ツィッターか、日航か~プランBの検討

ツイッターには、日本経済再生のヒントがあります)

 

1)停滞の行方

 

日本企業の多くは、設備投資、人材への投資が停滞して、成長が止まっています。

 

その結果、中国や欧米の企業に対して、競争優位性を失いつつあります。

 

これから見える課題は、イノベーションをして、中国や欧米の企業並みに生産性をあげられないと、先行きは、危ないということです。

 

政府は、厚生年金を拡充していますが、企業が倒産などで、企業が入れ替わる場合、厚生年金は役に立ちません。

 

年功型雇用で厚生年金が充実している企業とジョブ型雇用で、現役時の給与が高く、自分で試算運用する場合を考えれば、前者は捨てて、後者をとるべきです。

 

実際に、政府も、資産運用のための金融教育を高等学校に導入する計画ですから、金融教育からみれば、政府も後者(ジョブ型雇用)を推奨している訳で、政策は支離滅裂です。

 

日本では、過去に、「企業が倒産などで、企業が入れ替わる」ことをイメージしにくいのですが、筆者は、大半の企業がかつての日本航空のように、年金の再編を迫られる状況が一番近いイメージだと考えています。

 

2022年の時点で、日本の企業は、中国や欧米の企業に対して、競争優位性を失いつつありますので、これは、今までの経営に問題があったことがわかります。

 

つまり、過去の歴史を振り返って問題点を分析して、同じ間違いを続けない方法(筆者の用語では、歴史の再構築)を明らかにする必要があります。

 

歴史の再構築をして、問題点を改善をしなければ、あと数年で、かつての日本航空と同じように経営危機になって、年金カットの企業が続出すると思われます。

 

「過去の歴史を振り返って問題点を分析して、同じ間違いを続けない」という表現は余りに一般的です。

 

そこで、今回は、日本航空ツイッターを例に、この問題を考えてみます。

 

2)日本航空の例

 

2-1)前期

 

日本政府による「日本航空株式会社法」が、1953年に施行されてから、1987年に廃止されるまで日本のフラッグ・キャリアでした。

 

1970年11月20日閣議了解「航空企業の運営体制について」では、次の整理(45/47体制)がなされています。

 

(1)航空輸送需要の多いローカル線については、原則として、同一路線二社で運営する。

(2)国際定期は、原則として日本航空が一元的に運営、近距離国際航空については、日本航空全日空提携のもとに余裕機材を活用して行う。

 

1985年に、45/47体制が廃止され、旅客航空は、市場経済になります。国際定期は独占市場が崩れて、全日空が、国際定期に参画します。

 

1985年9月には、中曽根康弘首相が進める国営企業特殊法人の民営化推進政策を受けて、日本航空は、完全民営化の方針を打ち出し、その後準備期間をへて1987年11月に完全民営化されます。

 

2-2)中期とパンアメリアメリカン航空

 

日本航空は、 1983年に、国際航空運送協会の統計による旅客・貨物輸送実績が、パンアメリカン航空を超えて世界一になりました。

 

パンアメリカン航空は、1970年代半ばには、自らがローンチ・カスタマーとなったボーイング747の大量導入による供給過多と価格競争によって収益性が悪化します。

 

ボーイング747を導入した航空会社(日本航空や英国海外航空、ルフトハンザドイツ航空やノースウェスト航空など)でも、同じ問題を抱えました。

 

1978年10月24日にジミー・カーター政権は航空規制緩和法(Airline Deregulation Act,ディレギュレーション)を施行し、その結果、デルタ航空アメリカン航空ユナイテッド航空コンチネンタル航空など、これまではカナダやプエルトリコなど近距離線しか飛べなかったアメリカの競合他社が国際線への進出します。

 

パンアメリカン航空も国内線網の充実を図り、これまでは他社に奪われていた国際線からの乗り継ぎ客を自社便にそのまま乗り継がせるためナショナル航空を買収しますが、十分な効果が出ませんでした。

 

財務が悪化したため、1985年には、日本路線を含むアジア太平洋地域の路線を、ハブ空港である新東京国際空港(現成田国際空港)の発着権やアジア諸国や日本国内の以遠権、社員や支店網、整備拠点や地上支援機材、アジア太平洋地域で運航していたボーイング747の経年機と同SP、ロッキード L-1011 トライスターとボーイング727の一部、さらに「インカンバント・キャリア(日米間路線における先入航空会社としての既存権利を所有する航空会社)」の権利ごと、ユナイテッド航空に売却します。

その後も、同様の資産の切り売りをしますが、立ち行かなくなり、倒産します。

 

