ワンフレーズ・エコノミクスの課題

衆議院選挙の課題が、再配分やキャッシュバックになっているため、どうして日本の賃金が上がらないのかという話題が出ています。

これは、経済学で言えば、労働生産性労働配分率の問題で、この2つ以外が、直接、介在することはありませんが、実に様々な要因があげられています。

例えば、商品の価格を上げられない、上げたくない企業が多いので、利益が増えず賃金が圧縮するといった説明です。

もちろん、数理経済学の前提は、市場が機能して、労働生産性があがることを前提としていますから、上の2つ以外に、正常な市場の形成を阻害する要因は、バイアスを生みます。

そうした目でみると、小泉劇場の頃から、ワンフレーズ・ポリティックスと言われましたが、ワンフレーズ・エコノミクスになっている気もします。

新聞を見ていると、価格改定で値上がりしたことが、ニュースになります。

こうした記事が出れば、企業の担当者としては、価格改定が穏やかにできません。

一方で、自動車の価格は、ここ10年で、上がっています。これは、自動車の価格は、国際価格で、決まっているため円安になれば、上がります。現在の実効レートは、1ドル240円時代相当と言われていますので、10年前の2倍近い価格になります。ただし、自動車はモデルチェンジする度に、価格を付け直します。そのため、価格上昇が見えにくくなっています。

基軸通貨はドルなので、円安になると原材料費は上がりますし、国際価格に合わせると価格の付け直しが必要になります。こうした要素で補正すれば、価格改定をしないと実効価格が下がっていますから、価格改定は、値上げというより、国際価格に合わせたということです。

日経平均も上がっていますが、円安では、上がって当然なので、その分は補正して考える必要があります。

こうした点を無視して、特定の商品の価格を論ずることには、意味はありません。

これは、記事の内容が、事前に、「価格上昇、インフレリスクの増大」と言ったように、事前に決められていて、特定の商品の値上げは、それに、合うということで、入れ込まれたことを示しています。

ですから、こうした経済記事は、ワンフレーズ・エコノミクスと言えます。

新聞の経済記事を見て、その記事が、ワンフレーズ・エコノミクスかどうかを判断すれば、読むに値する記事か、否かが判断できます。

こうした視点で、見れば、読むに値する記事は、ほんの一部しかありません。

ワンフレーズ・エコノミクスの記事は、内容が不正確なだけでなく、読んでも新しい知識が習得できませんので、時間の無駄です。

ただし、この読んで新しい知識が習得できるという点は、(*)マークをつけておきます。

(*)は、流行することがない、好まれることが少ないという意味です。

人間の脳は、負荷をかけると、活性化します。カーネマンのファストシステムではなく、スローシステムを使うことで活性化します。

しかし、一般には、ファストシステムを使うことが多いので、スローシステムを使うことは、不快です。難しい難問を解くことは、脳がなれると、快感になりますが、そのパターンに該当する人は少ないです。

つまり、読まれる、読んで快適な経済記事は、ファストシステムを使うものです。

ですから、読まれる記事を書くことと、有益な記事を書くことが、両立することは稀です。

サイエンスや、データサイエンスのトレーニングをうけると、エビデンスに基づかない命題には、違和感を覚えます。しかし、これは、教育効果であって、誰もが持っている特性ではありません。

多くの新聞の経済記事は、エビデンスに基づいて判断しようとすれば、耐えがたいですが、ファストシステムに訴えて、わかりやすく、快感を呼び起こす点では、レベルを満たしています。

衆議院議員選挙の公約も同じです。

まとめます。

賃金が上がるためには、労働生産性労働配分率の問題が解決されなければなりません。

経済成長=労働生産性、分配=労働配分率

の関係があります。

ワンフレーズ・エコノミクスは、衆議院議員選挙の公約でも、幅を効かせています。

公約は、分配のワンフレーズで、労働生産性はありません。

国際比較でみれば、問題は、労働生産性です。労働配分率にも、改善すべき点はありますが、現在、優先して手を付けるべきは、労働生産性です。

コロナ禍で、経営がうまくいかない企業がでています。現在は、現状維持のための助成金が使われています。

しかし、経営がうまくいっている時には、組織に手を入れることはありません。組織の手を入れて、労働生産性を上げるには、現在はチャンスです。

京セラは、過去に不景気でものが売れない時に、組織改革をしています。

この問題は、次回に、考えます。

 

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