3)目的と手段
鉄のトライアングルの最大の課題は、目的と手段のすり替えです。
たとえば、環境省は、日本の生態系や環境の改善を目的とした組織のはずです。
文部科学省は、生徒の学力の向上を目的とした組織のはずです。
エンジニアいリングでは、技術は目的(評価関数)を設定して、目的を達成するよりよい手法(技術)を探索します。
生成AIのスタートになった機械学習は、画像認識の精度向上という目的を達成するために生み出されました。写真を解析して、猫が写っていればそれは、猫であると識別できれば、成功です。複数の画像を準備して、成功と失敗の判定を行い、成功の比率を高める方法を探索しました。
EBPMは、目標の達成度を評価します。
評価項目を計測して。効果を判定します。
その結果、効果の薄い政策経費は削減され、効率化が進みます。
日本の生態系や環境の改善効果は計測されていません。
生徒の学力の向上効果も計測されていません。
EBPMは、無視されています。
4)異次元の少子化対策
「異次元の少子化対策」について、みんなの意見で、5月31日まで、次の質問が設定されています。
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岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」を巡り、政府は経済財政運営の基本指針「骨太の方針」の6月の取りまとめまでに、将来的な「子ども予算倍増」の大枠を示す方針です。あなたは「異次元の少子化対策」に期待しますか?
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5月27日の時点では、期待しないが91%です。締め切りまで事件が少しありますが、恐らく、期待しないが90%前後になると思われます。
そもそも、「異次元の少子化対策」は、「子ども予算倍増」という手段の話であって、目的が設定されていませんし、目的を計測する計画もありません。
つまり、目的と手段のすり替え疑惑があります。
5)鉄のトライアングル疑惑
「鉄のトライアングル」は、仮説です。
この仮説が正しければ、次の活動が予想されます。
(D1)官僚は、天下りポストの確保のために、補助金の増額を目指します。
(D2)政治家は、政党への寄付の増額のために、補助金の増額を目指します。
(D3)企業は、納税者から企業への所得移転のために、補助金の増額を目指します。
この場合には、「出生率の向上」、「労働生産性の向上と賃金アップ」、「日本の生態系や環境の改善」、「生徒の学力の向上」などは起こりません。
なぜなら、問題解決を目的とした政策ではないからです。
政策評価(問題解決の進展評価)が政策に入っていると、政策の効果がでていないことが自明になります。
それでは、まずいので、「子ども予算倍増」のように、手段を目的化します。
つまり、「異次元の少子化対策」は、予算獲得のためのキーワードにすぎず、最初から、問題解決は目指していないわけです。
もちろん、この解釈は、「鉄のトライアングル」仮説が正しい場合であって、違っているかも知れません。
しかし、利害関係者をの除いた評価、つまり、EBPMがなされていなければ、疑われても致し方ありません。
少子化対策については、出生率より、婚姻率の問題であるという識者もいます。
今回の「異次元の少子化対策」では、婚姻率の問題は、無視されています。
国土交通省のOBが、民間人事(天下り)に介入たた問題が判明しています。
これらは、「鉄のトライアングル」仮説を支持するエビデンスです。
中央官庁の官僚で、自己都合で退職した20代の総合職は、2013年度は21人でしたが、2019年度には86人になっています。
アメリカで転職する理由を調べたアンケートでは、給与と並んで、やりがいや、職場の交友関係が大きな位置を占めています。
問題解決をさけて、予算とポストの獲得に走る官僚がトップにいれば、若手には魅力のある職場に映るとは思えません。能力の高い人ほど転職してしまうと思います。
6)仮説は検証されるべき
デービッド・アトキンソン氏は、東洋経済に、経済復興の対策を提案しています。
もちろん、経済復興の対策の提案は、デービッド・アトキンソン氏以外に、多くの人が提案しています。
しかし、状況は、議論が議論を呼んでいるようにみえます。
科学の方法では、どの仮説が正しいかは判りませんので、複数の仮説を、並行して、複数の特区で、テストして、EBPMで評価して、効果のあった政策のみを全国ベースに拡大すればよいことになります。
海外で効果のあった政策を日本に持ちこんでも、効果があるかは不明ですので、EBPMで評価することが、科学的な手順です。
科学を完全に無視しているので、「鉄のトライアングル」が成立している確度はたなくなります。
「鉄のトライアングル」のもとでは、科学技術は無視され、労働生産性の向上よりも、ピンハネが優先するので、日本は、発展途上国に、墜落していきます。
7)「大きな政府」と「小さな政府」
加谷 珪一氏は、米国を初めとする諸外国では、政府の財政が、「小さな政府」が、保守であり、「大きな政府」を目指す自民党は、国際基準では、保守には分類されない。日本には、保守政党がないといっています。
デービッド・アトキンソン氏は、「GDPに対する日本の政府支出の割合は、他国と比較しても決して低いわけではないが、社会保障費以外の予算が異常に少なくなっています。日本の生産的政府支出(Productive Government Spending:PGS)は対GDP比で見ると10%にも満たず、先進国平均の24.4%を大きく下回っている」といいます。
デービッド・アトキンソン氏の説明は、「大きな政府」と「小さな政府」で考えると不合理に思えます。
「小さな政府」の場合、社会保障費は、個人の自己責任になりますので、高い給与が前提になります。保守の「小さな政府」政策であれば、非正規雇用で、企業利潤を増やすことはありえません。なざなら、それは、将来の「大きな政府」を招くからです。保守は、労働市場の競争を前提として、高い給与を考えます。ドロップアウトについては、生活保護で対応することを考え、無駄の多い公的年金はない方がよいと考えます。
「大きな政府」の場合、消費税や、法人税で税収を確保して、年金を払います。
図1は、筆者の理解です。
横軸は負担で、LP(Low Pay)とHP(High Pay)に分かれます。
縦軸は、社会保障便益で、LB(Low Benefit)とHB(High Benefit)に分かれます。
「大きな政府」は、HPHBです。
「小さな政府」は、LPLBです。
赤字のLPHBは、実現不可能な組合せです。
筆者は、日本は、HPLBだろうと考えます。
日本の社会保障費は多いですが、これは、企業への所得移転が含まれます。
非正規雇用の拡大は、企業の将来の年金を政府が補填する所得移転になります。
非正規雇用の労働生産性は低いので、正規社員の社会保険料を含めた実質負担率は、50%近くなり、高負担になります。
結局、「鉄のトライアングル」の維持を優先して、「大きな政府」か「小さな政府」かという検討を回避して来た結果が、HPLBだと考えます。
引用文献
アメリカの「デフォルト危機」はなぜ起きるのか? その思想の先に見えた「日本へのリスク」2023/05/24 現代ビジネス 加谷 珪一
https://gendai.media/articles/-/110665
「プライマリーバランス黒字化」凍結すべき深い訳 2021/10/20 東洋経済 デービッド・アトキンソン
https://toyokeizai.net/articles/-/462504?page=2
東京メトロの本田会長退任へ 民間人事介入問題で 2023/05/23 時事通信
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023052300267&g=eco
政府の少子化対策、あなたは期待する? みんなの意見
https://news.yahoo.co.jp/polls/44311
「そして誰もいなくなる」日本の官僚 2023/05.20 Newsweek 河東哲夫
https://www.newsweekjapan.jp/kawato/2023/05/post-126.php