 ユナイテッド航空のような後発航空会社は、パンアメリカン航空など大手航空会社の半分程度の給与でした。新興航空会社は、大手航空会社をクビになったパイロットやクルーを半額程度の人件費で雇ったと言われています。転職先の航空会社が倒産して、再度、新興航空会社に就職するときの給与は元の4分の1程度になったとも言われています。

 

日本航空は、ユナイテッド航空に水準を合わせた賃下げをしませんでしたので、パンアメリカン航空と同じ経営上の課題を抱えていました。結局、価格競争力がなくなり、1991年に倒産に至ります。



2-3)後期

 

日本航空は、2010年1月19日 - 親会社である株式会社日本航空および、株式会社日本航空の子会社であるジャルキャピタルとともに、東京地方裁判所会社更生法の適用を申請し倒産し、西松遥社長以下取締役は即日辞任しました。

 

2010年2月1日 - 日本エアコミューター代表取締役社長大西賢が代表取締役社長兼グループCOOに、京セラ株式会社代表取締役名誉会長稲盛和夫代表取締役会長兼グループCEOにそれぞれ就任し、新たな会社としてスタートしています。

 

これから後の話は広く知られているので、省きます。

 

経営が悪化した原因は、国際労働市場の4倍近い高い労働賃金を維持したことです。

このため、経営改革では、賃下げが行われ、退職者の年金のカットも行われました。

 

なお、パンアメリカン航空は、1991年に倒産していますので、日本航空の倒産までには、19年の時間が経過しています。その19年間に有効な対策を打てなかったことについて、経営陣の責任が問題になります。

 

日本航空の倒産については、経営責任を問われていませんが、福島原発事故に関しては、東京電力の幹部の責任が問われました。

 

今後は、同様の経営責任が問われる場合も増えてくると思われます。



3)ツイッターの例

 

米実業家イーロン・マスク氏は2022年10月27日、ツイッターを440億ドルで買収し、パラグ・アグラワル最高経営責任者(CEO)など上層部を直ちに解雇しました。

 

28日、一部のTwitterエンジニアのもとにマスク氏の部下から「過去30から60日間に自分のコンピュータで書いたコードをプリントアウトし、さらにマスク氏の下でコードを評価できるよう準備するように」という要望が届きました。The Washington Postによると、準備されたコードはテスラのエンジニアと技術専門家によって検証されたそうです。

 

その後、マスク氏は、ツイッター最高経営責任者(CEO)に就任しました。

 

マスク氏は、買収完了前に取締役だったブレット・テイラー氏やアグラワル氏、オミッド・コーデスタニ氏ら9人の取締役を解雇し、唯一の取締役になりました。

 

マスク氏は、人員削減について自身のツイッターに「残念ながら会社は(従業員を雇い続けることで)1日あたり400万ドル(およそ5億8000万円)を超える損失を出しているため、ほかに選択肢はない」と投稿し、コスト削減のための手段だと説明しています。

 

マスク氏は、11月4日に全世界の従業員7500人の半分に当たる約3700人に解雇を通告しました。

 

これは、ツイッターの前のCEOが売り上げが上がらないのに、人員を2倍に膨らませた経営を元に戻す動きです。

 

ツイッターイーロン・マスクCEOは、社員宛に電子メールを送り、成功するためには極めて激しく仕事をする必要があるとして、長時間猛烈に働くことを求め、社員として働き続けたい場合には、リンクの「はい」をクリックして意思表示するよう求めました。



4)経営計画の比較

 

イーロン・マスク氏の行動には一貫した理由があり、無駄なこと、意味のないことには時間を使わないと言われています。

 

ツイッターの主な資産は、ソフトウェアです。

 

競合他社に比べて、良質で独創的なソフトウェアを作り続けることができるかで、企業価値が決まります。

 

ソフトウェアを作るのは人間ですから、如何にして優秀な高度人材を確保できるかが、企業価値を左右します。

 

マスク氏は、CEOになる前に、75%の人員を削除するといっていました。

 

マスク氏の改革案をプランBとして、日本航空タイプの改革案をプランAとします。

 

給与は筆者の推定です。



プランA)人員の削除0%。平均給与50%。

 

プランB)人員の75%削除。平均給与200%。

 

ツイッターは、前CEOのジャック・ドーシー氏が、約2倍に増員する前は、黒字でしたが、増員後赤字が続いています。

 

人員が2倍になっても、平均給与を半分の50%にすれば、総人件費は変わらないので、黒字にすることができます。

 

これは、日本航空型の改革案(黒字化案)です。

 

円安を期待したり、非正規採用を増やす方法も、基本的なコンセプトは、平均賃金を下げて黒字化する経営戦略です。

 

つまり、最近の日本企業の経営改善は、プランAが多いことがわかります。

 

