「焼き芋の定理」と資本主義の未来

資本主義が限界を超えたという議論が多くなされています。

しかし、筆者は、データサイエンティストとして、言葉で考えることの限界を感じることが多くなっています。

「料理の実験」シリーズで、焼き芋を取り扱っています。

一部を引用します。


焼き芋の焼き方の解説のポイントは、温度管理です。

配慮すべき温度は、次になります。

  1. βアミラーゼの活性温度

  2. 糊化温度

  3. ペクチンの硬化・軟化温度

図1に、いくつかの文献から筆者がまとめた温度管理の最適範囲を示します。

緑色が、最適範囲です。

赤色が、回避すべき範囲です。

ごらんのように、赤色に重ならない緑色の範囲はありません。

つまり、単純に考えれば、「最適な温度範囲はない」=「美味しい焼き芋は焼けない」が正解です。


この結論は、理不尽です。

その理由は、前提が間違っているか、温度の範囲の空間的・時間的な変化を無視しているためです。

後者について言えば、サツマイモの温度というスカラーの値は、存在しません。ある値は、空間的・時間的に変化している分布です。

この値は、偏微分方程式で記載できます。

  • 空間的・時間的に変化している分布を、1つのスカラーの値に集約して論ずると矛盾した結論が得られます。

ここでは、これを、「焼き芋の定理」と呼ぶことにします。

さて、話題を、資本主義の限界や、資本主義の未来に戻します。

現在の資本主義は、空間的に多様な分布をしています。中国は、社会主義か、資本主義かよくわからないところがあります。

とりあえず、中国のような自称社会主義の国を除外しても、資本主義のあり方は、空間的・時間的に変化しています。

資本主義を仮に、経済財のフローと考えれば、偏微分方程式を立てて表現することができます。

一般均衡モデルは、社会会計行列をつかって、経済財の相対価格を計算します。

この場合、世界の経済財のフローに、中国は大きく組み込まれています。

偏微分方程式で考えると、資本主義と社会主義の間には、大きなフローが介在しているので、両者を独立して取り扱うことはできないことになります。

「焼き芋の定理」によれば、「資本主義の未来」という課題設定は、経済財のフローの連続性を無視した精度の悪い議論になります。

データサイエンスでいえば、交絡条件を無視している可能性の高い議論であるともいえます。

資本主義がどうなるかを論ずることは、大切かもしれません。

しかし、検討する場合には、分布を考えることと、中国の社会主義との相互作用を考慮して論ずる必要があります。

もちろん、「焼き芋の定理」は、「資本主義の未来」以外にも、適用可能な範囲は広いと思います。

突き詰めて考える、余分なものを切り捨てしまい1変数に集約することは、認知バイアスの一つです。

カーネマンは、「ノイズ」のなかで、とりあえず正規分布(平均、分散、2変数)で考えることを推奨しています。

正規分布は、粗いモデルですが、それでも、パラメータを1つから2つに増やすことで、違った結論に達することが多くあります。

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図1 温度管理の最適範囲