科学的方法の進化論(5)

(5)レイヤーと可視化

(Q:科学の2層構造をレイヤーで表わせますか)

 

1)GISとレイヤー

 

科学は、2層構造であると言いました。

 

例えば、次の構造です。

 

実測値=真の値+観測誤差

 

実測値がリアルワールドで、真の値が、サイエンスワールドになります。

 

これを、レイヤー使って書くと次になります。

 

真の値=>真の値のレイヤー

観測齟齬=>観測誤差のレイヤー

 

実測値=>実測値のレイヤー

 

実測値のレイヤー=真の値のレイヤー+観測誤差のレイヤー

 

式の上では、同型になりますが。

 

レイヤーの重ね合わせが、加算に対応していることになります。

 

似たような概念にゾーンがあります。

 

レイヤーや、ゾーンも、科学的方法と同じように、仮説検証の対象にはなりませんが、利用価値の高い方法です。

 

レイヤーやゾーンが、何故有効な手法(手順)かが、理論的に解明されているとは言えませんが、その効果の原因の一つは可視化(見える化)にあると思われます。

 

温暖化研究に使われるGCMのサイエンスワールドでは、世界は、(東経、北緯、標高、時間、属性値)の5次元のデータで表わされます。

 

GCMでは、全ての世界は、5次元のグリッド上のノードのデータ属性になります。

 

これも、レイヤーの一種と思われます。

 

デカルトは、1637年に、方法序説を書いて自分は存在すると言いました。 

 

方法序が、パリで書かれたと仮定します。

 

 パリの緯度は48.8566で、経度は2.3522、標高は35㎜です。

 

つまり方法序説は、(E48.8566,N2.3522,H=35㎜,TY=1637,Z)になります。

 

ここに、Zは、デカルトの存在です。

 

方法序説は、このノードについて述べていますが、他のノードについては、何もいっていません。

 

大抵の哲学は、1つか2つのノードしか問題にしていません。

 

皮肉なことに、グリッドは、デカルトの発明したデカルト座標系の産物です。

 

一般には、デカルトの業績では、方法序説が評価されますが、科学的な方法の視点からすれば、デカルト座標系の方がはるかに重要です。

 

デカルト座標系は、方法序説のように正しいか否かの議論に属しませんが、デカルト座標系がなければ、GCMはなく、温暖化予測もできなかったと思われます。(注1)

 

2)レイヤーの応用(A:科学の2層構造をレイヤーで表わせますか)

 

レイヤーの概念は、視覚化によって複雑な問題の理解を容易にします。

 

レイヤーには、色々なカテゴリーを使うことが可能です。

 

2-1)世代カテゴリー

 

WBCを見ていた人の年代別構成比は、70代が多かったと言われています。

 

データを10年刻みの年齢毎のレイヤーに分解できれば、10年後の姿が予測できます。

 

これは、コホートの基本的な考え方ですが、GIS上に展開すれば、レイヤーになります。

 

技術者などの専門分野別の空間に展開してレイヤーを作ることも可能です。

 

専門分野別の空間は、2次元展開されたスキル別専門分野使い、人口をプロットするなど工夫が可能です。

 

世代間のレイヤーは固定されている訳ではなく、マイグレーション(人口移動)を伴います。

 

技術者などの専門分野別の空間に展開したレイヤーでの平面移動はリスキリングに相当します。

 

このように可視化することによって、必要なリスリングのベクトルと人数が計算できます。

 

2-2)レジー



ジームシフトで考える世界は、農業社会、工業社会、デジタル社会です。

 

GIS上で、企業、工場、構造物などに、この3種類のどれかの属性をつけて、3つのレイヤーに分ければ、レジームシフトの状況がわかるようになります。

 

2-3)メタバース

 

リアルな世界をメタバースに写します。

 

この時に、対象のオブジェクト毎に、農業社会、工業社会、デジタル社会の属性値をつけます。

 

次に、この属性値を元rに、画像を3つのレイヤーに分けます。

 

VRゴーグルをつけて見るときに、(1)農業社会、(2)工業社会、(3)デジタル社会の3つのレイヤーを全てONにするか、特定のレイヤーをOFFにすれば、世の中のレジームシフトの状況が確認できます。

 

派生形として、実世界をゴーグルをとおして見るときに、オブジェクト毎に、(1)農業社会、(2)工業社会、(3)デジタル社会の3つのレイヤーをセットして、色をつける方法も考えられます。(1)黄色、(2)緑、(3)赤の半透明即をレイヤー毎につけます。

 

この色付きゴーグルを通してみると、人物が、どのレジームに生きているかがわかります。

 

DXを進めるときに、(1)農業社会と(2)工業社会のレジームに生きている人と話をしても時間のむだです。

 

色付きゴーグルで、(1)黄色または、(2)緑の色がかぶっている人との会話は、深入りしないようにして、(3)赤の色がかぶっている人と商談を進めると時間の節約になります。

 

このレジームによるタグ付けは、パターンマッチングの1種なので、画像識別と同じように、機械学習でできるようになります。

 

別のカテゴリーは人文的文化と科学的文化です。

 

人文的文化の人が偉くなると、人文的文化で、何でも理解できると思っているので、たちが悪いです。部下が説明に失敗すると、部下が悪者にされてしまいます。

 

こうした場合には、人文的文化の人に深入りしないことです。



あるEPM(Evidence-based policy、証拠に基づく政策)の説明資料は、最初に、記述統計と推測統計の違いが書かれていました。資料の終わりには、RCTを使ったEPMの説明になっています。

 

これは、ABCから始めて、英語の長文を読めるようになるような資料です。

 

これで学習しても、キーワードが頭の中にのこるだけで、理解は不可能だと思います。

 

「AI国家戦略」の原案が出てきましたが、同じ問題を抱えているので、内容は理解していないで、キーワードが並んでいるだけのはずです。

 

AI戦略を作るためには、データが必要ですが、データベースが遅れていて、データはありません。

 

1945年8月15日に、日本は終戦を迎えます。この時、極度の食料不足で、飢餓状態にありました。そこで、1945年(昭和20年)11月9日、政府は閣議で「緊急開拓事業実施要領」を決定しました。この時、開拓可能な農地のデータは皆無でした。データがあってもGISのない時代ですから、集計に数年かかったと思われます。なので、「緊急開拓事業実施要領」は、データを無視して、霞が関の机の上で、適当に作成したものです。海外派遣から日本に戻った人は食べられないので、緊急開拓事業に参加します。しかし、机上の空論の計画ですから、水がない極度の荒れ地も多く、食べられないので、入植後離農する人が多発しています。

 

今回も同じことが繰り返されています。AI離農が多発する(AI企業が倒産する)はずです。

 

国策IC企業のように、IC離農が多発していますから、次は、AI離農が起こると思われます。

 

データに基づくEPMは、政策のおまけではありません。主流なのです。

 

もちろん、EPMになれば、「AI国家戦略」のような人文的文化によるごり押しはできなくなるので、世界の常識のEPMが日本で採用される可能性は低いですが、科学に逆らえば、実績が上がらないので、どこかで、反転するはずです。

 

注1:

 

パースの目指していた哲学的伝統は、デカルト座標系のようなものかもしれません。

 

プラグマティズムは、アメリカの心理学、教育、行政組織の基本原理になっています。

 

The fixation of beliefは正しいか否かはさておいて、ツールとして、デカルト座標系のように大変便利なものです。