ツイッターについては、人員削減の話ばかりが入ってきますが、ジョブ型雇用では、能力に見合った給与を払わないと、社員が退職してしまいます。

 

75%の人員を削減する場合、残った25%の処遇が悪ければ、優秀な人材が流出してしまいます。そこで、残った25%の社員の給与を2倍(200%)にすると仮定してみます。

その場合でも、総人件費は半分になり、黒字化が可能です。

 

つまり、プランAとプランBを比較すると、総人件費は、どちらも同じです。

 

プランBでは、働かないおじさんと呼ばれるような社員はクビになります。

更に、働いているが労働生産性の低い人(あまり働かないおじさん)もクビになります。

 

プランAでは、誰もクビになりません。

 

さて、読者がビジネススクールの教授だったと仮定します。

 

2人の学生がいて、ツイッターのケースメソッドで、それぞれプランAとプランBを提案してきました。

 

教授はコメントをつけて、どちらの案が優れているか、評価する必要があります。

 

読者は、どちらの案を推奨するでしょうか。

 

「競合他社に比べて、良質で独創的なソフトウェアを作り続ける」には、どちらが有利か考えれば、答えが求まります。

 

次に、プランAとプランBを国の経済レベルで考えます。

 

プランAもプランBも、ツイッター社の売り上げは同じなので、ツイッター社のGDPに対する寄与は同じです。

 

しかし、プランBでは、退職した75%の人が、新しい仕事につきますので、プランBの方が、GDPが増え、経済成長します。

 

プランBで、給与が2倍になった人は、可処分所得が増えますので、消費を多方面に拡大します。

 

退職した75%の人がリスキリングで、技術を身に着け、労働生産性を上げれば、経済成長は更に促進されます。

 

リスキリングは、教育施設のコンテクストでは、教育の一つですが、労働市場の中では、再就職の形態の一つです。つまり、失業しなければ、リスキリングはできません。

 

IT系の知識を見るだけで、苦労しなくてわかってしまう人もいますが、そのような人は高度人材で、リスキリングが必要ない人です。

 

リスキリングが必要な人は、75%の労働生産性の低い方に属する人ですから、働きながら学ぶのではなく、集中的に学校等にいく必要があります。

 

現在、ネットワークで、無料で学べる大学のコースがありますが、統計をとると、大学を卒業していない人が、コースを卒業する割合は低く、コースの卒業生の多くは、既に、大学の卒業資格をもった人であることがわかっています。

 

5)まとめ

 

日本経済の停滞は30年続いています。

 

その間には、年功型雇用を維持しながら、労働生産性をあげる都合の良い方法があるに違いないと思われてきました。

 

年功型組織を温存しながら、リスキリングが効果があったというエビデンスはありません。論理的に考えればありえないことがわかります。

 

エビデンスを無視して、情報を都合のよいように解釈することが繰り返されています。

科学的に誤った方法で、成果が得られることはありません。

 

今回のタイトルは、「ツイッターか、日航か」でした。この表現は、「プランBか、プランAか」の意味です。



日本の労働生産性を上げる答えは、「ツイッターか、日航か」を正しく選択することで、他に都合の良い答えがあるという根拠のない幻想は捨てるべきです。

 

IT系の企業の場合、主な資産はソフトウェアであり、ソフトウェアをつくる高度人材です。

プログラマー労働生産性には。30倍弱のバラツキがあります。

このため労働生産性の低いプログラマーをクビにしてもほとんど影響はありません。

逆に言えば、プログラマーの頭数をそろえても、他社に対して競争優位なソフトウェアを組めなければ、経営上は、IT人材増員の効果がでません。高度人材を抱えられるかが、キーになります。

 

デジタル社会では、多くの企業の資産がソフトウェアになります。

 

2022年時点では、日本には、巨大IT企業はありませんので、企業の中心資産がソフトウェアである企業がないことになります。

 

地下資源などハードウェア依存の企業は、今後も必要ですが、市場での売り上げや利益は、ソフトウェアに依存する企業が増えてきます。

 

ソフトウェア中心企業への移行に失敗すると、デジタル社会へのレジームシフトができなくなります。

 

(補足)

 

最初の原稿のプランAとプランBの内容を入れ替えました。

 

引用文献

 

イーロン・マスクが買収したTwitterに、“大変革の時代”がやってくる 2022/10/31 WIRED

https://wired.jp/article/elon-musk-twitter-deal-chaos/

 

テスラのエンジニアがTwitterスタッフの書いたコードを評価している 2022/10/31 Gigazine

https://gigazine.net/news/20221031-tesla-engineers-reviewing-twitter-code/

 

マスク氏、ツイッターのソフト技術者全員を即日招集-準備時間わずか 2022/11/19 Bloomburg

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-11-18/RLKBW2T0AFB501