、今後、消費税の増税するという政策を出している政党はありません。ともかく、高福祉・高負担政策をあげる政党が1つもないのは異常です。

村井英樹氏の説明は、もっともな部分と、怪しい部分が、ごちゃまぜになっています。

最大の課題は「将来不安」といいますが、「公的年金シミュレーター」うつくれば、将来不安がへると考えるのであれば、「公的年金シミュレーター」(年金の見える化)が原因で、「将来不安」(結果)が変化すると考えていることになります。つまり、「将来不安」以上に、根源的な原因があると考えていることになります。

 

このような場合、統計学では、「将来不安」のような中間変数を、交絡要因とよび、真の原因ではないと考えます。

因果ダイアグラムを書けば、「年金の見える化」が、「将来不安」の原因になります。とはいえ、「年金の見える化」が、本質的な課題であるとは思えません。

 

1-2)仮説検証の課題

「将来不安」のように検証不可能な命題は、科学では仮説ではありません。

これが、第2の問題点です。

仮説が検証不可能であれば、仮説の白黒は、永久にわかることはありません。

つまり、経済対策は、始まる前から、泥沼に入るか、経済対策ではなく、利権配分を目的としていることが予測できます。

村井英樹氏は、次のようにも言っています。

 

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二極化が進んできているように思う。柔軟な組織構造を取り入れて、社員のやる気と挑戦を引き出しどんどん伸びる企業と、硬直的な組織文化を維持して、閉塞感にあえぐ組織だ。日本経済社会にとっては、前者のような企業を応援するとともに、後者のような組織に変革を促すことが重要だと思う。

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これは、ヒストリアンの第1のパラダイムの手法です。成功事例を探して、コピーするアプローチです。

このアプローチでは、「硬直的な組織文化を維持して、閉塞感にあえぐ組織」には、「変革を促すこと」ができると考えています。

 

しかし、「硬直的な組織文化を維持」されるのは、それなりの合理性があるからで、どうして、「硬直的な組織文化が維持」されているかを考えると、「成功事例を探して、コピーするアプローチ」では、ほぼ、成功しないと予想できます。

 

2)労働市場の現状

 

次に何が起こるかを論ずる前に、現状をみます。

 

2022/06/28の日経新聞の1面は、来春の新卒では、デジタル人材の3割が別枠で採用されると書いています。

別枠の新採は、例えば、Yahooであれば、650万円と一般枠450万円より高めに設定するようです。

この別枠は、デジタル人材の3割であって、全体では、1割以下です。つまり9割は、依然として、新卒一括採用です。

 

つまり、今のところ、大勢は、変わっていません。つまり、多くの企業は、年功型雇用は、まだ、維持可能と考えています。

 

多くの企業では、雇用を2本立てにする理由は、デジタル人材を確保するためと考えているようにみえます。

 

しかし、ポイントは、デジタル人材の確保ではありません。デジタル人材の確保は、手段であって、目的は、労働生産性の改善と価格競争力の確保です。

 

日本企業がDXを進めても、米国企業が、現在より更に、DXを進めれば、日本企業は、価格競争力の確保ができません。いままで、日本企業は、価格競争力の確保を、円安と非正規採用の拡大で、お茶を濁してきました。その結果、価格競争力の確保が出来なくなりました。

 

米国企業は、年収2000万円で、新人を採用してDXを進めます。日本企業が、年収650万円で、新人を採用して、DXを進めた場合、日本企業のDXは進みますが、米国企業のDXとの差は縮まるのでしょうか。

問題点は、マラソンで言えば、前に進むことではなく、先行ランナーとの差が縮まるか、否かだと思いますが、円安と非正規採用の拡大の幻想から抜けていない企業が、多いと感じられます。



引用文献

 

岸田ブレーンが語る日本経済低迷の「真犯人」  村井英樹首相補佐官が語る「岸田政策」の裏側 2022/06/25 東京経済 野村 明弘 

https://toyokeizai.net/articles/-/599204

 

夫婦で年金22万円だが…大幅減額で元会社員が悶絶する「25年後の年金額」2022/06/26 幻冬社オンライン

https://news.yahoo.co.jp/articles/e44c60fe8c07d02f8644eaf915c0462523f1e10a

 

自民・茂木氏 消費減税なら「年金財源3割カット」とけん制  2022/06/27 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20220627/k00/00m/010/260000c