ローカル・オプティマムの政党政治~プランBの検討

自由民主党は、ローカル・オプティマムな政党です)

 

1)与党の構造問題

 

アベノミクスでは、第3の矢として、産業構造の転換政策をあげていましたが、結局、金融政策と財政政策しか実現できませんでした。

 

財政政策とは、歳入面では増税(または減税)や国債発行の増減、歳出面では公共事業の拡大(または縮小)によって、景気の拡大や抑制を図る政策です。 

 

経済政策は、マクロとミクロに分かれます。

 

マクロ経済政策としては、財政当局が実施する財政政策、中央銀行が実施する金融政策があります。

 

ミクロ経済政策としては、競争政策、経済的規制政策、産業政策があります。

 

産業政策は、特定産業に政府が、補助金、税制恩典、政府系金融機関による低利融資を施す政策です。

 

典型は、フリードリッヒ・リストの幼稚産業保護論・産業政策です。

 

産業政策が必要か、産業政策に効果があるかについては、ウィキペディアを見ても議論がわかれています。

 

ここでは、次の点を指摘しておきます。

 

(1)アベノミクスを始めとして、失われた30年の間に、膨大な産業政策の補助金が投入されましたが、日本全体の産業の競争力の向上にはつながっていません。つまり、30年間の実績でみれば、産業政策の経済成長への効果は、極めて低いです。

 

(2)小さな政府や、財政均衡を考えるのであれば、産業政策は、ゼロにすることが望ましいことになります。日本の税率をみれば、大きな政府には無理があるので、税率をかえない限り、小さな政府を目指すべきだと思われます。そうしないと国債依存度が下がりません。

 

(3)税制恩典で、納税していない企業も多くあります。補助金や税制恩典は、市場経済をゆがめてしまうので、場合によっては、経営の効率性が失われる政府の失敗を引き起こします。日本企業のDXは世界的にみて突出して遅れているので、政府の失敗が起こっている可能性があります。

 

(4)データサイエンスで考えれば、産業政策の補助金等は、政策効果のエビデンスを測定して、フィードバックをかけるべきと思われますが、この点の透明性は低いです。フィードバックがかかれば、実績の効果の低い補助金は、随時打ち切りになるので、今頃は、必要な予算額は減少しているはずです。

 

アベノミクスでは、産業構造の転換政策は成果が上がりませんでした。

 

政府は、11月28日に、「新しい資本主義」の実行プランを閣議決定する予定です。

 

その内容は、産業政策が主体で、テーマ別の予算を貼り付けています。

 

筆者は、政策の内容よりも、内容が決まったプロセスに関心があります。

 

例えば、アベノミクスの産業構造の転換政策が失敗であったと考えるのであれば、失敗原因を分析して、今回の実行プランでは、失敗を繰り返さないプロセスが含まれている必要があります。

 

しかし、それらしいプロセスは見当たりません。

 

そうなると、失敗が繰り返される可能性を考える必要があります。

 

テーマ別の予算を貼り付ける方法は、典型的な戦術方式です。

 

つまり、この方法は、ローカル・オプティマムの間違いを含んでいるはずです。

 

グローバル・オプティマムな産業政策は、産業構造が転換したあとの企業に対して補助金をつける方法です。産業構造の転換前の企業に、補助金をつければ、ゾンビ企業がはびこるだけで、産業構造の転換の足を引っ張ることになります。

 

しかし、そのような政策は、「新しい資本主義」の実行プランには含まれていませんので、ローカル・オプティマムな政策と思われます。

 

アベノミクスから始まって、10年くらい経過して、政権が変わっても、ローカル・オプティマムからは、ぬけられていませんので、与党には、ローカル・オプティマムからは、ぬけられない理由がある気がします。

 

2)ローカル・オプティマム政党の仕組み

 

与党自民党は、多数派工作のために、政策を明示しない政党です。

 

古谷経衡氏は、「野党支持率が伸びないのは、自民党内にメタ的野党構造があるから」と言います。あるいは、「メタ的に自民党の中に『党内野党』という極が無数に存在する」ともいっています。

 

これは、言い換えれば、野党の政策は、探せば自民党の政策の中に必ず見つかると言い換えることもできます。

 

具体的に説明します。族議員を考えると分かり易いと思います。

 

建設業界をバックにした議員がいて、国土交通省の官僚と、建設会社で、トライアングルを作っています。ここまではよく知られた話です。

 

文教族の議員がいて、文部科学省の官僚と、大学や教科書会社とトライアングルを作っています。

 

それよりは、弱いですが、環境関係の議員がいて、環境省の官僚と環境関係の企業とトライアングルを作っているかも知れません。

 

最近は、地球温暖化で、環境関連予算が伸びてきたので、環境関連の企業には、太陽光パネルの会社や、自然エネルギー発電の会社も入っているかもしれません。

 

こうして、各分野で、議員を中心に、補助金や公共事業の確保が行われます。

 

これは、言うまでもなく、ローカル・オプティマムです。

 

産業構造を変え、DXを進めるには、グローバル・オプティマムでなければ成功しません。

 

アベノミクスの第3の矢は、効果を発揮できませんでしたが、それは、安倍政権の怠慢が原因ではなく、「党内野党」を抱えている自民党の構造に原因があると考えることができます。

 

グローバル・オプティマムを目指すには、環境族の議員や環境省の官僚は、国土交通省のダム建設の妥当性や、文部科学省が、森林資源を使う紙の教科書を使い続けることに対して、調整する必要があります。これが、グローバル・オプティマムの基本です。こうした調整が成功すれば、意見の違いはなくなり、「党内野党」はなくなります。

 

現在は、個別の政策の間の整合性は、考えないローカル・オプティマムになっています。

 

金利政策を続けて、円ドルの為替市場に介入したり、円安を放置して、現金給付をするのは、トータルに考えれば、ナンセンスですが、トータルに考えると自民党は分裂してしまいますので、それは、タブーになっています。

 

このため、岸田氏は、「新しい資本主義」を争点にして、総裁選挙を戦うのではなく、総裁になってから、「新しい資本主義」を提案します。グローバルな経済戦略を組めば、その時は、自民党がなくなりますので、できません。

 

「新しい資本主義」というのは、簡単にいえば、「党内野党」のバランスを少し、調整しなおすことです。「新しい資本主義」によって、グローバル・オプティマムになるように、産業構造を転換して、DXを進めることは、自民党が、自民党でなくなることを意味しますので、それは、出来ない相談と思われます。

 

引用文献

 

産業政策 ウィキペディア

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%A3%E6%A5%AD%E6%94%BF%E7%AD%96

 

リベラルは何故こんなにも絶望しているのか~「保守」にあって「リベラル」に無いもの 2021/09/22 Newsweek 古谷経衡

https://www.newsweekjapan.jp/furuya/2021/09/post-18.php