大きな政府と小さな政府

1)標準的な枠組み

 

議論のスタートは、大きな政府か、小さな政府かです。

 

世界の標準的な理解は、以下です。

 

大きな政府とは、高負担・高福祉政策で、革新政党が支持ます。

 

小さな政府とは、低負担・低福祉政策で、保守政党が支持ます。

 

高負担・低負担の違いは、主に、税率、特に、消費税率に出てきます。

 

日本は、このいずれにも当てはまりません。

 

2)日本の負担

 

日本の負担は、消費税については、低い税率ですが、社会保険を含めた負担率は、サラリーマンの場合には、50%弱になっています。社会保険の負担は、労働者分と企業分がありますでの、企業も高負担になります。

 

経団連は2023年4月26日に発表した提言で、子ども・子育て政策を含む社会保障制度の財源について「高齢者も含め応能負担を求めることで、現役世代の保険料負担を抑制していく必要がある」と指摘し、「消費税を含めたさまざまな税財源の組み合わせによる新たな負担も選択肢とすべきだ」と訴えました。

 

 2023年4月27日に、記者団の取材に応じた十倉氏は「社会保険料は基本的に働いている人たちが負担する。(少子化対策の財源は)社会で広く負担すべきものではないか」と述べています。

 

これは、正論ではあると思いますが、しかし、今まで、大企業の労使は、消費税に賛成してきませんでしたので、今更という印象が、ぬぐえません。

 

税務署の収入の把握率は、俗に964(クロヨン)と言われ、サラリーマンが9割、自営業が6割、農業が4割と言われてきました。

 

その実態を考えれば、消費税とIDに基づく自動納税は、企業の労使にとっては、プラスな選択肢であるにもかかわらず、労使は推進してきませんでした。

IDに基づく自動納税とは、DXによる964(クロヨン)の修正です。



消費税を上げずに、法律改正の必要のない社会保険料ばかりを上げた結果、サラリーマンは、北欧などの高負担・高福祉政策をとっている国と同じレベルの高負担になっています。

 

2023年時点では、自営業と農業はの負担律は、そこまで、高くありません。しかし、サラリーマンの負担率がほぼ上限に達しているので、今後は、社会保険への加入の義務づけを拡大するなどして、自営業と農業の負担率を上げることがほぼ確定路線になっています。

 

一方、サラリーマンの場合には、今後消費税が上がれば、負担率は、50%を越えてしまいます。つまり、ここまで、社会保険料の増額を放置してきたツケがこれから来ます。

 

今回の子ども・子育て政策を含む社会保障制度の財源についても、労使が、社会保険料の増額(医療保険の増額)をのむのか、断固反対するのかが、論点になると思いますが、社会保険料の増額の余地は大きくありません。

 

まとめると、日本社会は、ほぼ高負担になっています。

 

3)日本の福祉

 

日本は、高福祉社会であるという認識の人は少ないと思われます。

 

少なくとも、年金については、決して高い水準ではありません。

 

政府は、現役時代の50%の年金を確保するといっていますが、これは、現役時代の税引き後の収入です。この年金収入に対して、更に、課税されますので、実質の可処分所得は、現役時代の50%を切っています。

 

さらに、この将来見通しの試算は、過去に実現したことのない高い経済成長を前提としています。

 

また、インフレに伴って、年金支給額を減額する仕組みが導入されています。

 

もしも、年金の支給額を確保するのであれば、現役世代が減少して税収が不足する部分は、消費税の増額で補うことが原則になります。しかし、消費税は、いじらずに、支給額を減額する路線が規定事実になっています。

 

これでは、高福祉とは言えません。

 

4)日本の政府のパターン

 

欧米の政府の政策は、大きな政府か、小さな政府かです。

 

言い換えると、高負担・高福祉政策か、低負担・低福祉政策かを、選挙で選びます。

 

ところが日本は、欧米ではありえない高負担・低福祉政策になっています。

 

これは、集めた税金が福祉につかわれずに、どこかに消えていることを示しいます。

 

それでは、税金はどこに消えているのでしょうか。

 

考えられる要因は次になります。

 

(S1)世代間移転で、既に使い込んでいる。

 

人口ボーナス期には、福祉の支出が先送りされます。

 

これに、年功型賃金が重なると、世代間移転のアンバランスが更に拡大します。

 

1990年までに、日本製品は、圧倒的な価格競争力をもっていました。

 

これは、人口ボーナスと、年功型賃金で説明できます。

 

「従属人口比率が低下(生産年齢人口比率が増加)し、かつ生産年齢人口が従属人口の2倍以上いる期間」を人口ボーナス期と見なせば、日本は、1992年に、人口ボーナス期を終了しています。

 

日本では、1989年に消費税が導入されています。

 

1989年には,1992年に人口ボーナス期が終了することは予測できましたので、年功型賃金を廃止して、ジョブ型のフラットな賃金体系に移行するとともに、消費税を年金に連動して、変化させるシステムに移行すべきでした。

 

この時期には、バブル経済で、まともな社会保障制度の立案をさぼったつけが来ています。

 

(S2)予算の使用が非効率で、生産性を向上させない。

 

人口ボーナス期には、需要が増えるので、少々非効率でも、作れば売れます。効率よりも、量の確保が優先されます。

 

人口ボーナス期が終了すれば、需要が減るので、レイオフして労働投入を減らして効率をあげないと、製品の輸出競争力はなくなります。

 

バブルの崩壊以降に行われて政策は、預金金利をさげて、家計から、金融機関への所得移転をすすめ、公共事業を増やしました。また、非正規雇用の拡大で、労働市場によらない2階建ての賃金体系を採用しました。

 

この政策は、生産性を低下させ、経済を停滞させます。

 

生産性の向上に寄与しない予算を乱発すれば、給与が下がり続け、高負担・低福祉になりますが、2023年時点でも、その伝統はなくなりません。DXの遅れは、それを誘発する政策によって実現されたものです。

 

(S3)医療費の拡大

 

社会福祉の予算は、医療費と年金からなります。

 

日本では、一人当たりの年金は減額しますが、医療費は増え続けています。

 

野口 悠紀雄氏は、今のトレンドでいけば、2040年に医療・介護就労者が製造業の2倍になると予測しています。

 

しかし、国内の医療・介護就労者は、貿易収支には、マイナスになります。これは本来は、中立なはずですが、医薬品の特許料などが輸入超過なので、マイナスになります。

 

つまり、経済的には、マイナスのセクターが拡大するので、給与(可処分所得)は下がり続けます。

 

日本の医療水準は高く、それは、健康保険でカバーされています。

 

しかし、日本の医療水準は高さは、年金の減額とトレードオフになっています。

 

つまり、諸外国では、年金を削ってまで、高度医療を安価で提供はしていません。

 

フリーランチはありませんので、公的支出に対する医療費の増額は、他の財源の犠牲の上に成り立っています。

 

社会福祉の予算は、労働生産性の向上効果では、優先順位付けができません。

 

しかし、日常生活に係る年金と、病気の時に効果がある医療費の間の優先順位は考えるべき課題です。

 

引用文献

 

低生産性産業人口の急増大で日本の賃金は長期停滞必至、2040年に医療・介護就労者が製造業の2倍に! 2023/04/02 現代ビジネス 野口 悠紀雄 

https://gendai.media/articles/-/108331



5)展開方向

 

今後の展開方法に、唯一の正解がある訳ではありません。

 

しかし、効率性や労働生産性の改善効果を無視して、高負担・低福祉政策を進めるのは、正気とは思えません。

 

論点が、大きな政府か、小さな政府かになるまで、軌道修正すべきと考えます。