問い(とい)を発すること~経験科学の終わり

(適切な問いを発することが、問題解決の近道です)

 

1)アベノミクス法人税減税

 

以前、筆者は、次のように指摘しました。

 

ウォール・ストリート・ジャーナル紙が分析した2018年頃に比べると、最近のファーウェイのシェアは落ちていますが、2008年にはランクに入っていませんでしたので、中国のファーウェイの振興政策は成功したと言えます。

 

日本の法人税減税は、日本の電機メーカーが、世界のスマホ市場でシェアを広げる効果は全くなかったことがわかります」



2022年11月13日の東洋経済で、野口 悠紀雄氏は、「2004年から2021年の間の鉱物性燃料を除く貿易収支は、2065億ドルの黒字から、1309億ドルの黒字へと、756億ドル縮小していている。電気機械の黒字の減少は、756億ドルのうち、64%を占めている」と指摘しています。

 

日本の法人税減税は、電気機械の国際競争力の改善には結びつかず、アベノミクスは失敗したことがわかります。

 

アベノミクスの間に、雇用者数が、増えたので、アベノミクスは成功であったという論客もいます。しかし、非正規労働者の増加で、平均賃金は下がっています。

 

経済統計の中では、GDP、1人あたリGDPに比べれば、雇用者数は経済の実態を表わす指標としては、代表性の低い指標です。1人あたリGDPの変化を無視して、雇用者数の増加をもって、アベノミクスが効果があったというのは、詭弁で、フェイク情報です。

 

トランプ前大統領の発言には、フェイクが多いことが知られています。

 

しかし、日本のマスコミは、フェイク情報を垂れ流しにして、フェイク情報が蔓延しています。

 

筆者は、フェイク情報には、注釈をつけるべきだと思いますが、そのような事例は稀です。

 

2)問いの重要性

 

経済政策は、国会でも議論されますが、科学的な議論ではなく、時間のむだ使いと思われます。

 

前述のように、アベノミクスは雇用を拡大させ、株価を上昇させて、成功だったという論客がいます。

 

こうした論客は、アベノミクスの間に、賃金(1人当たりGDP)が増えなかったこと、技術進歩がなく、論文数のランキング、企業の国際競争力が低下したことは論じません。

 

こうした問題点を一つずつあげて反論することは可能ですが、手間と時間がかかります。

 

論客は、自説は反論可能であるが、それには、手間と時間がかかるので、完全に論破されることはないだろうと想定して発言している可能性があります。

 

そこで、次の問い(とい)Qを考えてみます。

 

Q:「アベノミクスが成功であったのであれば、次の10年も、アベノミクスを継続しますか?」

 

これに対する答えは次の2つのいずれかです。

 

A1:「アベノミクスは成功であったので、次の10年も、アベノミクスを継続します」

 

A2:「アベノミクスは失敗であったので、次の10年ば、プランBを行います」

 

読者の答えは、どちらでしょうか。

 

安倍政権と、菅政権は、A1だったと思われます。

 

岸田政権は、当初、新しい資本主義といっていましたので、A2のように見えます。

 

しかし、プランBが何かは不明で、迷走を繰り返しています。

 

迷走を繰り返せば、アベノミクス賛成派とアベノミクス反対派のどちらからも支持を受けなくなりますので、内閣の支持率は下がります。

 

野党は、アベノミクスに反対ですから、答えはA2のはずですが、与党を非難するだけで、プランBを提示していません。それでは、A2を想定している有権者の支持を得ることはできません。

 

官僚の無謬主義は、上を例にすれば次のC1の形式をとります。

C1:「プランA(政策A)は成功であったので、次の10年も、プランAを継続します」

 

C2:「プランAは失敗であったので、次の10年は、プランBを行います」

 

C1を採択すれば、変わらない日本が出来上がります。

 

デジタル社会へのレジームシフトを前提に考えれば、ほぼすべての政策は、時間の問題で、C2のパターンになります。

 

つまり、C1を続ければ、先進国から、開発途上国に逆戻りします。

 

ヒストリアンの大好きなC1は、環境が変化しない場合にしか成立しません。

 

環境は急変していますから、C1は破綻します。

 

3)まとめ

 

上司ににらまれないように、無謬主義を続ければ、誰も、プランBを検討しなくなります。

 

岸田氏は、政権をとってから、プランBを考えればよいと考えていたフシがありますが、プランBを考えることは容易ではありません。場合によっては、不足しているデータを集めるための時間が必要になります。

 

2022年11月17日の日経新聞(26面)に、ロシアでの継続事業の割合が出ています。

世界全体40%、米国20%、英国30%、日本50%になっています。

 

COP27に関連して、木村正人氏は、新気候研究所のニコラス・ホーナー教授の「日本は国民1人当たりの排出量は多く、削減計画がテーブルの上にあるのは良いことだが、明確な実施政策を欠いている。日本は段階的に石炭を廃止しなければならないが、そのための計画がない」という発言を紹介しています。

 

ロシアの継続事業も、二酸化炭素の削減でも、日本の問題は、課題の内容に対する対応ではなく、プランBをつくる能力がないことが大きな原因と思われます。

 

Q:「アベノミクスが成功であったのであれば、次の10年も、アベノミクスを継続しますか?」という問いは、アンケート調査で、聞くことも可能です。

 

適切な問いをたてて、無謬主義を捨てて、プランBの検討を始めることが急務と思われます。

 

なお、プランBの検討は、正解が、A1かA2かに関係ありません。一般に、正解が出るまでには時間がかかります。その前に、プランBを検討しておくことが原則です。

 

ロシアの継続事業については、シェルやAppleは開戦後1週間以内に対応を決めています。

これは、予めプランBを検討していたことを示しています。

 

引用文献



日本人は今の貿易赤字がいかに深刻かを知らない 2022/11/13 東洋経済 野口 悠紀雄

https://toyokeizai.net/articles/-/629864 

 

環境対策で中国に並ぶ「悪役」だったインド、なぜ一躍ヒーローに? 日本とここが違う 2022/11/19 Newsweek 木村正人