ベースカーブとダイナミックレンジの関係

今回は、darktableのベースカーブのプリセットとダイナミックレンジの関係を考えます。

写真1は、darktableのベースカーブのプリセットです。基本的には、「メーカー名+like」という名前のプリセットカーブが準備されています。唯一の例外が、Pentax K-5です。このベースカーブだけが、likeがついていません。

次に、実際のプリセットカーブを見ます。

写真2は、利用者が多いと思われるcanon eos風のベースカーブです。これは、目の光の強さに対する反応を考えて、上に凸で、ルミナンスの大きな右よりのデータに重みを付けたカーブになっています。

写真3は、pentax風のベースカーブです。これも、目の光の強さに対する反応を考えて、上に凸で、ルミナンスの大きな右よりのデータに重みを付けたカーブになっていますが、canon eos風のベースカーブに比べると、カーブの曲がりが小さく、ルミナンスの大きな右よりのデータの重みは小さくなっています。

写真4は、pentax K5のベースカーブです。これのカーブは、写真3のカーブよりも、更に、曲がりが小さくなっています。

どうして、ベースカーブの差が問題かというと、センサーのダイナミックレンジは、通常はカメラ内で現像されたJpegファイルで比較されるからです。この時に、ベースカーブが直線に近いほど、センサーのダイナミックレンジが、Jpegに反映されやすくなります。darktableのHPをみると、最近のフルサイズのデジカメ、(特に、ソニー)のセンサーのダイナミックレンジは14EVあり、ベースカーブでは、そのダイナミックレンジがうまくJpegに変化されずに、中間トーンが失われるため、フィルミックRGBを開発したことが書かれています。つまり、最新のフルサイズセンサーのダイナミックレンジが、過去最大で、14EVと書かれています。ところで、WEBを見ていたら、K5のダイナミックレンジは14EVという記事がありました。K5は10年も前の機種で、APS-Cセンサーですから、14EVあることは考えられませんが、ひと昔前の機種の中では、ダイナミックレンジが広かった可能性があります。

写真5は、シーン参照ワークフローで読み込んだK5で撮影した画像です。フィルミックRGBのパラメータはデフォルトのままです。写真5は、明らかに露光が不足しています。注意すべき点は、この状態では、露光は右端まで来ていることです。つまり、露光をあげると白飛びしてしまいます。(注1)

写真6と写真7は、フィルミックRGBのパラメータを調整して、変換カーブを直線に近づけたものです。こうすると、ヒストグラムの右側に空きができますので、露光を上げても白飛びしなくなります。

つまり、以上から推測されることは、K5は例外的に直線に近いベースカーブを使うことで、Jpegのダイナミックレンジを確保した機種と思われます。カメラ内現像では、機種別のベースカーブが使えますので問題はありませんが、darktableで現像する場合には、メーカー別のベースカーブになるため、Pentaxの他の機種と大きくことなるベースカーブを採用しているK5では、不都合が生じ、単独のプリセットベースカーブが準備されたと思われます。ちなみに、Pentaxの利用者は、伝統的に、風景写真の愛好家が多いため、屋外での風景写真撮影に、特化してカメラをチューニングしたと思われます。筆者が、このカメラを使わなくなったのは、室内や動いているものでは焦点が合わないためです。今回、久しぶりに取り出してみましたが、ISO、絞り、露光を変更する部分の操作性は、大変良かったです。風景写真の愛好家の中には、筆者と異なり、焦点は無限遠でよいという人もいますので、その場合には、自動焦点の性能は問題になりません。

さて、写真1をもう一度見ると、Pentax以外で、メーカーごとのプリセットベースカーブが2種類あるメーカーが3つあります。キャノン、ニコンオリンパスです。この3つのメーカーの共通点は、各社がOEMではなく、独自のRAW現像ソフトを提供していることです。つまり、各社のRAW現像ソフトは機種名を読み取って、機種ごとに異なったベースカーブを採用しているものと思われます。一方、darktableでは、メーカーごとに、ベースカーブを分けているだけなので、メーカー内の機種ごとのべースカーブの違いに十分に対応できていないため、代替案(alternative)が提供されている訳です。(注2)

以上の情報は、シーン参照ワークフローでは、現像に、直接的な影響を与えるものではありませんが、フィルミックRGBのプリセットパラメータをどの程度調整すべきかという問題に対してはヒントになります。

 

注1:

この問題の原因は、フィルミックRGBのプリセットは、カメラメーカーや機種に関係なく共通になっているためです。フィルミックRGBには、ベースカーブを再現するつもりはないという姿勢です。結果的に、K5のように、ベースカーブが標準から大きく外れている場合には、露光も大きく外れます。

注2:

lightroomなどのRAW現像ソフトが、カメラの機種ごとのベースカーブの違いをどの程度、反映しているかは不明ですが、Canonのように、プリンタのセッティングをLightroomに合わせて最適化している場合には、機種ごとのベースカーブのデータを、アドビ社に提供している可能性が高いです。

 

f:id:computer_philosopher:20210218220321j:plain

写真1 ベーズカーブのプリセット

 

 

f:id:computer_philosopher:20210218220350j:plain

写真2 canon eos likeのベーズカーブのプリセット

 

 

f:id:computer_philosopher:20210218220413j:plain

写真3 pentax likeのベーズカーブのプリセット

 

 

f:id:computer_philosopher:20210218220431j:plain

写真4 Pentax K5のベーズカーブのプリセット

 

 

f:id:computer_philosopher:20210218220454j:plain

写真5 K-5の画像

 

 

f:id:computer_philosopher:20210218220519j:plain

写真6 フィルミックRGのシーンタブのパラメータ

 

f:id:computer_philosopher:20210218220547j:plain

写真7 フィルミックRGのルックタブのパラメータ